TUONI ~闇を被った死神~   作:サークル『熊の巣穴』

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Epilogue 5

2021年6月20日19:27 小張県名気屋市久那区家鴨公園

 

 彼女は未だ、自分がこの喧騒の只中にいるのが信じられなかった。

 味方のいない、かつて人だった化け物が徘徊する村。

 そこから無傷で、平穏な日常に戻れるとは。

 

「はいっ、えーちゃん!」

「ありがとう」

 

 鬼武瑩は手渡されたたませんを受け取ると、一口()んだ。

 せんべいとソース、そして目玉焼きの味。

 物憂げな表情のまま、祭り()の日を噛み締める。

 

「もーっ! 今日はお祭りなんだから、浮かない顔禁止!」

「……そんな顔してた?」

「してた! ……忘れちゃった方がいいよ。あの日のことは」

 

 あの事件の後、春香とは早々に会うことが出来た。

 同じ病院に搬送され、教員の弥生と現地民の獄介共々検査入院していたのだ。

 

 怪我はなく、未知の病原菌の類もなく。

 例の事件を口外しないという条件で自由の身が許されたのだ。

 もっとも、広めたところでまともな人間は信じないだろうが。

 

「そういうわけじゃない」

「じゃあ、あの人(・・・)のこと?」

「……まあ」

 

 幕内知樹。

 瑩は自分が(はた)から見れば謎多き人間である自覚はあるが、彼もまた相当な謎を抱えていた。

 

 同年代にしては驚異的な身体・戦闘能力。

 警察───あるいは、それ以上の組織との面識と受ける警戒。

 自身の担当だった白木に尋ねても、こう返ってくるだけだった。

 

『あなたが知る必要のない人間です』

 

 それに、人ならざる身である父にも一目置かれている。

 興味が湧いて当然というもの。

 

「あんな人、絶対ダメ! そりゃ、恩はあるけど……ヤバそうな雰囲気満載じゃん!」

 

 春香はまたしても、もっともな指摘をした。

 謎と同時に、彼からは危険な匂いが漂っていた。

 

 近付くもの全てを火傷、いや焼き尽くす。

 そんな危険さが。

 

「別に、ただお礼を言いたいだけ。そんな大した事じゃない」

「そーゆーのが、危険の第一歩なの!」

 

 春香はふんすと鼻息を荒くした。かわいらしく。

 その通りだ、君子危うきに近寄らずという。

 

 しかし、だからこそ。

 だからこそ惹かれるのではないか。

 

 事件から少し経って、瑩はそう考えるようになっていた。

 

「例えばさぁ、瑩のお父さんと話してた人いるでしょ? 特殊部隊の隊長さん、あのポニーテールの……」

 

 それは、魔の世界との境界まで来てくれた部隊のリーダーの事だろう。

 事件後も人手が足りていないのか、自分達の様子を見に来たりもしていた。

 

 あの男には、確かに女を惹きつける強い魅力があった。

 しかし───

 

「……こう言っちゃアレだけど、あの人も大概じゃない?」

「もーっ! 確かに目付きは鋭いけど、絶っっ対優しい人だから! あたしにはわかる!」

 

 ふんすふんすと鼻息を荒くする。

 色々と口うるさい彼女だが、他ならぬ彼女自身に危ういところがあった。

 

「そういえばえーちゃんは見てなかったけど、入院してる時……」

 

 ドン! 背後で花火が炸裂、周囲からどよめきが上がった。

 気付けば、打ち上げの時間が来てしまっていたのだ。

 

「おっと。それよりも、今日は花火を楽しもう! そのために遠出したんだから!」

「そうね」

 

 こういった特別な日ぐらい、何もかも忘れてもバチは当たらないだろう。

 芝生に腰掛け、頭上を見上げる。

 

「……きれい」

 

 思わず、心中の言葉が口から滑り落ちた。




◆帰還した日常───
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