2021年7月31日ICT17:39 インドネシア共和国ジャワ海 FJW第8甲板『Sapphire』
そろそろこの船に乗って丸一日が経過している頃だ。
腕時計を一瞥した知樹は視線を部屋の扉に戻す。
この扉の向こうは慶太と文華のいる部屋だ。
呼び出しアラームを鳴らそうとするが、指は空中で静止した。
───今更会って、何を話すって言うんだ?
そもそも今回の話での問題は、知樹の態度があまりにも無法過ぎるという一点だ。悪い事をしたわけではない。
ならばわざわざ会う必要もなく、予定通り合流すればいいのではないか?
───俺は、悪くないんだ。
相変わらず後ろ向きな、みっともない自己正当化を内心で繰り返す。
一方で、そうでいられない心境もあった。
───俺に着いてくるばかりだったあいつが、ああまでしたんだぞ?
ただ事ではない。きっと相当な勇気を必要としたはずだ。
あの弱者が。自分のような強者に対して。
恐ろしく失礼な考え方だったが、野蛮な人間なりに理解出来た。
それを放ってはおけない。なんとかしよう。その一心で、止まっていた指が動く。
ピンポーン。二重に聞こえる電子音が響く。
しばし待つも、ぷつり。通信の途切れる音を吐いた。
「なんだ……いないのか」
意気込んでいたのに、拍子抜けというものである。
考えてもみればスマホという便利なものがあるのに、アポも取らずに会おうと考えたのが失敗だった。
ポケットからスマホを取り出し、SMSを起動する。
それではまずは、文面だ。果たして、どう切り出そうか。
思考を文学に切り替えていると、近付く気配を感じた。
反射的に気配へ注意を向けると、6つの目と視線が合った。
「げっ」
先ほど自分達に絡んで来た韓国人3人組。
同じ客なのは明白だったが、ここは客室がそう多くない上級スイート。
偶然通りがかったとは考え難い。
『いい度胸だな。早々に再戦希望とは』
『まっ、待てよ
彼らの言葉を信じるならば、同じ等級の部屋に泊まっていたわけだ。
同時に、彼らが韓国内でもかなり上位の人間である可能性も高まった。
『そうだ、野蛮な日帝め。暴力反対っ』
『お前とは違う形で決着をつけることにした。何だと思う?』
もったいぶった言い方だが、こう言った手合いがしたり顔で言い出すことなど相場が決まっている。
表情ひとつ動かさず、知樹は断言した。
『訴訟でも起こすんだろう?』
『その通り。不当な差別をした親日派のセキュリティ・スタッフもろともな』
自分から仕掛けておいて、追い返されたらこの態度とは。知樹の心では怒りよりも呆れが優った。
しかし呆れが強くとも、知樹の心にある引き金は最早軽い。
元の日常からして暴力という選択肢が常に上位にあった男だ。
そこに、最近の経験から殺害という行動も幅を利かせ始めているのだ。
視線に害意よりもさらに強い感情が込められた。
それを、彼らは嗅ぎ取った。
『むっ、無駄だぜっ。俺らを傷つけてみろっ。もうウチには相談したんだ。何かあったら、真っ先にお前が容疑者だっ』
唾を飛ばしながら、彼らは用意した保険を披露した。
いくら相手が恐ろしく強かろうが、法には逆らえまい。
そうやって、怯えながらも優位を確保したのだ。
『何とか言ってみろよ、え?』
『取り下げて欲しいか? なら、条件がある』
ここで出会うとは思っていなかったが、内々で立てていた計画を実行に移し始めた。
おっかなびっくりで続けていた表情も、自分達の保険が有効と見て緩み始めていた。
知樹は黙ったまま、様子を伺った。
『ちょっと付き合えよ……』
『
真ん中に立つ男が、渾身のドヤ顔を浮かべてみせた。
◆どうする、知樹!