TUONI ~闇を被った死神~   作:サークル『熊の巣穴』

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2021年5月30日00:22 永葉県大桑山城跡本丸跡地 “門”

 

 彼らが門と呼ぶそれは、遠目から見れば凱旋門のように見えた。

 しかし、間近で見ればまた異なった文明による建築物とわかる。

 

 外装───内部に入るスペースはないが───は石のような材質だ。

 至る場所に装飾のような紋が走り、継ぎ目はない。

 つまり門は石を積み上げたものではなく、ひとつの岩で作られているのだ。

 

 もっとも、人類の知る岩とはまた違う物質の可能性が高い。

 相手は未知の世界からやって来た侵略者なのだから。

 

 少なくとも、この模様を掴んで登るのは無理だろう。

 知樹は早々に諦めると、別のルートに視線をやった。

 

 正規の移動手段は階段とエレベーターらしきものがあった。

 アーチのそばにあるそこには、複数の暴徒とゴブリン。

 さらには仕留めたはずのデミノの姿があった。

 

「正面突破は論外だな」

 

 なら、別のルートは。

 門の周辺には奇妙な有機的と評する他ない機械が並んでいる。

 それらには人より太い管が通い、いくつかが門の頂上まで伸びている。

 

 ちょうど知樹が身を隠す場所にも一本あった。

 触れてみると、存外弾力性が強い。

 力強く押し込んでも、ある程度の深さで止まってしまう。

 

「これならいけるが……」

 

 肝心なのは、昇る最中は無防備になる点。

 もうひとつは目立ってしまうことだ。

 

 門の正面には動力不明の照明が設置され、かなり明るい。

 裏側には昇れそうな管がない。

 どう頑張っても、正面を通るしかない。

 

 しかし、計画はあった。

 

 門を警備している暴徒が複数、ほぼ同時に力無く倒れた。

 間違いない。先ほど別れた彼らが到着したのだ。

 

「なんだぁっ、よそ者かぁっ」

「殺せ、下等生物!」

 

 暴徒に照明と武器を持たせ、特殊部隊の面々を探し始めた。

 その視界は、門には向いていない。

 

───今だっ。

 

 暗がりを利用し、明るみからは素早く逃れる。

 パイプのひとつにたどり着くと、両腕で抱き寄せ、両足で挟み込む。

 あとは内側へ向ける力を緩めず、四肢をスライドさせて少しずつ登る。

 

「いたぞぉっ! ぶっ殺せぇっ!」

「囲めっ、囲めぇっ!」

「ラーイー様のためにっ!」

 

 下では敵の混乱した喧騒と、時折銃弾が空気を裂く音が響いていた。

 戦況は一方的というほどではなく、声からして特殊部隊は位置が把握されている様子だった。

 

「あいつら、なんで見つかってるんだ」

 

 口ほどにもない。装備はそっちの方が上だろうに。

 苛立ちを感じながらも、30メートルほどある門を登っていく。

 

 まるで木を這う芋虫のように。

 不恰好だが、さもなくば犬死にするだけ。

 地下足袋のグリップ力を駆使し、歩みを進める。

 

 そして、管が奥へ折れ曲がった。

 頂上に出るとそのまま這うような姿勢を維持して床に這いつくばり、管の陰に身を隠す。

 ちょうどその時、声が響いた。

 

「地上で草むらに襲われたぁ? お前はどこだ!」

 

 そっと陰から顔だけを出す。

 すると、いた。先ほど瑩をさらった骸骨の化け物。

 奴の背後には瓶から顔だけ出している瑩の姿もあった。

 

 見たところすぐにでも脱出できそうな状態だったが、恐らく簡単にはいかないのだろう。

 それよりも、今は好機だった。

 

───あいつは今、俺に気付いていない。しかも、下ばかり見ている。

 

 そう、好機なのだ。

 這う姿勢から立ち上がり、気配を殺しながら歩く。

 

 まるでこの場に風が吹いたように。

 なんの姿もなく、なんの音もなく、なんの匂いもなく、なんの気配もなく。

 ラーイーの身体が宙を舞った。

 

「なっ……はっ、はぁっ?!」

 

 彼にとっては、まさに突然の出来事だった。

 自分より一回り小さい人間に腰を蹴られ、落とされる。

 優秀な頭脳は現状を理解し、瞬時に憤怒した。

 

「この私をっ、落下死ィッ」

 

 最後まで言い終える事なく、彼の身体は地面に四散した。

 頭蓋骨だけはかろうじて原型を保っていたが、内部の光球は間もなく消えていった。

 

 上級魔将軍の死。

 呆然とするほど、あっさりとした決着だった。

 

「偉そうにしても、死ぬ時は一瞬だな」

 

 門の下で起きた死を見届けると、続いて暴徒達とデミノ巨体が倒れる景色が繰り広げられた。

 そう、ラーイーの眷属達が続々と後を追わされているのだ。

 

「終わったか」

 

 ほっとすると同時に、強い苛立ちを感じた。

 

「こんな雑魚のために、何人殺されたんだ……!」

 

 その怒りも意識して鎮める。

 それよりも今は、生きている人間を助けなくては。

 

 瓶詰めされた瑩のもとに駆け寄る。

 

「マック! まさか、来てくれるなんて……!」

「通りかかったついでだ。で、儀式というやつはこれで終わりか?」

 

 肝心なのは、ラーイーではない。背後にいる異界の化け物達だ。

 侵略を止められなければ、今までの戦いが無意味になってしまう。

 

「多分、大丈夫。絶望エネルギーが霧散してるから」

「必要な場所にエネルギーが供給されなくなった、という理解でいいんだな?」

「そう」

「久々に安心できた」

 

 知樹は笑みを浮かべると、瑩を拘束する瓶を睨んだ。

 ガラス瓶のように見えるが、恐らく違う。未知の物質だ。

 

「そいつは……砕けばいいか?」

「わからない。多分、変な仕掛けはないと思う」

 

 鎧通を順手で抜き、柄頭で砕かんと振り上げた。

 

「許さんぞ……この私を、殺すなど……」

「───!」

 

 どこからか響いた怨嗟の声。

 知樹は咄嗟に守りの姿勢に移った。

 

「まだいたのか、どこだ?」

「気配なんてどこにも……」

 

 瑩のシックス・センスにそのような気配はない。

 強いて言うなら、自分を覆う液体ぐらい。

 

 ここで彼女は、ラーイーの言葉を思い出した。

 この液体がラーイーの一部であるという言葉。

 

「まさかっ……?! マック逃げて!」

「ばかが、遅いっ!」

 

 霧散していた絶望エネルギーが門の内側へと収束していく。

 エネルギーが次元を歪め、開き、繋ぎ。

 存在しないはずの特異点を現界させた。

 

 異界へ繋がる門の出現。

 その瞬間を目の当たりにする前に、知樹と瑩は宙に投げ出された。

 

「くそっ、こんな……!」

 

 地面に叩きつけられるのか。

 知樹は因果を覚悟した。

 

 しかしそんな彼に、手が伸ばされた。

 

「手をっ!」

 

 鬼武瑩。彼女の手が。

 その意図を理解する術も、時間もない。

 ただ生きたいという本能が咄嗟に、その手を掴んだ。




◆道連れ狙いの最後っ屁───
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