2021年5月29日22:10 永葉県大桑村腹谷家
上半身は圧倒的な再生能力と膂力で攻撃。
下半身は身を隠して奇襲し、隙を作る。
即席ながら、上下一体の戦術はかなりの脅威だ。
一方で知樹と瑩。具体的な戦術などなく、互いの連携も初めてだ。
しかし、知樹は戦闘に関してはこの戦いに順応できる程に経験が豊富。
瑩は異形の存在を一撃で葬り去る異能を持つ。
対等ではないが、光明はあった。
前村長と対峙する知樹はリボルバーを向けたまま詰め寄る。
それを座視するほど、彼も衰弱していない。
「お前さえいなければ、小娘など雑魚よッ!」
鋭い腸を用いた鞭の一撃、先端の速度は音速を超える。
その軌道を見抜くのは極めて困難。
知樹であっても、鎧通での防御は困難を極めた。
鞭の先端を鎧通の切先が掠める。
切れ味が鋭い故に、その勢いは緩まない。
音を超える金切り音と共に、肩を切り裂いた。
「ちぃっ」
強かに打った衝撃で、鞭の一部が宙を舞う。
並の人間ならば膝を突く痛み。
しかし幕内知樹は、並の人間ではなかった。
一撃を入れた油断。
先の例ではうまくいったという過信。
これらを複合した慢心が前村長に回避の判断を鈍らせた。
2発の銃声。リボルバーから放たれた38口径弾は前村長が持つ腸と彼の手のひらに風穴を穿つ。
「馬鹿がッ、この程度の傷は屁でもないわッ」
続く一撃。鞭を振り上げた。
すると、ぶちん。音を立てて長い腸が千切れ飛び、燃え盛る火の中に落ちた。
もし、どんな傷も治る究極の再生能力を持つのなら。
だとしたら、胴がふたつに分たれたままになどならない。
下半身がまた生えてくるか、下半身から上半身が生えて、2人に分裂するはずだ。
仮説はふたつ。
あえて前村長が手札を増やすためわざと放置しているか。
あるいは、限界を超えた損傷を無理して堪えているかだ。
裂けた手のひらと同じ長さになった腸を手放す姿を見るに、後者の推測が近いと見えた。
修復リソースを上半身に割り振っているだけで、かなり限界が近いのだ。
「ふんッ。こんなもの、はなから不要だ」
「なら大人しくしたらどうだ」
その言葉には従わず、前村長は咆哮を上げた。
人とは思えぬ絶叫に、思わず誰もが足と思考を止める。
そこに、本体が飛び掛かってきた。
「死ねぇッ!」
「甘いっ!」
瑩が間に入り、焔を纏ったナタで前村長を出迎えた。
傷ひとつで焔が全身を浄化し、滅する。
しかしそれは、傷がつけばの話だ。
鎧甲冑とは元来、刃を通さないための防具だ。
全身を装具で覆った鎧武者は当時の戦場における戦車同然。
故に、彼の腕を守る小手は瑩が振るったナタの刃を砕いた。
「なっ?!」
「邪魔だッ!」
瑩の身体が紙のように吹き飛ばされ、センタメの後部ドアに叩きつけられた。
「鬼武!」
「ふんっ、なんだ。脅かしおって。大したことないではないか」
そう。滅するのは焔に触れたのではなく、刃で傷をつけたものだ。
身を斬る前に防がれれば、それまでなのだ。
「次はお前だぁッ、よそ者め!」
前村長の歯がキラリと光った。
◆逆転のチャンスが───!