TUONI ~闇を被った死神~   作:サークル『熊の巣穴』

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2021年7月29日ICT16:20 ベトナム社会主義共和国ホーチミン市

 

 現金の問題を片付けると、ふたりはロビーに戻った。

 白を基調とした清潔感のある空間。

 普遍的に見えて、その実日本でお目に掛かれるそれとはどこか違う。

 

 下地の文化が違うからだろうか。

 そんなことを考えながら、知樹と慶太はソファーに腰を下ろした。

 

「同じアジアでも、なんか違うよね」

「ベトナムはフランスの植民地だった時期がある。だから当時の影響が少なからず残ってるわけだ」

「うん。だからフランスパンを食べるっていうよね」

「バインミーだな。和訳するなら“小麦もち”ってところか。フランスパンが原型だが、あれほど固くはないな」

 

 ハンナと文華のふたりは未だ来ない。

 今まで色々あったが、さすがにこのようなホテルのど真ん中。何かトラブルがあったとは考え難い。

 女性の支度には時間が掛かる、ということで気にせずふたりは会話を続けた。

 

「なんか、サンドイッチにするんだっけ?」

「……正直、俺はあまりパンが好きじゃない。あれに挟まれるパクチーもな」

「あれっ、意外なものが嫌いなんだね」

「嫌いに決まってるだろう。だって、あの変な匂いがする葉っぱだぞ?」

 

 パクチー。ベトナムではザウムイと呼ばれるハーブ。

 アジアの広い地域で香草として用いられ、日本人はサラダのようにしてムシャムシャと食べる。

 慶太は最近流行っている程度の認識しかなかったが、知樹は苦手のようだ。

 

「いや、パンの方。だって、いつもプロテインバー食べてるじゃない」

「あれだって好きで食べてるわけじゃない。携行性と栄養価、それに経済性を考えた上で選んでる」

「……経済性?」

 

 プロテインバーの値段について詳しいわけではないが、基本的に安価なものではないと理解していた。

 なかでも安いものを選んでいるということなのだろうか。

 しかしそれにしては、少し妙だ。

 

───マックが金欠気味なのって、お金の使い方がおかしいからでは?

 

 慶太はかなり鋭い分析をしていた。

 彼が口に出そうとすると、知樹が気配を感じて視線をやった。

 その先には、ハンナと文華のふたりがいた。

 

「お待たせ。待った?」

「ああ、それなり……」

「いや大丈夫! 気にしないで!」

 

 知樹から飛び出しそうになった発言を遮りつつ、慶太は立ち上がった。

 

「急にどうした」

 

 などと、知樹は何も理解していなさそうな表情で言う。

 

───君をフォローしたんだよっ。

 

 そんなことを口走るわけにもいかず、引きつった笑みを向けるのだった。




◆常識なき者───
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