TUONI ~闇を被った死神~   作:サークル『熊の巣穴』

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Epilogue 1

2021年5月30日05:37 永葉県朝津川市上空

 

 修史は理不尽で過酷な試練を乗り越えた娘へ視線をやった。

 初めての飛行機、それも回転翼機(ヘリコプター)だ。

 やや緊張したような面持ちで、窓の外に広がる早朝の故郷を見下ろしていた。

 

 そんな彼の対面に座っているのは、岩沢まりあ。

 年齢にそぐわぬ若々しさを持ち、色黒の女性。

 その正体は、20年前対立した魔法少女のひとりだった。

 

「自衛隊に入ったとは聞いていたが、まさかこんなところで会うとはな」

「あたしもビックリ! そっち絡みとは思ってたけど、まさか瑩ちゃんが巻き込まれてたなんて」

「そうだな。こんな事になるとは……それで、あの子を看取って来たのか?」

 

 かつて戦った魔法少女は3人。

 目前にいるまりあ、修史の妻である蓮菜(ハスナ)

 そして戦いの後、行方知れずとなった少女がいた。

 

「……まさか、あんな事になってたなんて」

 

 中級魔将軍カサンディ。

 彼女は他の生物に寄生し、宿主の肉体を変異させることで強化する種の魔族だ。

 行方知れずの魔法少女はカサンディに寄生され、化け物へと変貌させられていたのだ。

 

「あの子のご両親は?」

「もう、いないの。5年くらい連絡は取れてたんだけど、急に途絶えて……」

「そうか……」

 

 想定はいくつか思い浮かぶ。

 しかしそのどれもが、救いのある内容ではない。

 

「ご遺体はどうなる?」

「化け物になった部分は研究に回されて、人の部分は調べ終わったら弔うって」

「葬儀には家族と同席しよう」

「ありがとう」

 

 カサンディの種族は修史と同じ派閥に属していた。

 故に、どのような生態なのかある程度理解している。

 最期まで、彼女(意識)は肉体に囚われていただろう。

 

 そんな残酷すぎる事実を目前で心を痛める女に伝える必要はない。

 過去を悼むのに相応しい場はここではないのだから。

 

「ところで。君はまだ結婚しないのか?」

「ちょっとぉ、話題転換下手か? うちの親みたいなこと言わないでよ……」

「実年齢ならば、親どころか祖父母以上だろうな。で、どうなんだ? 相手は?」

 

 まりあとしてはとても耳の痛い話だった。

 可及的速やかに結婚し、すぐ子を拵えた目前の異界人にはわからない話に違いない。

 

「あのさ、何度でも言うよ? 結婚てそんな簡単じゃないの」

「君なら簡単だろうに」

「っかーっ! 嬉しいこと言ってくれるじゃないのー、じゃない。双方の経済事情とか、生活リズムとか……何より、心が通う相手って簡単に見つからないの!」

 

 高年収イケメンちょっと年上かな? という優良物件かと思いきや、バツ4DV癖持ちのろくでなし。拳と共に別れを告げた。

 年収そこそこ顔は普通の優しげな好青年。真面目に将来を考えた相手も、束縛癖と浮気性のろくでなし。拳と共に別れを告げた。

 上司の息子、つまり同業者(自衛官)。お見合いで首を縦に振ろうと考えた男は、部隊で出し合っていた金を使い込んだ。拳と共に別れを告げた。

 

「……それだけ? 結論を出すには少ないのでは?」

「いやまあ、そうなんだけどさ」

 

 その自覚は当然あった。

 しかし本気になろうとした相手は、いつも少し踏み込むと醜い本性を表す。

 立て続けにそうなれば、気後れするのは当然の話である。

 

 ただでさえ、親と話すたびにこの話題になるのだ。

 追及を避けたかったまりあは、別方向へ逸らす事にした。

 

「瑩チャン! そっちはどーお?」

「えっ、わたし?」

「むっ」

 

 急に話を振られた瑩は困惑し、修史は興味を惹かれた。

 この鬼武瑩という少女、学園では注目の的である。

 

 高身長で割とデカい胸、両親の血を色濃く受け継ぐクールビューティーで、胸が割とデカい。

 成績は並ながらスポーツでは好成績、結構デカい胸が揺れる。

 同年代の少年達の注目を受けるのは当然と言える。

 

 しかし一方で、彼女には孤高のオーラがあった。

 それこそ友人は入学式に空気を読まず話し掛けて来た春香ぐらいなものであり、普段積極的に交流しない瑩に浮いた話はなかった。

 玉砕覚悟か罰ゲームか、初対面で告白する男もいたが当然撃沈である。

 

「あんまり、学園じゃ人と話さないから」

「それじゃダメよー、瑩ちゃん。ちゃんと話さないと、気に入った男も本性わかんないよ?」

「君は指導出来る立場なのか?」

「は? お前ぶっ殺すぞ? やっぱ決着つけるべきだなぁ!」

 

 血走った目で修史を睨むと、まりあがずいと顔を寄せて凄んでみせた。

 当の彼は余裕ある笑みで迎え、一触即発の空気が流れた。

 このふたりは、会うたびにこんなやりとりをしている。

 

「岩沢ァ! 機内で暴れんな!」

 

 ヘリの機長が怒鳴ることで、状況は一応の終息を迎えた。

 

「何やってんだか……」

 

 日常の帰還。

 ふと、瑩はそれを実感した。

 

 あの一日は綱渡りと、綱から跳ぶようなアクロバティックの連続だった。

 恐らく、自分と周りにいた人々だけでは生還すら叶わなかっただろう。

 

 あの少年、幕内知樹がいなければ。

 

「そういえばこれ、返さなきゃ……」

 

 彼を意識して、借りていた上着を思い出した。

 やたらポケットが多く、生地が頑丈な上着。

 何ヶ所か引き裂かれ、血まみれだ。

 

 対する瑩自身には傷ひとつない。

 ところどころぶつけたりした打ち身はあるが、傷と呼べる程度ではない。

 

「でも、もう会えないのか……」

 

 確か名北学園とまでは聞いていたが、その辺りまで行ったことはない。

 それに別れ際のあの態度、父の影響であまり良い印象を持っていないはずだ。

 会いに行っても、歓迎はされないだろう。

 

「はぁ……」

 

 ただやはり、改めて礼の一言は告げておきたい。

 どうするべきか。興奮冷めやらぬ頭でぼんやりと考えながら、瑩は景色へ視線を戻した。




◆いつかまた逢える日まで───
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