2021年5月30日00:07 永葉県大桑山城跡二の丸跡地
自動小銃と重機関銃による、圧倒的な火力。
金属の雨は知樹を包囲していた敵を瞬く間に肉塊へと変えてしまった。
ヘリがすぐそばで
誰かが降りてくる。それは少なくとも、敵ではない。
認めたくないが、安心したと言わざるを得ない。
膝を突き、続いて腰を下ろす。
援護があるうちに、致命傷一歩手前の傷に対処しなくてはならないためだ。
腰のポーチに入っていた、止血剤入りのガーゼ。
これを熊の牙で穿たれた傷に押し込む。
「ぐっ……があっ」
猛烈な痛みだが、今まで理不尽に死んでいった人々を思えば些事に過ぎない。
その思いで、知樹は苦境と腹の底から湧く弱音を押し留めた。
あとは包帯で飛び出ないように処置するだけ。
空からやって来た人々が近づいたのはその頃だった。
「また、あんたらか」
先頭に立つ男。
ハンナや文華が誘拐された時、現れた男達。
背格好と目付きだけで識別出来た。
「それはこっちの台詞だ。傷はどうだ?」
「俺はまだ……戦える」
「その様子なら、安静にしていれば大丈夫だろう」
彼は言外にこう告げていた。
『お前が戦う必要はない』
メッセージは正確に伝わっていた。
本人が承服するかは別として。
「……鬼武が、女の子が敵の
「鬼武……?!」
その時、色黒の女が尋常ならざる様子で知樹に詰め寄った。
「鬼武瑩、間違いない?」
「……どこでその名前を?」
彼女は知樹の問いに答えなかった。
確信を持った彼女は隊長と思われる男に視線をやった。
「奴らが“裁定者”の力を奪ったら、まずいことになる」
「……わかるように言ってくれないか?」
知樹もそのワードを聞いていたが、意味を正確に理解しているとは言い難い。
ただ、同族を傷ひとつであの世送りに出来る力だ。
手に入れば、組織内で抜きん出た力を持つことになるだろう。
「飛翔体を目視! 方位
「ガンズ、やっちまえ!」
イヤーマフから飛び込んで来た声。
その方向を見やると、ヘリに向けて飛ぶ何かが見えた。
「カサンディ……!」
その特徴的なシルエットを見れば、即座に断定出来る。
仕留めたはずの化け物が、蘇ったというのか。
カサンディはヘリの1機を追い、3機がそれを追尾していた。
重機関銃で攻撃してはいるが、互いに高速飛行中。
命中弾は確認出来るが、致命打を与えるには少なすぎた。
「話はあとだ、作戦を続行する。竹馬さん、あんたはこいつの保護を」
そう言われて、知樹は初めて仁の存在に気付いた。
「お任せを」
普段のヨレヨレスーツ姿と違い、戦闘服と防具をきっちり身に付けている。
だとしても、気配すら察知出来ないとは。
知樹は己の未熟を痛感した。
「さ、幕内さん。座れるところへ行きましょうか」
彼の肩を借りて、展望台の長椅子へ向かう。
その間、消えて行く特殊部隊の背中から視線を外せなかった。
ふと、思い出した。
「しまった」
「どうかしました?」
「連中、見えない罠を仕掛けてる……警告しないと」
不可視の罠。隠し道に仕掛けられていたそれは、常人には察知さえ出来ない。
彼らもまた、同様だろう。
引っ掛かれば、何が起こるやら。
仁は仁で、その言葉を聞いても何ひとつ動揺しなかった。
わかりやすい笑みを向けながら、語り掛ける。
「ご安心を。彼らの中には、エキスパートがいますので」
エキスパート、専門家。
20年前の戦い、魔法少女───
包帯で傷口を保護される最中、知樹の頭の中でそのワードが飛び交った。
「キツく締めますよ」
「くっ……そっ……」
腹部に刺さるような痛みが走り、思考が一瞬途切れた。
これが多少の気付けになり、少しだけ気力が戻る。
「この傷は奴らに?」
「いや。熊と出くわして、噛まれたり引っ掻かれたりした。奴らとは無関係だ」
「難儀なことです」
腕の引っ掻き───というより、半ば抉れた傷にガーゼを当て、包帯を巻く。
純白の止血材にも、徐々に赤黒さが浮かび上がってくる。
「感染症も不安です。抗生剤を投与します」
「用意がいいな?」
「相手には未知の部分が多い。用意に越したことはないと思いまして」
知樹の頭に、想像がよぎった。
発信機でも埋め込まれるのでは。毒でも仕込まれるのでは。
それもすぐにやめた。
今の死に体に近い状況では、そんなややこしい真似をする必要はない。
妙な抵抗はせず、仁が持つ注射器の針を受け入れた。
ピリリとした痛みから、液体の圧力を感じる。
「それから、これは麻酔の混合物質です。痛みも和らぐでしょう」
「……くそっ、先に言えっ」
父の教えでは、麻酔は厳禁だった。
麻酔───厳密には、モルヒネ。
軍用医療キットにも常備される麻酔薬であり、用法容量を間違えば麻薬となる。
それこそ、原料は羅宮凪島を薬物汚染している芥子なのだ。
もっと言えば、幕内一家が強く敵視しているアメリカのオピオイド汚染も想起させた。
それを勝手に体内に入れるとは。
身体が動き、気付けば仁の胸倉を掴んでいた。
「この野郎っ」
「よかった。先ほどよりも、お元気そうだ」
それは、その通りだった。
疲労感と痛みが取り除かれ、気力が回復している。
どう考えても、配合されているのは麻酔と抗生物質だけではない。
「お前っ、何を仕込みやがったっ?!」
「あなたに必要な薬ですよ」
怒鳴られても、仁の浮かべる笑顔に歪みは浮かばない。
むしろ、さまざまな感情がひとつの表情に練り込まれていく。
もう知樹の気力はすっかり回復し、戦意も湧き上がっていた。
今必要な全てを取り戻していたのだ。
ただふたつの欲求を除いて。
「まだ必要なものがある」
「おや、なんでしょう?」
知樹は手を突き出して要求した。
「腹が減った。喉も乾いた」
「抜かりはありませんよ」
そう言うと、仁はすっと水筒とスナックバーを取り出した。
水分とエネルギー補充だけが目的ならばこれで十分だ。
蓋を外し、喉に押し込む。
包装を解き、齧り付く。
仁───その背後にいる者達にどんな計画があろうと、関係ない。
この事件を起こした者達に、相応の
◆死神復活───!