TUONI ~闇を被った死神~   作:サークル『熊の巣穴』

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2021年5月29日21:59 小張県航空自衛隊大牧基地

 

 彼らにとって緊急招集は慣れっこだ。

 しかしそれでも、今回の招集には疑問が多かった。

 

「今回の任務、どうも腑に落ちないなぁ」

 

 装備の点検中、アサシン(A)班長の吉野(ヨシノ)慎吾(シンゴ)が独りごちた。

 実包を1発ずつ磨き、弾倉に押し込む。

 

「永葉の田舎にこんな装備、要る?」

 

 召集された彼らに与えられた装備はそれぞれの自動小銃に、人体に対しては過剰な破壊力の対物火器まであった。

 さらには、表向きは空自所属となっている救難ヘリが4機。

 機体側面のキャビンドアには、50口径の重機関銃まで備えている。

 

 どう考えても、身を隠しているテロリストを相手にする装備ではない。

 

「そうだな。軽い陣地いくつか落として来いと言わんばかりだ」

 

 デアデビル(D)班長である文毅(フミタケ)敏明(トシアキ)も肯定した。

 非公式部隊であっても、ブリーフィングでは作戦の必要性を訴える程度に背景を説明される。

 今回はそのブリーフィングすら行われていないのだ。

 

 ただ、集まって装備を点検しろ。

 その一言だけだった。

 

「気に入らないな。いつも以上に隠し事をしてやがる」

 

 寡黙な早瀬(ハヤセ)(リョウ)も、珍しく口に出して肯定した。

 もうひとつ、珍しいことがあった。

 

 普段は多弁な岩沢(イワサワ)まりあが口を開かないのだ。

 陽気で人懐っこい彼女がここまでの会話に乗らず、憂鬱な表情で顔を伏せるばかり。

 弾を込める手も、進みが遅い。

 

「岩沢さん、顔色がよくないな。大丈夫か?」

 

 長谷川(ハセガワ)ライナルトは部隊で最も誠実な利他主義者(お人好し)だ。

 メンバーの不調を放っておけず、真っ先に解決しようとする。

 同時に少々、鈍い(・・)面もある。

 

「いや、私は大丈夫」

「でも……」

 

 まりあもライナルトの性質は理解していた。

 彼の発言は善意100%で下心は一切ない。

 それでも、ウザい時はウザいのだ。

 

「……ごめん。フツーに気が立ってるだけ。大丈夫だから」

「こちらこそ申し訳ない。不満や不安があるなら相談に乗ろうか?」

「ありがと。でも、そういうのじゃないの。解消されるとしたら、これからかな」

 

 意味深な発言に、一同が耳を傾けたその時。

 格納庫の扉が開かれた。

 

 闇夜の世界から踏み込んで来たのはふたり組。

 情報担当の竹馬(チクバ)(ヒトシ)と、その上司白木(シラキ)知子(トモコ)だ。

 

「お待たせして申し訳ない。今から少しの間、手を止めて聞いて欲しい」

 

 その役職とは裏腹に、知子の容姿と声は少女のように若く可愛らしい。

 部隊の人間からは見目麗しいを通り越して、不気味と評されるほどである。

 

「これから目にする目標は日本のみならず、世界中の機密です」

 

 大きく出たものだ。ひとりを除いて、同じ感想を抱いた。

 しかしプロジェクターに映し出された画像を目にすると、背筋を凍り付かせた。

 

 人間の頭部に、肥大化した肉腫のようなもの。

 それらは光沢を持ち、理科の授業で目にした植物の葉緑体に似ていた。

 もっと類似するものを当てるはめるなら、ハチの複眼だろう。

 

 そんな不気味な器官を持った人間の画像が映し出されたのだ。

 インターネットで目撃したのなら、ホラーゲームの新作か。

 あるいは悪趣味な映画のスクリーンショットを疑うだろう。

 

アウター()ワールド(世界)からの侵略者。それが再び、永葉県大桑村で確認されました」

「おいっ。これ、何かの冗談だろ?」

 

 キメラ(C)班長、濱野(ハマノ)忠雅(タダマサ)は思わず口を挟んだ。

 彼女の口ぶりではまるで、このいかにもな怪物が現実。

 それも、二度目の出現と言わんばかりではないか。

 

 知子は質問に画像で返答した。

 続いて映し出されたのは、怪物の全身。

 

 人間の上半身に、両腕の肘から先はカマキリのような鎌。

 下半身はハチのように黒と黄色の縞模様を持ち、先端には巨大な針が伺えた。

 

 体長は3、4メートルはあろうと思われる。

 背中に見える翅らしきものが飾りでなければ、飛行も可能だろう。

 

 これが飛ぶ。そう考えるだけでも、人類にとっては脅威だ。

 害意があるのなら、なおのことである。

 

 幸いなのは、怪物の身体中に穿たれた銃創。

 これが死んでいると思われるところだ。

 

「これは現場から脱出した人間から提供されたものです。こんな化け物が田舎の村に複数存在しています」

「ウッソだろ、おい」

 

 慎吾が驚きのあまり声を漏らす。

 このレベルがまだウジャウジャいる。

 どう考えても、これの排除が自分達の仕事になるのだ。

 

「彼らはこの巨躯から繰り出す攻撃はもちろん、人間を洗脳する能力を持ちます」

「最近聞いた話だな」

「先の“アルファ”事件。それと同根の技術です」

 

 敏明の質問に下された回答で、一同は自分達が呼ばれた理由を再認識した。

 直接ではないが、あの事件と繋がっているのだ。

 

 続く画像は道端で力なく横たわる人々。

 件の洗脳された人間だろう。

 

 傍には包丁や鎌などの武器と思わしきものが転がっている。

 状態は様々で、急所を銃で撃ち抜かれたものが少数。

 大多数が外傷ひとつなく死亡していた。

 

「彼らを救う方法はありません。できる事は、他者を傷付ける前に排除する程度です」

「おい。いくらなんでも乱暴過ぎないか」

 

 冷酷とも取れる発言に、亮が口を挟んだ。

 寡黙で暴力的な面が前に出やすい男だが、その性根は人一倍うるさい(・・・・)性質なのだ。

 

「専門家から確認が取れています。術者本人が解いたのならば、可能です」

「不可能な理由があるんだな」

「アウター・ワールドの、術者になり得る住民は事実上の不死です。そのうえ、こちらを下等生物と見下している」

 

 一般的な不死と、彼らの不死には少々語弊がある。

 生物は、死ねば終わり。精々残された人々の心に残るぐらいのものだ。

 

 しかし、異界の生物は違う。

 ある程度高貴な(・・・)存在であれば、死後しばらくすると転生するのだ。

 

 子を成すことも出来る。

 その場合、子が産まれ落ちた瞬間に意識は子に移る。

 例外は向こうとの繋がりが絶たれている間だけ。

 

 不死を確信し、こちらを使い捨てと軽んじる存在。

 まともな交渉は不可能と言ってもいい。

 

「現在こちらへ侵攻してきたのは急進派。自分達以外の消耗には無頓着な、危険な勢力です」

「それも専門家の分析か?」

「その通り」

 

 以前の侵略がどのような顛末を辿ったのか定かではない。

 しかし、その専門家とやらが残留した向こうの人員なのはほぼ確実。

 そうでなければ、そこまで詳細な情報が日本側にあるはずがない。

 

 隠し事は多くとも、嘘をつかれた事はない。

 亮はひとまず、情報の信頼性を評価することにした。

 

「……質問は以上。失礼しました」

「術者を殺害すれば、洗脳された人間も死に至ります。甘い考えは捨てるように」

 

 誰しも頭の片隅にあった可能性は否定された。

 酷い話だがこれも考え方を変えれば、戦術のひとつになる。

 

「恐らく、敵は儀式を完遂してこちらと向こうの交通を完成させようとしています。完遂すれば、さらに大規模で対処困難な事態になります」

「総理の悩みの種が増えるってわけだ」

「官民問わず、多くの犠牲も」

 

 忠雅が軽い気持ちで発した独り言に、知子が付け足した。

 それを言われては、口を閉ざすしかない。

 

「失礼、失言だった」

 

 プロジェクターの画像が切り替わり、大桑村周辺の地図が映し出される。

 表示されている地名は西に大桑山城跡、東に大桑研修センター。

 間には城下集落と路沿集落の文字があった。

 

「衛星で確認したところ、城跡に複数の人員と物資。それに大規模な磁気異常が検出されています。部隊は付近でへリボーン(降下)し、儀式を無力化します」

「支援は? ヘリのドアガン(機銃)だけ?」

奈子川(なしがわ)駐屯地の第15野戦特科(砲兵)隊から、155ミリ砲を2両向かわせています」

「えっ、特科出すんですか?」

 

 慎吾は自分で聞いておいて驚いた。

 確かに規模不明、実力不明な相手に機銃程度の支援では不安なのは当然だ。

 しかしそれでも、まさか戦場の主役である砲兵隊がお出ましとは。

 

「不満ですか?」

「いや、過剰じゃないんで? ほら、俺らって一応秘密部隊なんでしょう?」

「出し惜しみして、被害拡大のシナリオだけは避けたい。だから最悪、そちらの人員も引き込みます」

「これまた、元公安が大胆なことで」

 

 あくまで、確実に事態を収束させるため。

 そういった意図があるのなら口出しは無粋だ。

 

「質問がある。洗脳された人間がいるとして、されていない人間との区別は?」

 

 ブッチャー(B)班長が静かに挙手した。

 誰もが考え、いつ切り出そうと考えていた問いだ。

 

 洗脳された人間を救う術がないとして。

 難を逃れた一般人と、どう識別できるのだろうか。

 

「強いて言うなら、攻撃性。それ以外ありません」

「錯乱している生存者だったら?」

「区別は不可能でしょう」

 

 知子は眉一つ動かさずに答えた。

 前の事件でも区別は不能だったのだから、言うまでもない。

 

「しかし洗脳を免れ、かつ生存している可能性の高い人間は絞れています」

 

 スライドが切り替わった。

 映し出されたのは少年少女の、恐らく学園生証で使われている写真。

 男の方はD班の記憶に焼き付いていた。

 

「幕内知樹、名北学園の一年。もうひとりは鬼武瑩。永葉南の二年生」

「男の方には見覚えがあるな」

「“アルファ”事件で乱入した人間です」

 

 この言葉で全員の記憶が繋がった。

 あの事件に介入し、自動小銃で武装した集団を手玉に取った少年だ。

 

「あいつ、またなのか?」

「また自分から首突っ込んだんじゃないだろうな」

 

 懸念とドン引きの混じったざわめきが起こった。

 騒ぎを静めるため、仁がファイルを叩いた。

 

「この画像のふたりは、高い確率で生存しています」

「根拠は?」

「機密です」

 

 男はともかく、女は完全に謎の存在。

 となれば、アウター・ワールドとやらの関係か。

 面々がそう察するのに時間は要さなかった。

 

「さて、他に質問は?」

「なし!」

 

 ここまで散々口を挟んだのだ。

 質問があるはずもない。

 

「これまでにない、難しい状況だと思います。しかし、事態の拡大と情報流出は終局的な結果に繋がります。各員の奮戦を期待します。以上」

 

 必要な話が終わると、各々が刃を研ぎ始めた。




◆特殊部隊、介入開始ッッッ
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