2021年7月31日ICT18:33 インドネシア共和国ジャワ海 FJW第4甲板『Plaza』
夕食の時刻だ。
慶太、文華、ハンナの3人は知樹から現地に直接向かうという連絡を受けた。
なにやら、そこで話があるという。
「なにか、あったんじゃないかしら……」
文華は心の奥底から心配し、そう漏らした。
話はつけられたとはいえ、タチの悪そうな連中に絡まれた直後なのだ。
ひとりになりたいという要望を聞いたのはよかったが、そこで闇討ちでも受けたのではないか。
少々行き過ぎた心配にも思えるが、彼女が受けたPTSDは不安を増幅させていた。
「ないない! フミフミはマックの事を甘く見すぎよ。逆に返り討ちにしちゃうって」
「そうだね。その辺りの心配はいらないと思う」
ハンナは彼女の杞憂を笑い飛ばし、慶太はそれに同意した。
闇討ちをするのもされるのも、恐ろしく経験豊富な幕内知樹という少年をよく理解した評であると言える。
一方で、それは過信にも近い側面がある。
この世に不死身の存在など、ありはしないのだから。
レストランの座席で彼の到着を待つと、不意に慶太とハンナの耳に聞きなれた音が飛び込んできた。
「アァン! オォン!」
「声真似イイゾ~これ」
「イイっすかぁ~? FOO~!」
まさかこの豪華客船に来てまで、このような声真似を耳にするとは思わなかった。
いくらホモガキでも、TPOというものを考えないのだろうか。
───考えないよなぁ。8月10日に住宅街のスタジオに凸る連中だし……
そんなタイプの人間でも、この船に乗れるとは驚きだ。
呆れ半分、恐ろしいもの見たさ半分に慶太は声のする入口を見やった。
そこで、絶句した。
「え、なにこれは……」
そこにいたのは肩を組みながら語録を
なんと、先ほどトラブルがあった韓国人3人組と、幕内知樹その人だった。
端的に言って、社会性の地獄である。
他人を装いたかったが、一歩遅かった。
「え? マック、その人たち嫌いなんじゃなかったの?」
ハンナが手を挙げて呼び寄せてしまったのだから、もう無理というもの。
インターネット界の汚物がそばまでやって来てしまった。
「は? 当たり前だよなぁ? ホモビ見てキャッキャする奴が好かれるわけないって、はっきりわかんだね」
「キビシスギルッピ!」
なんで韓国人がそんな語録を諳んじるのだ。
しかもよく見れば彼らはひとりとして例外なく治療の跡がある。
知樹と揉め事を起こした直後なのは、想像に難くなかった。
「えっと……?」
「キム」
淫夢などという汚物界隈の知識など皆無な文華は、状況を理解できずとにかく困惑するばかりだった。正直、慶太とハンナも理解できているとは言えない。
さすがのホモガキ知樹も状況を理解し、キムと呼ばれた男たちに合図した。
「センセンシャル!」
「Hey, This is Serious. Don’t speak INM.」
「アッ、ソッカァ……」
翻訳不要、いや翻訳するのも馬鹿馬鹿しくなる英文である。
しかしそれでも、状況は健全に動いた。
『この度はご迷惑をお掛けして、申し訳ありませんでした!』
先ほど強制された謝罪ではない。これは自発して行った本物の謝罪だった。
「あ、あはは……」
それは理解できる。しかし、それはそれだ。
全く理解不能な状況に放り出された文華は引きつった笑みを浮かべた。
◆世界を笑顔にする男───