2021年5月30日00:00 永葉県大桑山城跡
「ラーイー様ぁ、見ててくださいぃ!」
「よそ者の目を抉り出してやるぅっ!」
かつての住民達は血眼で、敵の姿を探していた。
暴力と憎悪で支配されている頭の中がどうなっているか、定かではない。
しかし確かなのは、彼らもまた被害者であるということ。
そして、それが立ち止まる理由にならないということだ。
目指すは城跡で最も高く、広い本丸跡。
熊と揉み合った衝撃で弾帯とリュックが引き裂かれ、即応用の弾以外は散らばってしまった。
回収している暇はない。余計な荷物でしかなくなった残骸を放り投げる。
残弾は12ゲージシェル13発、
リボルバー用の.38口径弾は5発、つまりこれで打ち止めだ。
立ち上がった知樹は自身の状態を再確認し、リボルバーに最後の弾を装填した。
「死に晒せェッ!」
竹槍を前に構え、暴徒達が突進した。
そこへ腰にぶら下げていた化学灯を投げつける。
暗順応しきった目にとっては、至近に向かってきた光は強烈に感じられた。
しかし、遮られるのも一瞬。
先頭の男は記憶を頼りに突き抜けた。
手応えは───ない。
「あうっ」
槍の刺突をすり抜け、首筋に鎧通を突き入れる。
その勢いのまま逆に押し込む。
「俺ごとやれぇっ!」
刺された暴徒の断末魔に、他の暴徒達が応えた。
仲間の背中を目掛けて竹槍が突き出される。
それを聞いて素直にやられる知樹ではない。
素早く刃を引き抜き、亡骸を蹴り飛ばす。
「あっ!」
ドスドスドス、三つの凶器が命のない身体を貫く。
引き抜かれる前に懐に飛び込むと、まるで差し出すような動きで顎に銃口を押し付け、発砲する。
武器にこだわり過ぎて次の手が打てない残り二人に対して2連射。
たとえ銃弾で倒れても脳を破壊しない限り安心はできない。
もう動かないように、さらに1発ずつ。
向かってきたのはこれで全員。リボルバーも残弾なし。
過労と痛みで崩れそうになっている身体からは、1グラムでも重さを減らしたい。
単なる文鎮と化したリボルバーをそっと地面に置く。
まずは山道へ出なくては。
駆け足で月の明かりに向かう。
明らかに敵が待ち受けている場に向かうのは、知樹らしくない判断だった。
しかしもう、彼の身体は限界を迎えつつあった。
強行軍と呼んで差し支えない、日をまたぐ無茶な修行。
ほぼ休みや食事なしで数十人の人間と化け物三匹との戦い。
むしろ、今の今まで支障が出なかった方が驚きだ。
故に彼は縦横無尽に山を走り回るような体力はなくなっていた。
無理をすれば、転げ落ちるか動けなくなるか。
敵の手間を省いてやるぐらいなら、頭数を減らしてやろうという思いであった。
ゲートの先。待ち受けていたのは包囲網。
竹槍やチェーンソーで武装した暴徒達が門を囲うようにして待ち構えていたのだ。
「ああ、そうだよな」
しかし、ここを突破しなければお話にならない。
覚悟を決め、状況に集中する。
「……なんだ?!」
集中出来たからこそ、この異変に気付く事ができた。
高速で回転するブレードが空を切る音。
頭上から降り注ぐ、自然ではない光。
もし敵がそれを持っているのなら、もっと早く出ていたはず。
ならば、これは───
「伏せとけよ」
イヤーマフから無線を介した音声が届いた。
◆この声の正体は───!?