TUONI ~闇を被った死神~   作:サークル『熊の巣穴』

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2021年8月1日ICT10:10 インドネシア共和国バリ州ベノア

 

 バリ島。

 インドネシアが誇る世界的観光地。

 FJWの寄港地として相応しい場所といえるだろう。

 

 そのビーチの中でも水深の深い場所で、馬鹿4人組が競争していた。

 

「俺は無呼吸で2分潜れるぜ!」

「俺は5分いける」

「元海兵隊の俺に敵うと思ってるのか?」

 

 知樹と3キムは今までの関係と比べれば健全な意地の張り合いをはじめ、潜水装備もなしに海中へ沈んだ。

 

 透き通るような海の景色を背景に、4人の男が睨み合う。

 1分経過。スンヨプは足の負傷を思い出すと、急に痛く感じ始めた。

 これはもうたまらんと、即座に浮上。一名脱落。

 

「ぶばばばばば! ぼぼぼぼぼぼぼっ!」(韓国海兵隊は弱いな! 俺を見ろ! 絶対負けないぞ!)

「ばぼぼぼぼ! ぶぼぼぼぼぼぼっ!」(あいつはケガしてるからな! 見とけよ見とけよー)

 

 明らかに言葉として成立していないが、どういうわけか彼らは会話できていた。

 それがまた非常に馬鹿馬鹿しく感じ、ソジュンは盛大に草を生え散らかしてしまった。

 

「ぶぼっ」(草)

 

 自分のリズムを崩してしまえば、もう長くはもたない。

 二名脱落。

 

 そんな馬鹿をしている間に3分が経過していた。

 途中でしょうもない煽りあいをしたせいで、互いに限界が近づいていた。

 

 しかし仮にも異常英才教育を受けた少年。

 対するは韓国最精鋭の海兵隊出身の青年。

 身体が示す警告を理性だけで無視できた。

 

 おかげで、ふたりとも顔面は真っ青である。

 

 4分が経過した。

 互いに譲らないが、溺れもしない。

 

───こいつが溺れたら、俺の勝ちだな。

 

 などと、互いに取れてもいない狸の皮算用を始めた。

 

 さすがに周囲も心配を始める。

 

「おい、マックとサンミンの奴、まだ上がらないのか?」

「嘘だろ、もう5分過ぎてるぞ。もしかして死んでないか?」

 

 透き通った海はふたりがそこにいることを教えてくれたが、溺死した人間はしばらく浮かんでこない。

 心配になった2キムは潜ってふたりの様子を伺った。

 

 幸いにも、彼らは健在だった。

 むしろ空気を吐かないように口パクでなにやら言い合っていた。

 しかしやはり顔面は死人のように蒼白。限界なのは明白だった。

 

 ソジュンが知樹を、スンヨプがサンミンを抱えた。

 彼らは揃って自分を掴む相手を睨みつけたが、抵抗する気力は萎えていた。

 すなわち、泳ぐのも困難な状態。滅茶苦茶危ないところだったのだ。

 

「ぐばっ、はーっ、はーっ……ばっ、馬鹿なことで死ぬところだった」

「本当だぜ。とにかくハンナにボート持ってきてもらおうぜ」

 

 自分が泳げなくなっていたことに気付いたサンミンはさすがに反省した。

 一方の知樹はというと、息を整えている様子を悟られないようにしつつ───

 

「つまり、俺の勝ちってことだな?」

「顔真っ青でそれ言われても、全然説得力ねえよ。どんだけ意地っ張りなんだ」

 

 しかしそれにしても、意地だけで5分もの長時間の潜水が可能とは。

 海兵隊の地獄の訓練を耐え抜いた男ですら、ここまでの長時間は難しい。

 

 ナメていたとはいえ、格闘ですら自分達を圧倒してみせた男だ。

 日本には徴兵制はない、というか彼は韓国でも徴兵される年齢ではない。

 その出自に、サンミンは少し興味を持った。

 

「本当に日本って徴兵制ないんだよな?」

「ない。俺のように生まれが高貴でなければ、大多数は根性なしで使えないからな」

「こっちだって同じだよ……ってか、高貴な生まれってなんだよ。財閥生まれか?」

「いや。姓は少し変わったが、満久馬という高名な武家の出だ」

 

 岩場に掴まりながら知樹は言う。

 サンミンの知る日本の歴史はせいぜい日帝時代をかじる程度だ。

 当然、地方のローカル武将の名など知るはずもない。

 

「知らないな。トヨトミ・ヒデヨシなら知ってるが」

「あんな成金土百姓と一緒にするな。羅宮凪島を統一し、本州の織田信長と同盟を結んだ」

「知らないなぁ。あと知ってるのは武田信玄ぐらいだな」

「デェーンデッェーンデッデーンデ」

「終」

 

 ギャハハハハ。ふたりは死に掛けた直後だというのに馬鹿笑いしあった。




◆雨降って地固まる───
 でもお馬鹿には気をつけてね!
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