TUONI ~闇を被った死神~   作:サークル『熊の巣穴』

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2021年8月2日ICT13:08 インドネシア共和国バリ州 FJW第14甲板『Lido』

 

 銃声、爆発、そして悲鳴。

 鼓膜を揺する衝撃がすべて状況の異常を示していた。

 そして異常の源は、近づいているように感じられた。

 

「乗客は全員広場に集まれ! 抵抗するなら射殺する!」

 

 すぐ外では、独特な訛りの英語で叫ぶ者がいた。

 続いて脅迫するかのように銃声が轟く。次の警告はない、そう言わんばかりに。

 

 戦う術を持たない乗客達は逆らえない。

 人々は恐る恐る店から顔を出し、こちらへ自動小銃を向ける男達に向かって歩き出す。

 中には恐怖で足がすくみ、またある者は様子を見るために留まった者もいた。

 

 こうった存在は彼らも想定の範囲内だった。

 視線をやると、ブティックへ武装した集団が乗り込んでいく。

 

 そして、銃声。悲鳴。懇願。悲鳴。

 場に静寂が取り戻されるのに、そう時間はかからなかった。

 

「これは警告だ! 出てこないのならば、容赦はしない!」

 

 もはや、様子見という選択肢すら許されなかった。

 再び人が店から出ていく。

 

 広場に押し出された人々は3種類に分けられた。

 白人と、船員と、それ以外に。

 

「白人はブティックの前で跪き、船員は壁際に集まれ! それ以外は噴水の前で座れ!」

 

 銃口を向けられ、属性によって人々が選別されていく。

 この光景を見て、彼らは恍惚の表情を浮かべた。

 

───俺達が、場を支配している。白人どもを操っているっ。俺達が勝つ側にいる!

 

 劣等感と隷属の歴史から解放され、心待ちにしていた瞬間が訪れたのだ。

 独立と支配者側への上昇。それを予期させる状況に。

 

「おい。お前のいた店に隠れている奴はいるか?」

「いませんっ」

 

 選別中も捜索は怠らない。不穏分子がいないか、投降した乗客にひとりひとり尋ねて歩く。

 すると、まだ尋問していなかった乗客が叫んだ。

 

「パブにっ、パブにアジア人がいたっ」

「ご苦労」

 

 大仰な態度で労い、自分達の大きさを喧伝する。

 そして無慈悲な武力によって、抱く覚悟を証明するのだ。

 

「次はパブだ! 掃討しろっ!」

 

 3名のM16を携えた戦闘員が出入り口のドアに差し掛かり、蹴破った。

 すると、中はがらんとしていた。人っ子ひとりいない。

 

 恐怖で混乱した人間でも、隠れるくらいの知能は働く。

 ならば、狩りだすまで。戦闘員はつたない英語で叫んだ。

 

「かくれんぼか? なら隠れてみろ! 命がけで!」

 

 挨拶と言わんばかりに銃撃し、カウンターをぶち抜く。

 最も可能性の高い候補だったが、反応はない。

 

 そこにいないのならば、バックヤード側だろうか。

 ぞろぞろと油断し切った3人は奥へ入り込んでいく。

 

 広場の側でボディチェックが進んでいると、パブから不規則な銃声が響いた。

 終了の合図である。

 

「そろそろ、船員は集まったな。処刑の用意だ」

「了解」

 

 その声を聞いて、乗客のひとりが舌打ちを鳴らした。

 一般人に紛れていた早瀬亮その人である。

 

「時間がない。銃殺隊はお前に任せる」

 

 そう囁き、先ほど照仁達から押収した拳銃を隣に座る敏明にそっと手渡した。

 本来ならば、もう少し敵の内情を把握しておきたいところだったが───そうも言っていられなくなった。

 

「薬室は?」

「装填済み」

 

 目視で確認したいところだったが、途中で発覚するリスクは避けなくてはならない。

 仲間を、友人を信じ、親指で安全装置を解除する。

 

 ボディチェックの順番が迫り、壁際に並ぶ船員達の背後に戦闘員が2名。AKを携えて弾倉の残弾をチェックしていた。

 

 チェック担当が敏明に迫ると、亮が動いた。

 一瞬の出来事だった。パブで調達した調理用のナイフで、瞬時にチェック担当の手首を切り裂き、拳銃を握る手から力を奪った。

 

「あうっ?!」

 

 そのまま抱き寄せ、逃がさないように拘束する。

 チェック担当の護衛は、恐らく最低限だが訓練を受けていた。

 故に、銃口を仲間に向ける判断を躊躇った。

 

 仲間想いの、正しい判断である。

 しかし仲間を思う気持ちが時に、命を奪う結果に終わることもある。

 

 視線を奪われた戦闘員を、瞬時に敏明が射殺する。

 あぐらをかいた姿勢は不格好だが、射撃においては非常に安定した理想的な姿勢でもある。

 驚異的な反射神経をもって、一発でひとつずつ命を刈り取っていく。

 

「……クリア」

 

 戦闘員はひとり残らず床に伏し、動かなくなった。

 その真横で亮は意味も分からず拘束された戦闘員の首筋にナイフをあてた。

 

「俺達をどうにかしてもっ、まだ仲間がっ……」

 

 チェック担当の戦闘員が英語で呻いた。

 拳銃を持っているぐらいだから、彼らの中でも上位に分類される人物なのだろう。だからこそ、拘束した意味がある。

 

「お前の仲間はもういない」

 

 その言葉を証明するかの如く、戦闘員が突入したパブからはM16で武装した越智照仁とその仲間が現れたのだった。




◆これが、本物の特殊部隊───!
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