TUONI ~闇を被った死神~   作:サークル『熊の巣穴』

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──年─月─日─:─ 魔之境

 

───起きて、マック。

 

 意識を失っていたとは思えないほど、その覚醒は唐突だった。

 脳内に響く声に導かれるように、知樹は瞼を開いて周囲を見渡した。

 

 この空間を、なんと表現しようか。

 暗闇に浮かぶ一本の橋。

 全ては石のような材質で構成され、不気味で凍えるような空気に包まれている。

 

 橋の両端には時折石像が置かれ、それらはひとつ残らず誰かが誰かを殺す瞬間を象っていた。

 よく言えば、理解出来ない未知の文明によるもの。

 悪く言えば、極めて悪趣味な野蛮人が作った彫像(エフェジー)

 

「ここは、一体……?」

 

 思わず率直な感想が口からこぼれ落ちた。

 周囲には誰もいないというのに。

 

───ここは、私達の世界と魔の世界の狭間。

 

 そう、誰もいないはずだ。

 だというのに、声だけが頭に響いていた。

 

「誰だっ」

 

───マック、わたしよ。鬼武瑩。どういうわけか、ここだとあなたと交信出来るみたい。

 

「鬼武?! だが、姿が見えない。どこにいる?」

 

 改めて周囲を見渡すが、視覚はもちろん聴覚も人の気配を掴めなかった。

 彼女を名乗る声からも、感情を感じられない。

 

───あなたのすぐ隣。どういうわけか、身体と魂が分離しているみたいなの。

 

「死んだわけじゃないんだな?」

 

───違う、と思う。根拠はないけれど。

 

 本人の感覚しか頼れる要素はない。

 口ぶりからして、本人にも確信はないようだ。

 

「門が崩れた時、手を握った覚えがある。何か意味が?」

 

───あの時、どこかへ飛ばされると確信した。だから、はぐれないようにと思ったの。

 

 物理的に接触していれば、この空間に転移しても離別しないだろうという判断である。

 結果としては、一応その通りになったわけである。

 

「魂だけここにいる理由は?」

 

───わからない。わたしも気がついたら、こうなってた。

 

 ひとまず、座っていても埒があかない。

 知樹は立ち上がり、橋を見渡した。

 

「整理しよう。ひとりで行動出来るか?」

 

───出来ない。もしあなたと離れたら、多分わたしはこの空間に飲まれてしまう。誰かに認識されていないと、繋がりがないといけないの。

 

 肉体が朽ちても、人は誰かの記憶で生き続ける。

 その延長のようなものか。

 

 物理的に接近していないと消えてしまうのは、実に厄介な話である。

 

「元の身体に戻せる見込みは?」

 

───わたし達の世界に戻る道じゃなくていいの。

 

「見込みがないなら、そうする。どうなんだ?」

 

 しばし、瑩の声は黙り込んだ。

 知樹も静かに決断を見守った。

 

───あなたが今向いている方向に、わたしを感じる。

 

 その先には、深い闇があった。

 しかし目を凝らしてみると、遠くに灯りと広さを感じる。

 

───反対方向が、帰り道。

 

 そちらには同じく深い闇と、遠い距離があった。

 希望を感じる道のりではない。

 

「もし身体を見つけたら、どうすればいい?」

 

───生きているなら、普通に入れると思う。実際にやったことはないけど。

 

「決まりだ」

 

───マック。

 

「なんだ」

 

───ありがとう。

 

 知樹は姿なき彼女に、小さく笑みを返した。

 

 瑩の身体がある方向へ歩き出す。

 その間に知樹は自分の状態を確かめた。

 

 身体は元からある傷含めて、変化はない。

 装備も減ることなく、小銃・散弾銃2挺・鎧通、全て揃っている。

 体力面も問題ない。いつでも戦えた。

 

「あの骸骨野郎はどうなった?」

 

───わからない。門を崩壊させた時に、消えていればいいけど。

 

 ラーイー。殺しても死ななかった、しぶとい化け物。

 恐らく瑩を拘束していた器具に、なんらかの仕掛けを施していたのだろう。

 

───マック、それをあなたが言うの。

 

 思い返してみれば、知樹の顔には今スカルペイントが描かれていた。

 骸骨野郎という呼び名は、自分にも当てはまっているではないか。

 

「全身骨っぽい奴の方がらしい(・・・)だろう?」

 

───あなたに余裕があるのは伝わった。

 

 もし彼女の声に感情が乗せられるのならば、心底呆れ果てていたことだろう。

 

 広場が徐々に近付き、様子もうかがえるようになった。

 そこは石像広場とでも呼ぶべきか。

 無数の像が乱雑に置かれ、中には横倒しになったものもある。

 

 知樹がかつて似たような景色を目にしたことがあった。

 

「銅像の墓場みたいだな」

 

 体制の変化によって、かつての指導者を模った銅像は過去の遺物(・・・・・)として撤去される。

 その残骸は無造作に人気のない土地に投棄され、忘れ去られる。

 ここは、魔の世界にとっての捨てられた歴史なのかもしれない。

 

 この墓場の中心、像を失った台座の上で光が生物特有の反射を見せた。

 白い肌が露出した肢体。

 彼女だ。瑩の分離した肉体だ。

 

「見つけた」

 

───ええ、もっと近づいて。

 

 長い散弾銃を構え、慎重に距離を縮める。

 今のところ瑩の魂以外に出会っていないが、敵と遭遇しないとも限らない。

 音もなく、警戒を緩めず。

 

 束ねた髪が解かれ、ほぼ裸に近い格好の彼女が眠っていた。

 

───その、マック。

 

「どうした?」

 

 突如、瑩の魂が語りかけてきた。

 意図が理解出来なかった知樹は足を止めてその声に耳を傾ける。

 

───わたしは今、多分すごい格好してると思う。

 

「まあ、そうだな。そう見える」

 

───だから、あまりハッキリ見ないでもらえると助かるかも。

 

「? 善処する」

 

 知樹の思考は今、戦闘に合わせられている。

 さらには性教育をまともに受けていない彼に、瑩が抱く懸念は理解出来なかった。

 

 距離が縮まり、細かな様子まで視界情報で得られる。

 胸が上下している。即ち、呼吸している。生きている。

 

「まだ息があるぞ」

 

───よかった。なんとか戻ってみるから、触れるほど近づいてみて。

 

 これで瑩が肉体を取り戻せば、問題がひとつ解決する。

 ひとまず触れるなら頰か。知樹は左手を伸ばした。

 

 すると、眠っていた彼女の瞼が開いた。

 

「あっ、はっ、えっ?!」

「なにっ」

 

 知樹と視線が合うと、瑩の肉体は慌てた様子で後ずさった。

 驚いたのはもちろん、彼女だけではない。

 

「どういうことだ、身体が動いてるぞ!」

「あっ、当たり前じゃない!」

 

───これは、どういうこと。

 

 誰も彼もが状況を理解できず、困惑した。

 最初に行動したのは、瑩の肉体だった。

 

「あなたは……幕内、知樹。マック……」

「ああ、そうだ。君は?」

「私は……鬼武瑩」

 

 記憶は合致している。これはどういうわけなのか。

 瑩の魂を名乗る何者かが知樹をここへ呼び寄せたが、瑩の肉体は問題なく動いている。

 

「これは、どうすればいい?」

 

───わたしにもわからない。これは……

 

「ねぇ。誰と話してるの?」

 

 瑩の肉体は知樹が自分以外の誰かと話していると理解した。

 これは、説明するべきだろうか。いや、無視するわけにもいかない。

 

 肉体と魂の分離という、未知の現象だ。

 魂がふたつに分かれたとしても、不思議はないのだから。

 

「それが……鬼武の魂が俺のそばにいる」

「ええっ?! それ、そんなわけない!」

「いや、だが……」

「そうじゃないっ。そんな事、起こるわけないの! 私の父さんに聞いたから!」

 

 では、瑩の魂を名乗るのは何者か?

 答えは彼女が口にした。

 

「きっとラーイーよ!」

 

───違う、そんなはずない。わたしが……

 

 突如、魂の発する声が消えた。

 

「……今、対処した。危ないところだった」

「なにがあった?」

「ラーイーは今、魂だけの状態で漂ってる。だから、交信できないようにしたの」

「そんなことまで出来るのか?」

「ええ。父さんとそういう修行をした記憶があるから」

 

 父親との修行。

 その一言だけで、知樹はすっと受け入れてしまった。

 

 引き金から指を外し、周囲を警戒する。

 誰かの気配はない。奇襲を用意しているとは思えない。

 

「……でも、ありがとう。来てくれるなんて」

「声に言われて来ただけだ」

「きっとラーイーの奴は魂だけになったから、私の身体を乗っ取ろうとしてたんだと思う」

 

 肉体を失い、近くにいた知樹を利用して身体を手に入れようとした。

 筋書きとしては十分あり得る話だ。

 しかしそれとは別に、知樹の本能は引っかかりを感じていた。

 

「……ねえ。上着、貸してくれない?」

「血だらけだが、構わないか?」

「なんでもいい」

 

 戻るにしても、このような格好で戻るのは恥ずかしいに違いない。

 違和感を引きずりながらも、知樹は上着のファスナーに指を掛けた。

 

「ちょっと。後ろ向いて」

「ああ」

 

 考えてもみれば、ジロジロ見るのはいい気分がしないに違いない。

 ファスナーと背負った小銃を下ろす。

 

 前開きにすると、背中から圧力を感じた。

 

「マック……」

「おい」

「怖かった……」

 

 腕が首に周り、彼女が抱き寄せてきた。

 首筋にむず痒い息がかかる。

 

「ずっとひとりで、こんな場所に放り出されて……誰かにいて欲しかった」

 

 頭の中で異変が起きる。

 まるで、他人に身体を動かす操縦桿を触られているように。

 

───信じるべきものを、疑うのは辛いだろう。

───辛いのは、いやだろう?

───全て投げ出せば、楽になれるぞ。

 

 聴覚ではない感覚が、声を感じた。

 それは、逃避の誘惑。

 

───お前の父は正しくないかもしれないな。

───声に耳を貸さないで。

───信仰を疑うのは、酷い苦痛だ。

 

「まずお前は、護衛として使ってやる」

 

 脳内に清水徹の声が。耳に鬼武瑩の声が。

 ふたつの声が囁いた。

 

───心配するな。投げ出す事は、間違いではない。

───死者を冒涜する奴らに屈しないで。

───お前は頑張りすぎだ。楽になってもいいんだ。

 

「死ぬまで使ってやる。光栄に思え、下等生物。ファッファッファ」

 

───それが正義のはずがない。

───お願い。あなたがいなくなったら。

───お前の信仰()は正しくない。

 

 信仰の否定。

 父の否定。

 正義の否定。

 

───25-95-34

───44-22-41

───41-41-32−12

 

「なんだぁ、この記号は? 邪魔くさい、剥がしてくれるっ」

「がっ、ああっっ!」

 

 誘惑が止まったかと思えば、今度は強烈な頭痛が起きた。

 脳の皮膚が剥がされるような、実現不能な矛盾した痛み。

 この感覚が危機本能を刺激し、気力を(みなぎ)らせた。

 

 背中に覆い被さる瑩を背負い投げの要領で張り倒した。

 

「なっ、なんだぁっ」

 

 二の句を告げる隙を与えない。

 

───25-95-34

───44-22-41

───41-41-32-12

 

 数列の命じるままに、知樹は彼女の首に腕を回した。

 

「まっ、ぐっ、あっ……?!」

 

 腕の形状を利用し、頸動脈と気管を圧迫する。

 そのまま首をへし折るもよし、続けて脳の血流と呼吸を止めるもよし。

 生殺与奪の権は、彼の腕にあるのだ。

 

───25-95-33-51

───45-75-41-42

───42-21-13

 

「……っ! ……ぁ……」

 

 彼女の全身が脱力した。

 確認した知樹は腕を離し、彼女の身体を横たえた。

 

───殺したの。

 

 再び、魂の声が戻ってきた。

 知樹は視線を上げると、そこにいるであろう彼女に向けて答えた。

 

「ああ。すまん」

 

 本物の、魂だけ残された瑩の表情など知れるはずもない。

 しかし、泣いているのだろう。それだけは確かだった。

 

───あれは、仕方なかった。仕方なかったの。

 

 まるで、自らへ言って聞かせるように。

 自身を殺した相手への罵声を押し留めるかのように。

 

「せめて、遺体はご両親にお返しする」

 

───ありがとう。

 

 亡骸の腕を握ると、液体が彼女の耳から漏れ出た。

 その液体はまるで意思を持ち、逃れるかのように滴り、床を這い進む。

 この時を、知樹は待ち望んでいたのだ。

 

「今だっ、戻れ鬼武!」

 

 素早く彼女の身体を持ち上げると、液体から離した。

 残された瑩の魂は咄嗟の事ながら気付いた。

 この男、殺したふりをしてラーイーを引きずり出したのだ。

 

───最っ低。

 

 何かが、魂なき身体に入り込んだ。

 ほどなくして知樹は彼女の背中に膝をあて、両肩を掴む。

 そして、ぐっと肩を引いて胸を開かせた。

 

 いわゆる柔道における気付けである。

 

「はっ、はっ、はぁっ……」

「君は誰だ?」

「あんたっ、本当っ……最低っ……! 死んだかと思ったんだからっ」

「いや、悪かった。でもうまくいってよかった」

 

 途中までは、本当に殺す気で絞めていた。

 中止したのは間違い無く自分の意思だ。

 では、絞めたのは自分の意思か。

 

 それは、間違いなく違った。

 わけのわからない、自分の中から湧き出る何かが、何も考えず敵を殺すように命じたのだ。

 自分ではない何かが。

 

 いま、それを思案している暇はなかった。

 

「液体野郎、もう終わりか?」

 

 姿を消した敵の首魁、ラーイーに向けて挑発する。

 ここまで卑劣な相手だ。とどめを刺さなければ気が済まない。

 

「下等な上に卑劣とは。お似合いだな!」

 

 相手は挑発に乗った。

 姿はわずかな液体となったため、発見は出来ない。

 それでも、確かに声を発した。

 

「はっ、下等生物か。小便みたいな見た目の癖に、偉そうじゃないか」

「貴様ァッ! この上級魔将軍……いや、魔王であるラーイー様を愚弄するかぁっ!」

 

 石像のひとつが動き出した。

 間違いない、ラーイーが操っているのだ。

 

「貸してやる。とどめは任せたぞ」

「任せて」

 

 鎧通を抜き、瑩に手渡す。

 ラーイーが鎧代わりにしている石像は、知樹に破壊出来る。

 しかし、本体である液体の倒し方は全く浮かばない。

 

 恐らく彼女が持つ“裁定者”の力に頼るしかないだろう。

 

「少し手を抜いてやれば、偉そうにッ……下等生物共、このラーイー様が直々に資源化してやる! 光栄に思えッ!」

 

 立ち上がった石像と対峙する。

 5メートルほどの巨体、太い四肢に細い首。

 そして、鈍い動き。

 既にこういった手合いとの戦いには慣れていた。

 

 ふたりは散開し、目標を分散させた。

 ヘイトは挑発した知樹に向いていた。

 石像の合間を素早く抜ける彼を、ラーイーは一目散に追いかけた。

 

「混血なぞ、相手にもならん! 下等生物、お前の死体は改造して戦奴としてこき使ってやる!」

 

 少しずつ距離が縮み、踏みつけられる範囲まで入った。

 石像が大きく右足を振り上げる。

 

「死ねぇっ!」

 

 ドスンと橋が振動し、乱立する石像のいくつかが崩れた。

 舞い上がった埃が周囲の視界を奪う。

 

「ククク、死んだか? ペシャンコにしてしまったら、改造のしようがないなぁ」

 

 その余裕は、数秒ともたなかった。

 3回の爆音が足元で響いた。

 当然、踏まれてなどいなかった知樹が軸足の踵に銃撃したのだ。

 

「ちぃっ、小賢しいっ!」

 

 衝撃のあった方向に腕や足を振り回すが、てんでなっていない。

 文字通り乱暴に振り回すだけで、自身が持つ質量を全く活かせていない。

 当たれば致命的だが、身体能力と落ち着きがあればかわすのは難しくない。

 

「どうだぁっ」

 

 手応えは全くない。

 しかしその手応え(・・・)すら知らないラーイーは、確信を持って呟いた。

 ただ広場には静寂の中に弾倉へシェルを込める音だけが響いていた。

 

「どこだっ、どこにいるっ!」

 

 音で存在を確認した彼は、やたらめったら暴れ回った。

 すると、ドンドンドンっ! 背中に鋭い衝撃。

 今度は小銃弾が石像を抉ったのだ。

 

「ばかめがっ、そんな攻撃は無駄だ!」

 

 銃撃のあった場所へ駆け寄り、埃を散らしながら暴れる。

 進歩がない。ラーイーは戦い慣れしていないのだ。

 

「はーっ、はーっ……流石に死んだだろう?」

 

 ドンッ! 一際強い衝撃が、ラーイーを襲った。

 至近距離の被害に驚いた彼は、咄嗟に石像の頭部を庇わせた。

 

「むだっ、無駄だ! そんな攻撃無意味だ!」

 

 無論、ラーイーの本体はここにいたのだ。

 馬鹿正直に守りを固めた場所を狙う必要はない。

 腕で庇う頭部の下、首に照準を合わせる。

 

「ファッ、ファファッ、下手くそ!」

 

 頭───頭に類される部位に血が昇っていたラーイーは気付いていなかった。

 知樹は挑発を完全にやめ、自分だけが声を発して位置を晒している醜態に。

 

 暴れまわり、埃が舞い、石材の破片が散らばる。

 ラーイーの苛立ちが頂点に達すると、不意に声が響いた。

 

「おい、小便もどき!」

 

 憎き幕内知樹の声。

 ラーイーは振り返り、その少年と対峙した。

 

「どうした? 大人しく死ぬ気になったか?」

「まさか。隠れてやる必要もなくなっただけだ」

「ふんっ。私の仮装をしている癖に、生意気なっ」

 

 石像が大きく右足を上げる。

 

「踏み潰すッ! 下等生物に相応しい最期だッ!」

 

 そう、右足を上げ左足を軸とする。

 明確な癖だった。

 

 避けることもせず、知樹は手にした散弾銃で左足首を撃ち抜いた。

 先ほどの銃撃とは比べ物にならないほどの衝撃と、貫通力。

 

 なけなしのスラグ弾、最後の2発を叩き込んだのだ。

 ダメージの蓄積していた左足が遂に崩壊した。

 

「あうっ、あううっ?!」

 

 石の巨体が仰向けに倒れ込んだ。

 その隙を知樹が見逃すはずもない。

 

 右足に飛び移り、脚を駆け上り、胴体を走り抜け、胸を飛び越え、首元に張り付く。

 

「こいつは清水徹からの贈り物だ!」

 

 小銃を首筋に向け、接射6連発を叩き込む。

 全ての弾を撃ち尽くすと、その銃床を顎に叩き付ける。

 これで頭と胴が分かたれた。

 

 落ちて転がった頭を追跡し、止まることなく短銃身散弾銃を顔面に向ける。

 そして、2連射。

 

 頭部は何かを隠すスペースだったらしく、顔がその扉となっていた。

 ラーイーは、そこにいた。

 

「なめるな、下等生物ゥッ!」

 

 石像の胴が動き出し、腕が知樹を掴んで放り投げんとした。

 勝利を確信した瞬間。しかし、彼は忘れていた。

 もう、自身を守る鎧は存在しない。

 

 鎧がなければ、刃から身を守る術はないのだ。

 鬼武瑩が、鎧通に蒼い焔を纏わせた。

 

「これは、あんたが殺した分!」

 

 焔を纏った刀身が、ラーイーに突き刺さった。

 

「ガアアアッ!」

 

 焔は瞬く間に広まり、魔を灼く。

 上級魔将軍ほどの高貴な存在でも、死を遅らせる以上は出来ない。

 

「いっ、痛いじゃないかっ、下等生物……!」

「消えろっ、侵略者!」

「いやだねっ。何年掛かろうと、何十年掛かろうとっ……私はまた、蘇るっ……!」

 

 高貴な魔族は、いずれ復活する。

 それは事実上の不死であり、意思が折れなければ何度でも再挑戦することを示している。

 

「くくく……また会おうじゃないか。お前らが生きていれば、な」

 

 それが彼の、今回の(・・・)遺言だった。




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