TUONI ~闇を被った死神~   作:サークル『熊の巣穴』

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2021年7月29日ICT16:14 ベトナム社会主義共和国ホーチミン市

 

 ホテルに着いて早々、一行は旅行ガイドと代理店の人間から丁寧な謝罪を受けた。

 本来は集合して代理店が用意したバスに乗り込み、ホテルへ向かう予定だった。

 

 しかし、ガイドが知樹ら一行を見落とし移動を開始。

 成田空港発の飛行機が遅延した影響もあったが、仕事として許される失敗ではない。

 ましてや、入国時のトラブルで足止めを食らった客をほっぽり出したのだ。

 

「裁判沙汰にする気はありません。ただ、自分がどうこう言ったところで、彼の処分は変わらない。違いますか?」

 

 遠回しに放った「大事にはしないがケジメしろ」という一言で知樹のやる事は終わった。

 せめてものお詫びと差し出したタクシー代を受け取り、一行はようやく休息の場を得た。

 

「色々あったけど、ここすごいホテルだねぇ」

「日本人が安全に過ごすなら、このぐらいじゃないとな。安宿(ドヤ)で泊まるのは、慣れない人間には厳しいだろう」

「ドヤにも泊まったことあるの?」

「ああ。親父に()の暮らしも経験しろと言われてな」

 

 しれっと酷いことを言っている気もしたが、何だかんだ彼にもストレスが溜まっているのだろう。

 そう判断した慶太は言葉を返さず、トランクを置きセーフティー・ボックス(金庫)を開いた。

 

「どうする気だ?」

「えっ。夕食までの間に街歩くんだから、予備のお金入れようと思ったんだけど」

 

 外国の土地で過ごすのだから、当然財布に入れない現金も必要だ。

 そう考えた慶太は部屋のセーフティー・ボックスに手をかけたのだ。

 

「やめとけ、ホテルマンに抜かれるぞ」

「さすがに金庫開けて中身持ってかれたらわかるよ」

「向こうは合鍵を持ってる。それに慣れてるから少しだけ抜いていくんだ。バレない程度にな」

「金額くらい覚えてるよ」

「失礼ですがぁ、お数え間違いではありませんかぁ?」

 

 凄くわざとらしい訛りの混じったベトナム語で知樹は言った。

 どうも、経験則での発言らしい。

 

「悪い事は言わない。財布とは別で持ってた方がいい。靴の中とかだな」

「えぇ、急だなぁ……」

 

 少し困ってしまったが、ふと泳ぐ時のために持ってきたスマホ用の防水ケースを思い出した。

 泳ぎながらでも操作出来る、半透明の首から提げられるタイプだ。

 

「そういえば、これならいいかな」

「少し性能過剰な気もするが、それなら汗が浸透することもないだろう。パスポートも入れて、シャツの下に提げておくといい」

「ちなみに、マックは?」

 

 問い掛けられた知樹は、デニム・ジーンズを下ろしてみせた。

 すると、尻の部分にポケットが増設されていた。

 もちろん縫い目が外から見えないように、表側は本来の尻ポケットに覆われている。

 

「ここだ」

「……汗で汚れない?」

「ベトナムで汗をかかずに済む場所はないぞ、諦めろ」

「うーん。でもちょっとやり過ぎな気がする……」

 

 怪訝な表情のまま、防水ケースに収めた現金をポロシャツの下へ。




◆身ぐるみ剥がれた場合はその限りではない───
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