TUONI ~闇を被った死神~   作:サークル『熊の巣穴』

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Epilogue 3

2021年6月20日18:47 小張県名気屋市久那区久那神宮前

 

 夏の日没はかなり遅い。

 特に本州南方に浮かぶ羅宮凪島は、ほぼ同経度の愛知県より遅くなる。

 恐らく日没まであと30分ほど。花火開始予定も1時間後だった。

 

 もちろん、その程度は織り込み済み。

 一行は時間潰しに久那神宮に立ち寄っていた。

 

「この神社って、戦国時代からあるの?」

「いや、鎌倉の末期くらいだ」

「カマクラ……?」

「戦国、つまり室町末期や安土桃山より前だ。元弘の乱で父親の後醍醐天皇と同じく流刑になった……」

 

 基本的には歴史に詳しい知樹がハンナの質問に答えていく。

 地下鉄駅から階段をのぼり、幹線道路を横切り、うまそうな匂いを漂わせる鰻屋の前を通過。

 

「うわっ、意外と暗いね」

「この辺は少し入るだけで街が古くなる」

 

 慶太が思わず声を上げた。

 日没が遅いといえど、日が傾けば町の暗闇も増える。

 神宮入り口前は数少ない街灯が頼りになるほどの闇が広がっていた。

 

「マックは来た事あるの?」

「ああ。新年は親父と初詣に来てた」

 

 由緒ある神社で新年の平和と安全を祈る。

 父親が消えた後も、ずっと続けていたルーチンだ。

 

「せっかくだから、ガッショしに行きましょ!」

「……合掌か?」

「ガッショ、ガッショ!」

 

 花火大会のついでに参拝しようと考えるのは、なにも知樹達だけではない。

 それなりの参拝客が敷地内を歩いていた。

 

「わっ、意外と多いね」

 

 慶太の従姉妹、文華(フミカ)が驚きの声を上げた。

 さすがに人を押し除けなければ歩けない、というほどではない。

 それでも注意していないと肩をぶつけそうなほどの人だかりだ。

 

「年末年始はこんなもんじゃないぞ」

「だろうね……」

 

 境内で参拝するなら、ここを抜ける必要がある。

 さあ行くぞ、と知樹が一歩踏み出した。

 すると、手首を掴まれた。

 

「マック、ちょっといい?」

「どうした」

 

 ハンナだ。思わぬ行動に知樹は立ち止まり、彼女を振り返った。

 少々顔が強張り、怯えているようにも見えた。

 

「大丈夫か? 顔色が良くない」

「それは、大丈夫。ただ……」

 

 目前の人並みには、老若男女多種多様な人間がいた。

 日本人、外国人、年寄り、子供。

 そして、男と女がいた。

 

 ハンナは少なくとも今、男と接触すらしたくなかった。

 信頼出来る人間がそばにいなければ。

 

「手を握っても、いい? 逸れちゃいそうだから」

 

 おずおずと。彼女は手を差し出した。

 断られたら、笑われたら。

 そんな恐怖心が震えに表れていた。

 

「なるほど。確かにな」

 

 幕内知樹は人の心を持たず、解していない。

 厳密には熟しているように見えるそれは皮ばかり。

 中身は全く成熟していない。

 

 それでも、人は変われる。

 少なくとも彼は間に合った。

 

「行こうか」

 

 差し出した手に、こちらも手を添える。

 ハンナはその手を握り返した。




◆変化の兆し───
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