TUONI ~闇を被った死神~   作:サークル『熊の巣穴』

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2021年7月31日ICT18:58 インドネシア共和国ジャワ海 FJW第4甲板『Plaza』

 

 そんなわけで、ふたつのグループはくっそ汚い数奇な偶然で食卓を共にする運びとなった。

 

 今夜のディナーはイタリアン。

 大衆向けレストランのトラットリアを名乗ってはいるが、当然この船の最上級クラスの店だ。

 一般人が手を出すにはハードルの高い料理なのは、言うまでもない。

 

 なんか仲良くなった3人の韓国人は、皆(キム)の姓を持っていた。

 ややこしい事この上ない話だが、韓国ではキムの姓を持つ人物は全人口の20%以上を占めている。

 なので、全くあり得ない話ではないのだ。

 

「3キムだ、3キム」

「マック……その、それじゃなんだか馬鹿にしてるみたいだよ」

「ははは、鈴木・三浦・木村の3馬鹿みたいだろ」

 

 3キムのリーダー的存在、大柄なキムことキム・サンミンは笑ってみせた。

 歪んだ執着に囚われていた彼だったが、淫夢というしょうもなくて汚い概念で知樹と打ち解けた彼は、元来の明るい性格を取り戻していた様子だった。

 

 そんなんでいいのだろうか? 対立感情に生きるよりは、健全かもしれないが。

 いや、共通の話題がとても不健全なコンテンツではあるのだが。

 

「鈴木じゃない、高宮さんだ」

「田所派ですらない異端者め! どうせお前も女の子説支持者だろ!」

 

 ちっちゃいキムことキム・スンヨプは自国の活動家を真似しながら異論者を糾弾した。

 とてもしょうもない事で、当然冗談である。

 が、その真似は驚くほど堂に()っており、レストラン中に視線を集めた。

 

 ホモガキはその程度では止まらない。

 

「いや、あれはどう見ても男だろう」

「映像を見たことがないのか? あれはどう見ても女の子だ」

 

 眼鏡を掛けたキムことキム・ソジュンは冷静に言い放った。

 話題自体は悪ノリの境地である。

 

「ええっと、3人はどういう関係で?」

 

 慶太は淫夢から話題を遠ざけるため、常識的な質問をした。

 しかし忘れてはいけない。

 タチの悪いことに、淫夢はストライクゾーンがくっそ広いのである。

 

「兵役ィ……」

「やっぱ好きなんすねぇ!」

 

 半島の淫夢厨が乗っかり、フィンランドの淫夢厨は大喜びで手を叩いた。

 

───そっ、そんなつもりじゃなかったのにぃっ!

 

 思い返してみれば、この質問こそ淫夢・ベーシックに載っていてもおかしくない初歩的なものだった。

 ひどいものである。普通の質問をしただけで淫夢厨扱いされるのだから。

 

 しかし、3キムはなんだかんだで自分達の馴れ初めを話し始めた。

 

「真面目な話、兵役だ。第5海兵連隊で同期だった」

「あの頃は若くて馬鹿だったぜ。3人揃って故郷の穴を信用して、裏切られたんだからな」

「なあ……さっきから、穴ってどういう事だ?」

 

 知樹が久しぶりにまともな質問をした。

 3キムとの会話は途中から英語で行なっていたが、頻発する(HOLE)という単語が理解出来なかった。

 

 普通、ここまでの会話で察せられるというものだが───

 

「あぁ、えっとね。それは僕が……説明した方がいいと思う」

 

 この由来はとても過酷で、残酷だ。

 彼らが言うに任せると場に相応しくない言葉の応酬になりかねない。

 そう考えた慶太は3キムに代わって説明を始めた。

 

「……その方がいいな。頼むぜ」

「えっと、韓国の特定掲示板で使われてる単語で、女性の隠喩なんだ」

「それで、なんで“穴”なんだ?」

 

 清楚系の文華ですら察したというのに、知樹はまったく空気を読まずに問い掛けた。

 こいつマジ? 言外に告げる視線が一斉に向けられた。

 

「えーっと……ほら、人体には、女性の構造的に、あるじゃない?」

「なにが」

「なにがって……」

「そりゃ、まん」

 

 咄嗟に文華はハンナの口を閉ざした。

 場に相応しくない言葉とは、まさにそれである。

 

「なあ、ケー。こいつってどういう教育受けてたの?」

「なんだかすごい教育は受けてたみたいですけど……」

 

 サンミンはなんとなく、慶太の苦労を察した。




◆保険の授業が身についていない弊害───!
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