2021年8月2日ICT13:37 インドネシア共和国バリ州 FJW第14甲板『Lido』
彼女達にとって、それは唐突に起きた混乱だった。
破裂に近い性質の爆発音が鳴り響き、遠くからは悲鳴が。
「な、なにこれ……イベント?」
「……銃声よ。これ」
それらが徐々に徐々に近づき、やがてひとつの警告が混じり出すのだ。
「死にたくなければ、そこの広場に集まれ!」
偶然にも、ハンナと文華は広場のブティックを覗いていたところに遭遇していた。
逃げ出そうにも事態を一足早く把握した人々によって、最寄りのエレベーター前は渋滞していた。
そんな列の最後尾に、とりあえず並んでしまったふたり。
振り返ったハンナは、その瞬間を見てしまった。
銃───M16を持ち、広場に入ってきた男達。
その男達の前に、店から出てきた従業員が両手を掲げて投降する。
彼らは、無慈悲に射殺した。笑いながら。
人が死ぬ、殺される瞬間を見るのは初めてではない。
幕内知樹が刃物で人を殺す瞬間を、彼女は一度見ていた。
しかし、あれとは状況が違いすぎた。
知樹の例は自分と、彼自身を守るための一瞬にして終わった戦いだった。
今回は圧倒的優位に立つ武器を持った集団が、抵抗できない人々を虐殺しているのだ。
「そこの連中! それ以上逃げると撃つぞ!」
ついに広場にやって来た連中が、逃げ出そうとする乗客の背中に銃口を向けた。
乗客達はパニックを起こして、目の前の人々を押し潰さんとばかりに前へ前へと進もうとした。
もちろん、それで列が動くほど群集整理は簡単ではない。エレベーターの扉も開く気配を見せなかった。
「やめてっ! アンリがっ、アンリが潰れるっ!」
子供が泣き喚き、誰かが悲鳴をあげる。
その光景を見て、戦闘員はわざとらしくため息を漏らした。
「そんなに出たいなら、俺達が出してやる! この世からな!」
ハンナは咄嗟に文華の手を掴み、列から逃げ出した。
直後、人々の背中に銃弾が浴びせ掛けられた。
銃弾の前では、どんな人間も平等だ。
防具でも身につけていない限り、肉を裂かれ骨を砕かれ、赤い血を流す。
最も効率よく、人間を殺傷する形状とは何か?
それを追求して研究を尽くされた5.56ミリ弾はとても効率よく、非武装の民間人達を大小様々な肉塊へと変えていった。
『おい、人質にしなくていいのか?』
『どうせこいつらはダーク・ステートの犬。間引かれて当然だ。それに見ろよ、人質はもう十分だろ?』
『それもそうか』
彼らの話す言葉を解せなくとも、残酷な談笑が繰り広げられているのはわかる。
そして、自分達は従わなくてはならないのだ。
この人を人と思わないような、残虐な連中に。
◆楽しい旅行から一転、虜囚の身に!