TUONI ~闇を被った死神~   作:サークル『熊の巣穴』

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2021年8月2日ICT13:20 インドネシア共和国バリ州 FJW第14甲板『Lido』

 

 乗客が妙な気を起こして武装する前に。

 敏明は人々が混乱から動けていないうちに戦闘員が持っていた装備を回収して回った。

 大多数の人間は武器を持つと気が大きくなる。それこそ、テロリストと区別がつかなくなるほどに。

 

「……やべぇな。拳銃とナイフだけで8人制圧かよ」

 

 越智照仁は震撼した。

 特殊部隊と呼ばれる人種が自分達と違う生き物とは聞いていたが、まさかこれほどまでとは。

 

 ナイフ、というより包丁。実用性は言うまでもなくコンバット・ナイフよりも低い。

 拳銃もM1911───フィリピン製のオーソドックスな7発のやつだ───であり、一発でも外せば反撃を許してしまう。

 

 それをあの一瞬で、一発で倒せる急所に全て当ててみせたのだ。

 『人間辞めてる』。そう評される空挺ですら、相手をそう思えてしまうのだから、相当なものである。

 

「そっちの武器も渡してもらう」

 

 敏明は照仁も武装解除しようと考えたが、当然彼は拒んだ。

 

「まあ、待てよ。俺達だってこの後はともかく、あんな滅茶苦茶な連中に好き勝手されたくない。共同戦線を張ろうじゃないか」

 

 これは本来、飲んではいけない提案である。

 彼らは国際的なテロ組織の潜在的、というよりほぼ内定した要員だ。

 そんな人物に武器を渡せばどうなるのか? ギャングと銃の組み合わせに改善という文字が浮かんでこないのと同じだ。

 

 しかし、価値観を一部(・・)共有しているというのは、まぎれもない事実である。

 

「シータグループでは、白人は排除すべき人種なんだろう? 彼らも守るのか?」

 

 彼らが目指す組織とは、白人勢力から世界の解放を目指す反白人の有色人種だけで構成された組織だ。

 もちろん、スラヴ人は除く。でなければ、ロシアからの援助を得られるはずがない。

 

 言葉のない睨み合いが続く。

 そこに、敵の無線機を持った健司が横槍を入れた。

 

「悪いが、状況が変わった。連中は2グループ残ってる。片方はブリッジの制圧、もう片方は人質集めついでに舷梯(タラップ)を降ろそうとしてる。陸に連れ去る気だ」

「……連中は陸に拠点があるのか? このリゾート地に?」

「かなり大規模だな。よくわからんが、照準しろなんて声も聞こえてくる。単なる鉄砲玉じゃないぞ、こいつら」

 

 照準の意味は敏明にもよくわからなかった。銃の照準ともとれるし、それ以上(・・・・)の兵器ともとれる。

 ひとつ確かなのは、ブリッジを制圧されては船が動かなくなることだ。

 

「……ブリッジに向かうか」

「手を貸す。誰だか知らんが、好き勝手はさせん」

「トシ。こいつらを使うぞ。ホシを追うにも、この状況じゃ手が足りん」

 

 照仁の提案をよりにもよって、健司が肯定した。

 この作戦における指揮権は階級最上位の健司にあった。

 不安は残る判断だが、現状で数少ないまともに意思疎通が可能な日本人である。

 

「……了解」

 

 しぶしぶ肯定すると、敏明は照仁の部下に押収した銃器と弾薬を手渡す。

 その最中に気づいた。ひとり足りない。

 この場に偶然居合わせただけの、イレギュラーが。

 

「幕内知樹はどうした?」

「……しまった、忘れてた」

 

 突如始まった修羅場の混乱で、敏明達は知樹を見失っていた。

 確か、パブで状況をしのぐための作戦会議をしている最中はいたはずだ。

 知樹が出しゃばろうとしたのを、照仁含め総出で抑えたのは記憶に新しい。

 

「坊ちゃんなら、大丈夫だ。きっと、友達のところへ向かったんだろう」

「素直に喜べる話じゃないな……」

 

 とはいえ、構っていられるほどの猶予もない。

 奪取した小銃の点検を軽く済ませると、即席で結成されたチームは船員の案内で移動を始めた。




◆あの少年はどこへ───?
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