TUONI ~闇を被った死神~   作:サークル『熊の巣穴』

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「……そうか、ありがとう」

 

 加賀津谷小作は頭を抱えた。

 文華から聞き出さざるを得なかった親の名前。

 一目見て知っている名前と悟り、肝を冷やした。

 

 改めて記憶違いだと確認するため、知り合いに探りを入れたのだ。

 

 果たして、その正体は。

 日本最大の広告代理店の子会社───実質的ないち部署だ───の社長である。

 見事にビンゴであった。

 

 しかもなお悪いことに、サンライトミュージックの大きな取引先でもある。

 そんな令嬢に不埒な真似をしたらどうなるか?

 少なくとも、知り合いは頼れない。力関係は向こうが上だ。

 

「せっ、セーフ……」

 

 危うく多くの人間を巻き込みながら破滅するところだった。

 加賀津谷は自身の記憶力に強く感謝した。

 

 しかし、ここまでアクションを起こしてしまったのだ。

 知らんぷりをすると、また災いが訪れかねない。

 形だけでも、事実だったという(てい)にしなければならない。

 

「改めて聞いてみたら、やっぱり必要なかった……こうだな、よし」

 

 言い訳を頭の中で組み上げると、呼吸を整える。

 さあ、デスクの受話器を掴もう。

 その時だった。

 

 加賀津谷のオフィスは楽器店ビルの最上階、エレベーターと直通する位置にある。

 セキュリティ上、カードキーを通さねばこの部屋に上がってくることはない。

 

 なら、今この部屋に籠を向かわせているのは?

 単なる部外者ではないということだ。

 

 息を呑んで訪問者を待ち構える。

 到着を知らせる電子音と共に、扉が開かれる。

 そこにいたのは、小さな二つの影。

 

「これはこれは……どのようなご用件で?」

 

 正反対な意匠(デザイン)の衣装に身を包んだ双子。

 少し前に偶然知り合った二人。

 彼らの持つ異能と加賀津谷の欲望。

 そして互いの利害が一致するため、連携していた。

 

「ねぇ。なんで追い込まなかったの?」

 

 男の格好をした方が冷蔵庫を漁りながら言う。

 

 どきりとした。

 主語を欠かした発言とはいえ、心当たりが目前にあるのだから。

 この話を知っているのは、ごく少数だ。

 

「なんのことでしょう?」

「菅原文華。ツバつけようとしてたんでしょ?」

 

 ツインテールをなびかせ、加賀津谷の膝にまたがった。

 柔らかい感触と共に、脳髄が痺れる甘美な体臭が鼻腔を占拠する。

 まだそんな気になっていないのに、自然と屹立した。

 

「かっ、彼女は知り合いの取引先で……」

「関係ないよ、そんなの」

 

 シャツ越しに細い指が身体を這う。

 鎖骨の間から、一直線に下る。やがて、硬化した部分に行き着く。

 張り裂けそうなほど、血液が一点に向けて集結を始める。

 

「ッヅ……アアッ」

「ねぇ。菅原文華はおかあさんなの」

「はっ、はぁっ……なに?」

「おかあさんなの」

「えっ……おかあ、さまで?」

「もういいよ」

 

 それは許しではなく、伝わらないという諦観の言葉。

 膝から重みが消えたが、湧き上がる欲望は未だあり続けた。

 

「あっ、待って……」

「どうしたの?」

「うっ……あっ……」

「あはは、情けなーい」

 

 少年はワインのコルクにナイフを挿入すると、乱暴に引き抜いた。

 栓と共に、赤い液体が宙を舞う。

 

「おかあさんはね、処女じゃダメなんだよ」

「はっ、はい……そうです」

 

 言っていることの意味もわからず、ただ頷くだけ。

 そうすれば、この暴れ回る欲望が少しだけ大人しくなる。

 普通では考えられないことが、彼の中で起きているのだ。

 

「菅原文華を仲間に(こわ)してくれたら……周りの女は好きにしていいよ。ママにしてあげる」

「ほっ、本当ですか」

 

 ママ。加賀津谷の記憶が確かであれば、この双子が情婦にした(・・)女性を指す。

 思い出す。文華の周囲にいた少女達の姿。

 すると、ズボンのチャックが裂けた。

 

「すごーい、壊れちゃった」

「誓って。菅原文華を壊すって」

 

 理性が叫ぶ。

 

───ハッタリだけで格上の娘を襲うのか!? 出来るのか?!

 

 その先にあるのは破滅だ。

 警察に捕まり、刑務所でかわいがられ、出所しても強姦魔として後ろ指を刺される。

 

 では、要求を断るのか?

 

「いいって言ったら、気持ちよくしてあげる」

「はいっ」

 

 欲望は理性を凌駕した。

 立っていられない体で這いながら、双子に縋り付く。

 

「きっ、気持ちよく……」

「おにいちゃん、どうするの?」

 

 ボトルから直接ワインを含むと、加賀津谷の背後に回る。

 

「いいよ。でもさ……」

 

 刃がベルトとズボン、下着を一気に切り裂く。

 冷たい金属が、熱を帯びた肉体に触れる。

 

「なっ、なにを……」

「勃起したちんちんって、切り落とすとすごく血が出るんだよ。頸動脈と同じぐらいさ」

「やめてぇ……」

 

 浮き上がった血管を撫でまわし、ついでに剃毛する。

 危機迫る状況だというのに、身体は言うことを聞かない。

 一切萎えることもなく、目的地を求めて硬直したままだ。

 

「じゃ、誓って。絶対に裏切らないって」

「うっ、裏切りませんっ!」

「ふふっ。痙攣で切れちゃうかも」

 

 思い通りの反応を得られた彼らは、満面の笑みで衣服を脱ぎ始めた。

 その手には、光るものが握られたまま。




◆意外な力関係───
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