2021年5月29日22:13 小張県大牧市エアフロントパーク
「空自救難団所属のヘリが4機、大牧で動き出している」
僕がそう聞き、家を飛び出したのは30分前だった。
航空救難団
いたところで、別に珍しいことでもない。
しかし三つの情報が僕の興味を引いた。
ひとつは、この真っ暗な夜間での飛行という点。
ふたつは近辺に遭難者のニュースが流れていないところ。
救難隊の活動を逐次確認するほど、僕は暇ではない。
しかしその暇人たる友人が、見たと言うのだ。
「まだ飛んでないか?」
「ああ。
「見間違いじゃないのか?」
「だったら、俺が送った画像はなんだよ。どう見てもあれ、ドアガン用の銃架だぜ」
それについては、僕も意見に相違はなかった。
機体左側面のキャビンドアにあったそれは、間違いなく50口径の重機関銃を設置するための器具だった。
しかしそれは陸自ヘリに配備されている代物。空自にはないはずだ。
「あっ、
友人がSNSで目撃した呟きは、155ミリ自走榴弾砲が陸自駐屯地を出たというものだった。
それに連なる呟きでは、インタビューの結果単なる夜間訓練だったとの事だが……
「お前さ、これネットにあげた?」
「うんにゃ。追跡アプリで確認してからにするつもり」
追跡アプリで航路が表示されるのなら、存在していた明確な証拠となる。
されないのなら、ここは特殊作戦の現場というわけだ。
恐らくこの情報でバズって、承認欲求を満たすつもりなのだろう。
昔から続く、彼の悪癖だった。
「やめといた方がいいんじゃないのか?」
「なんで? 日本の秘密部隊が実在する、すげー証拠じゃん!」
あらゆる国に存在する一方で、絶対に認められない裏の部隊。
それが日本にも設立されたという噂がある。
今の総理が就任してしばらくしてから流れ始め、3自衛隊や警察、厚生労働省などから人員を集めたとされている。
口うるさいマスコミや野党すら口にしない噂話。
当然、僕も信用していなかった。
しかし、これは───
逡巡していると、動きが見えた。
ハンガーのドアが開き、内部でヘリがエンジンを始動させた。
それも、一度に4機。
「おいおい、こりゃどう見ても緊急発進だぞ」
「うひゃーっ! きたきたきたーっ!」
興奮する友人を横目に、僕もカメラを構えた。
超高倍率ズームに、最新の暗視装置。
下手な自動小銃よりも重いそれは、どんな状況でもあらゆる被写体を収める。
限界まで倍率を上げ、機体を睨む。
機体の塗装は航空救難団で採用されている濃紺と暗い水色の洋上迷彩。
装備自体は一見、標準的な仕様と同一に見える。
肝心のキャビンドアは───
思わず僕はシャッターを切った。
銃架どころではない。
ブローニングの設計した50口径の重機関銃。
そして、そのグリップを握る人間。
これを一度に収まる瞬間を捉えてしまったのだ。
「マジモンだ……でも、50口径なんて何に使うんだ?」
「ああっ。これ、4機全部積んでるぜ……」
友人の言葉通り、全ての機体が武装していた。
改めて内心に問う。なぜだ?
例えば、テロリストの拠点を襲撃するとしよう。
そこに重機関銃4挺も必要になるのか?
一撃で人体を分割し、コンクリートブロックを砕く弾。
それを連発できる代物だ。
まるで、下手な軍隊を相手にするような装備だぞ。
「ヤバくないか、これ」
「やべーって、絶対」
思慮の浅い友人にも、ことの重大さが理解出来たようだ。
してくれなくては困る。
中にいる人員も、よく見ると全員が目出し帽で素顔を覆っていた。
素顔を隠す自衛官。心当たりはそう多くない。
「陸自の特戦か、あるいは……」
「秘密部隊だ、間違いねぇ」
こちらはろくな照明もない、公園の暗がり。
だというのに、窓の一つに浮かんでいたふたつの目が、こちらを見ていた気がした。
「……見られてないか?」
「え? んなまさか……」
気のせいだ。確信しているのに、疑念が抜けない。
いやそもそも、見ていたからなんだ。機密漏洩で捕まえる気か?
少なくとも、日本にそれを罰したり摘発出来たりする法はない。
───相手は、非公式の部隊だぞ。
その一言が、あらゆる可能性を肯定してしまう。
「見なかった事にしよう」
僕は帰り支度を始めた。
友人も隣でそそくさと撮影器具を仕舞い出した。
「俺もっ。帰ろっと。何も見なかった、何も撮らなかった」
「ああそうだそうだ、そういう事にしよう。なっ」
もしかしたらこの会話も、誰かが聞いているかもしれない。
だからあえて、聞こえるような声量で。
その後は互いに言葉もなく、車に乗り込んだ。
すると真上で、飛び去っていくヘリが衝突防止灯を消した。
◆特殊作戦の気配───