TUONI ~闇を被った死神~   作:サークル『熊の巣穴』

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2021年7月30日ICT10:47 ベトナム社会主義共和国ホーチミン市クチ県 クチトンネル

 

 ホーチミン市中心部から、サイゴン川を遡るように北上して数時間。

 彼らの乗るバスは郊外クチ県の史跡、クチトンネルに到着した。

 

 ベトナム戦争当時、米軍を大いに苦しめた全長200キロのトンネル。

 その内情やトンネル内での生活などを現代でも直接知ることができる施設である。

 

「ぐひえええ、寝るぅ……ホテルでぇ……」

「もうっ。ホテルは出たでしょう?」

 

 バスでウトウトするハンナを抱えるようにして知樹はバスを降りた。

 休日は10時ごろに起きると豪語する彼女───豪語出来る話ではない───にとって、7時起床30分出発は辛かろう。

 今は10時どころかそろそろ11時である。ほぼ起きていないではないか。

 

『そこの白人のカノジョ、大丈夫かい?』

『ええ。運転どうも』

 

 運転手から投げかけられた言葉に一礼すると、ぐでっとした彼女を地面に立たせた。

 上半身はやや傾いているが、どうやら直立はしてくれるらしい。

 

「チケット売り場ってどこかな?」

「それはもう少し歩いた先だな。食事処を超えた場所だ」

 

 クチトンネル史跡周辺は公園のように、林のような木々に囲まれている。

 風で湿った葉が揺れる。せいぜい50年ほどのさほど長い歴史はない場所のはずだ。

 しかしかつて枯れ葉剤で被害を受けたにも関わらず強く生きる木々からは、どこか荘厳さを感じられた。

 

 そこにプレハブ小屋に草葺きの屋根だけ乗せたようなブースがあった。

 これがチケット売り場である。

 

『トンネルツアー、4人頼む』

『はいはい、36万ドンね』

 

 数字だけだと凄まじい大金に思えるが、100ドンでおよそ0.6円。

 日本円に換算すると、36万ドンは2000円程度である。

 

 カラフルなベトナムの象徴を提出し、入場する権利を得る。

 今回の目当てであるトンネルツアーの集合場所へ向かう。

 

 その道中、目に入るように配置しているのだろう。

 草葺き屋根の小屋で当時の米軍が使用していた航空爆弾の残骸や、迫撃砲などが展示されていた。

 

「これ、アメリカ軍のやつかな……?」

「うーん。マーク(Mk)って看板があるから、そうじゃないかな」

「そいつはマーク82、米空軍が運用している航空爆弾だ」

「じゃ、この……筒は?」

 

 慶太は四つの穴がある太い筒のようなものを指さした。

 

「ロケットの発射機だな。弾体の直径と搭載数からして、第二次大戦から使われてるズーニー・ロケットだろう」

「なんだかその爆弾もロケットも、今も使われてるみたいな言い方に聞こえるけれど……」

「いや、実際に今も使ってるんだ。無誘導爆弾もロケットも、高度な電子部品が使われていない分、改良する余地が少なく必要も薄い」

「飛ばして、吹っ飛ばすだけだから?」

「その通りだ。だが米国の場合、ミサイルを改良する技術がない。無誘導爆弾を誘導できるようにする部品を開発するなどして、劣った能力を隠そうとしている」

 

 文華と慶太の会話に知樹が補足した。

 その補足の内容が一部かなり独特というか、歪んだ観点によるものというか、デマだったが。

 幕内知樹は個人の戦闘能力及び戦術については玄人かもしれないが、戦略や航空機の運用についてはど素人以下である。

 

 展示物を横目に広場を進み、一行はツアーの集合場所に到着した。

 ここではトンネルツアー開始前にビデオ解説が行われ、ガイドが簡単な構造の説明や当時の映像を使ったビデオなどを放映している。

 現地へ行く前に基礎的な知識を入れておけ、ということである。

 

 ただし、言語は英語である。

 

───英語を使うのは気に入らないが、奴ら(米英)に反省を促すにはな……

 

 同じツアー客には白人、欧米から来たと思われる人々が少なからずいた。

 アメリカ人がアジアで行った暴虐を知るにはいい機会だ。知樹は黒い優越感に浸った。




◆しかしね君、ここは君が喜ぶような場面ではないのだから───
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