TUONI ~闇を被った死神~   作:サークル『熊の巣穴』

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2021年8月2日ICT12:46 インドネシア共和国バリ州 FJW第14甲板『Lido』

 

 第14甲板にあるのはプールや展覧通路だけではない。

 グレードの低い気軽なレストランや、陸の町も顔負けな商店の数々も立ち並んでいる。

 そこに庶民も気やすく利用できる値段設定のイギリス風パブがあり、彼らはそこでたむろしていた。

 

「おや、坊ちゃん。何かありましたか?」

 

 昨日会った際には、基本船のここにいると去り際に告げられた。

 これは嘘ではない。実際、誰が飲んでいるのか知れないが2つ飲みかけのビールがテーブルに置かれていた。

 これと軽食で居座っているのだろう。リゾートに上陸するでもなく、船内設備を楽しむでもなく。

 

 確かに、状況を俯瞰してみればこれは不審者そのものである。

 いや、だからといってまだすべてが決まったわけではない。

 

 意を決して、知樹は照仁に言い放った。

 

「実は、会ってほしい人がいるんだ」

「俺たちに? ああ、一緒に乗っているっていうお友達で? 嬉しいなぁ」

「俺らが会っちゃっていいんですかね? こんなムサいおっさんだってのに」

 

 と、照仁は屈託のない笑顔を浮かべた。彼の仲間も同じく茶々を入れながらも受け入れた。

 心が痛む。こんな心あるいい人たちをテロリストだなんて。

 しかし、だからこそ連中に無実を見せつけなければならない。

 

 いざとなれば、こちらが加勢してコテンパンにしてやる。

 そんな心意気で、知樹は後方の三人に合図を送った。

 

 照仁も合図に気づいたのだろう。合わせて登場した敏明と健司を見て、心底驚いたような表情を知樹に見せた。

 

「坊ちゃん……?」

「例のお友達、ってわけじゃなさそうだな」

 

 驚愕は隠さぬものの、彼らは立ち上がって極めて冷静に応対した。

 それは明らかに虚を突かれた人間のそれではなく、どこか覚悟しているように見える反応だった。

 自分の分析に、知樹は目を逸らした。

 

「こいつらがおかしなことを言うんだ。あんたたちが、北朝鮮に核物理学者を逃がそうとしてるだなんて」

「ああ、なるほど……」

「ハッキリ言ってやってくれ。そんなのはでたらめで、あんたら(おれ)は正義のために戦ってるんだって」

「そうだな、坊ちゃん。確かに俺らは正義のために戦ってる」

 

 知樹の半ば懇願となっている言葉。それを照仁は曖昧に肯定した。

 やがて、敏明たちが言葉を交わせるほどに近づいた。場に潜んでいた殺気が表出し始める。

 

「元陸上自衛隊第一空挺団三曹、越智照仁だな?」

「……なるほどな。日本がCIAじみた組織を作った噂は聞いていた。開示請求野郎も、たまには役に立つ」

 

 敏明ら秘密部隊の存在は公認されていない。

 こういった裏を暴こうとするメディアや政党ですら、この噂に触れる事はない。

 

 しかし、公的資金で運用されるとなるとやはり、その痕跡は公文書のそこかしこに表れる。

 公文書の開示請求を半ば趣味としている人間や、『公開情報に基づいた諜報』いわゆるOSINTを行うコミュニティからはその存在をほぼ確信されていた。

 

 そんな彼らに正式な部隊名は存在しないのではないか。

 そう推測されるも、どうしても記載しなければならない書類において、彼らはこう表記された。

 

「“ユニット”。まさかお目にかかれるとはな」




◆秘密部隊、その名(仮)は"UNIT"───!
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