2021年7月29日04:12 千葉県成田市
東の空が白んだ頃、立体駐車場に一両の軽自動車がやって来た。
洞察力の鋭い人間ならば、この車のナンバーにレンタカーである事を示す“わ”の文字を見つける事が出来るだろう。
「来たぞ、護衛目標だ」
「お漏らしマン登場~」
バンの荷台から降りると、彼は目前の人物に問い掛けた。
「“燃料はありますか?”」
「“はい。固体なら”」
これは合言葉だ。
身分を確かめた彼は頷くと、小男を車内に導いた。
「尾行はどうだ?」
「いない、と思います」
そう言うや否や、駐車場にエンジンの唸り声が響いた。
「学者様なんざアテにならないな! 出せ!」
車に滑り込み、扉を閉める。
すると、こちらもエンジンを唸らせてスロープを下った。
「ごっ、ごめんなさいっ! まさか、追われてるなんて!」
「いいさ。女攫うより、ずっと楽しい!」
「追っ手が見えた!」
目張りの紙の隙間からのぞいていた警戒役が叫んだ。
「バンに、コロモのハイブリッド! 多分公安だ!」
「パトカーじゃないなら望みはある!」
車体の左側面に身体を押し付けられながら、猛スピードで下っていく。
しかし、冷静に考えればわかることだ。
当然、相手は出入り口を封鎖している。
彼らの行手を2両の乗用車が阻んだ。
「ワ、アアッ……!」
「突っ切れェッ!」
それはまさに正面突破だった。
多少改造したバンが持つ質量と速度を用いて、バリケードを跳ね飛ばしたのだ。
警戒役が紙の隙間から慌てふためく警官を見て叫ぶ。
「ザマ見ろポリ公!」
「どっ、どうするんです?! 警察に追われちゃ……」
「とりあえずこいつらを撒く。俺らは表向き無実の一般人だ、やりようはある」
そう言うと、リーダー格の男は工具箱を開いた。
中身は無数のパイプ───厳密には、溶接された
斜めに切った部分が外を向くように作られた、端的に言えば撒菱だ。
「公安さんはノンパンクタイヤかなァッ!」
それを無造作に路上に向けてぶち撒けた。
慌ててハンドルを切るも、もう遅い。
通常、どんなタイヤでも穴が空いたらすぐ走行不能にはならない。
しかし、注射針のように中が空洞のものが刺さるとそうはいかない。
これが刺さると穴が開くのではなく、一部が切り取られるのだ。
あっという間に傷口が広がり、タイヤがホイールから吹き飛ばされる。
バーストだ。こうなると真っ直ぐ走行するのは困難になる。
出来たとしても、道路のアスファルトを削りながら効率の悪い走行を強いられる。
どうあがいても、健常状態の車には追い付けなくなる。
通りは偶然居合わせた民間車両を巻き込んだ大事故に発展していた。
「さっすが
「とっとと車片付けるぞ。時間との勝負だ」
それぞれが身につけていた作業着を脱ぎ捨てると、それぞれがよれたリクルートスーツに着替え始める。
明らかにチンピラだが、そうとは思えないほど規律だった動き。
学者の小男は困惑しながらも、彼らに問い掛けた。
「えっと、皆様の事はなんと呼べば?」
その言葉に、リーダー格の男が視線をやった。
「俺は
そう言うと、小男の肩ではなく抱える鞄をポンと叩いた。
◆この男たちの目的は───?
次回、新章開幕!