TUONI ~闇を被った死神~   作:サークル『熊の巣穴』

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2021年8月2日ICT15:12 インドネシア共和国バリ州 FJWブリッジ

 

 咄嗟の事態だったが、連絡用の設備を持ち込んでいたのは正解だった。

 船内のネットワーク設備を利用し、健司は日本本土との通信を確立した。

 

「よし、ライブ繋げるぞ」

 

 暗号化される専用の通話ソフトを用いて、ユニットの本部との通話が開始された。

 画面の向こうで視線を下にやったままの白木知子が三人を出迎えた。

 

「状況は?」

「糸井直を護送する越智照仁をはじめとした6人と交渉。決裂したが、この状況では一旦共闘する事にしました」

「なるほど。彼らは?」

「敵が潜んでいないか客室フロアを調べています」

 

 人数が不明な以上、ブリッジにまっすぐ向かっても挟撃される恐れがある。

 そこで、敏明は客室の辺りに敵が潜んでいないか調べるように頼んで人払いしたのだ。

 

 実際に潜んでいたのか定かではないが、テロリスト・グループと関係がないのならば逃げることもできないだろうという判断である。

 

「糸井直の所在は?」

「正直なところ、調べる余裕がなかった」

「今の状況では仕方のない事でしょう。敵勢力が持つクラブKの詳細は?」

「……やはり、あれはクラブKか」

 

 兵器マニアである敏明は、ひと目であの攻撃に用いられた兵器がクラブミサイルのコンテナ発射型モデル、クラブKであると見抜いていた。

 格納容器の特徴だけでなく、発射後の挙動まで同じなのだ。

 

「残念ながら、不明。生き残りから尋問しようと考えていますが、多分詳細は知らないかと」

「でしょうね。敵勢力の詳細は?」

「FJWを襲撃した連中はふた種類。パプア独立軍と、恐らく……シータグループ」

 

 パプア独立軍の出した声明は、そこら中に流れていた。

 インターネットだけでなく、拡声器でそれを広めているのだ。

 関与はほぼ確定である。

 

 一方で、シータグループが関与している証拠はない。

 ブリッジを制圧していた部隊の遺体を調べるも、直接何らかの効力を持つ証拠は押収できなかった。

 しかし、その練度と装備を見れば繋がりは見えた。

 

「練度の高い連中を調べると、シータグループのフロント企業製品で装備を固めていた。全員有色人種だが、パプア人じゃない」

「普段は手段と指南役だけですが、少数とはいえ戦闘員を送るとは。少し行動が大胆になりましたね」

 

 シータグループのサービスは、兵器の供給と戦闘員の指導が主なものだ。

 アフリカで主に活動しているワグナーと違い、戦闘員を送りこむのは非常に稀である。

 これほど無茶な作戦に人員を送り込むのだ。組織としての命運をかけているのだろう。

 

「クラブKと確定しているということは、ロシアに動きは?」

「今のところ表では何も。ですが、裏ではかなり慌てています」

「慌ててる? クラブKを……複数供与しておいて?」

 

 くれと言われて巡航ミサイルをポンポン送るほど、ロシアも単純ではない。

 巡航ミサイルは値段といい戦略的価値といい、AKと同じ感覚では済まされない。政治的に問題があるのだから、いくら大金を積まれても拒否するのが普通。

 

 それでも送ったのだから、いつもの威圧作戦をやり過ぎたのだと誰もが思っていた。

 それが、慌てている。それではまるで、この事態は寝耳に水と言っているようなものである。

 

「この辺りはどっちかというと中国が狙っている辺りだ。中南海の長老方はメンツをつぶされて、今頃お冠だろう。大統領閣下も、声明出す暇すらないんじゃないか?」

 

 通話相手が上司であろうとお構いなしな健司は補足した。確かにそれもそうだ。

 インドネシアとしては微妙な表情になるだろうが、東南アジアに注目しているのはロシアよりも中国の方である。

 

 一方で、この計画に直接関わっているのはロシア政府紐付きPMCであるシータグループ。興味深い視点である。

 

「……シータグループが中国に鞍替えした可能性は?」

「ありません。彼らにはウイグル人部隊も存在し、アフリカで活動する部隊は中国の国益に反する作戦に協力したこともあります」

「世界の敵同士でも、仲良くなれないわけだ」

 

 嫌な仮説が敏明の脳内で浮かび上がった。

 しかしそれを口にするには情報が足らず、言ったところで仕方がない。

 今は、今の状況に集中するのが重要なのだ。

 

「インドネシア政府はしばらく動くことはないでしょう。ミサイルの存在で手を出しあぐねています。場所も場所ですから、動くとしたら、インドネシア単独ではないかもしれません」

「俺達の仕事は?」

「糸井直の無力化。それに、ひとつ追加します」

 

 今まで手元の資料に釘付けで、カメラを一瞥もしなかった知子がカメラへ目をやった。

 

「この船の犠牲者を可能な限り減らすこと」

「無茶を言ってくれる。連中は人質を間引くような連中なのに」

「だからこそ、ですよ。必要ならば交戦も許可します」

 

 敏明は視界の中にいる健司と亮に視線をやった。

 彼らの瞳にはいつも通り、冷静さと情熱。その両方が燃え上がっていた。

 

「やってやるとしよう。以降、何かあれば書面でお送りします」

「健闘を祈ります。以上」

 

 ノートパソコンをたたむと、敏明は立ち上がった。




◆この事件、裏で一体何が───?
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