TUONI ~闇を被った死神~   作:サークル『熊の巣穴』

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2021年5月29日 23:56

日本 永葉県大桑村上空

■■■■所属

文毅敏明 二等空曹

 

「前方、地上に照明を視認」

 

 ヘリのコ・パイロットが報告した。

 報告を受けた敏明は身を乗り出してコクピット越しに暗闇を睨んだ。

 

 すると、路面に光を視認できた。

 複数の小さな光源に、白く反射する───恐らく自動車のボディ。

 

 確認しようにも、ヘリの速度では数秒で過ぎ去ってしまう。

 しかしわざわざ旋回して戻るほどでもない。

 

「あの辺りは県道32号線のはずだ」

「敵かね」

「さあ。生存者かもな」

 

 保護は彼らの任務の一環だったが、最優先ではなかった。

 今やるべきは、この状況の根っこを断つことにある。

 

「地上はこちらにお任せを」

 

 そう言ったのは今回付いてくることになった竹馬仁だった。

 本来彼は情報・捜査担当の人員だが、頭数確保のため回されていた。

 

「お巡りさん、足引っ張らないでよ!」

「精一杯努力させて頂きます」

 

 まりあの軽口に、仁はにこりと笑みを浮かべて応対した。

 一見、単なる壮年の男だが、体格をよく見ればただ者ではないことが伺える。

 警察では通常配備していない、自動小銃をはじめとした装備も彼は容易く操作している。

 

 恐らく、足を引っ張るようなこともないだろう。

 

「各員、暗視装置(ナイトビジョン)装着」

 

 ヘルメットに装備した暗視装置を下ろす。

 すると一寸先も見えない閉ざされた(・・・・・)夜景が一変。

 緑色を帯びた大桑山周辺の景色が開かれた。

 

「間もなく大桑山城跡……視認! こいつぁ……」

 

 パイロットは絶句した。

 山頂の辺りに、何かが建っている。

 もちろん城ではなく、言葉にするなら凱旋門と呼ぶべきか。

 

 そんな巨大な代物が、かつての城跡にそびえ立っていたのだ。

 

「てっぺんに直接ってのは無理そうだな」

「ええ。第二降下地点、二の丸跡を目指します」

 

 明らかに敵が待ち構えている地点、そのうえ構造物が大きすぎる。

 本丸への直接降下は断念し、少し下の広場である二の丸跡に機首を向ける。

 

 県道上空を南下する形でアプローチし、城下集落上空で旋回。

 そこで二の丸跡の安全を確保する。

 

「二曹、見えるか?」

「……ああ、民間人(・・・)視認!」

 

 パイロットの報告を受けるまでもなく、その姿は見えていた。

 二の丸跡手前の小さな広場。

 そこで暴徒達に包囲される、ひとりの男。

 

 敏明にはこの状況で大立ち回り出来る人間に、ひとりだけ心当たりがあった。

 さらに凝視すると、頭部にヘッドセットらしき者が見えた。

 

「支援するぞ。こっちの声をトランシーバーで通信できる全帯域に中継してくれ」

「了解」

 

 注文をつけると、班員全員が右側面のドアで重機関銃の側で銃を並べる。

 そしてそれぞれの小銃に装着したライフル・スコープを覗く。

 

「照明、向けます」

 

 ヘリに搭載されたサーチライトが彼の周辺を照らした。

 

「伏せとけよ」

 

 ドドドドド。50口径の重機関銃が火を噴く。

 放たれた12.7mmの弾丸が土とアスファルトをほじくり、時々暴徒の身体を砕いた。

 頭部だろうがつま先だろうが、当たれば一撃で死に至る弾丸の雨。

 

 パパパパパッ。5挺の自動小銃が火を噴いた。

 猛烈な勢いで弾を吐き出す機銃とは対照的に、精密な狙いと減音器(サプレッサー)を用いた狙撃。

 音も光もなく弾が射出され、暴徒の急所を正確に貫く。

 

 ライナルトは民間人の至近にいたエプロン姿の男を狙っていた。

 心臓と肺に1発ずつ命中させたはずだが、不思議と倒れない。

 

「馬鹿な、急所だぞ?!」

「頭はどうだ」

 

 敏明の提案を即座に実行。

 すると、チェーンソーを滑り落とし、その場に崩れ落ちた。

 

「倒したっ」

「常識が通じないのもいるらしい」

 

 ライナルトは敏明と同レベルのマニアであり、射撃の腕も誰もが認めている。

 彼が狙いを外したとは誰も考えていない。

 ましてや、誰もが見ている最後のひとりである。

 

「クリア」

「降下用意、民間人を保護する」

 

 左側面のドアを開くと、搭乗員が機体からロープを垂らした。

 敏明が下の彼へ視線をやると、膝を突く姿が目に入った。

 

「まずそうだ、急げ!」

 

 ロープを両手で掴み、足で挟み込みながら降下する。

 ファストロープ降下と呼ばれる技術で、四肢でブレーキを掛けながら下へ降りるものだ。

 危険だが、最も素早い降下である。

 

 地面に降り立つと、D班は駆け足で彼のもとへ向かう。

 見れば、腹部に負った傷にガーゼを詰め込んでいる最中だった。

 

「……またあんたらか」

 

 民間人。

 幕内知樹は顔を隠した彼らを即座に見抜いてみせた。

 その顔は、ほんの2週間前よりもずっと老け込んだように見えた。




◆不死身の死神が跪いた───!
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