TUONI ~闇を被った死神~   作:サークル『熊の巣穴』

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2021年8月2日ICT17:12 インドネシア共和国バリ州 FJW第4甲板『Plaza』

 

 攻撃予告の時間は徐々に迫っていた。

 現状は接近するボートの気配などは感じられなかったが、湾外へのルートでは巡回するRHIBの姿が見受けられた。

 当然ながら、小型船舶程度が脱出を目指しても検問に止められるわけだ。

 

 情報集積所となっているレストランで、敏明が健司に尋ねた。

 

「インドネシア政府の動きは?」

「皆無。連中、航行中の船でも攻撃されない限り、自発的に動かないんじゃないのか?」

 

 数十分前、現地当局のヘリが偵察半分に上空を旋回していた。

 しばらくは遠巻きに観察するだけにとどめていたが、予想された攻撃が来なかったためか、少しだけ接近した。

 そこに、独立軍側がMANPADSを撃ち込んで見せた。

 

 恐らく当初は警察側で対処するかを見極めるための偵察だったのだろうが、この被害を受けて軍の対応に切り替わったことだろう。

 今頃は海軍の艦艇がこの地に、300㎞圏外で集まっている可能性が高い。

 

「もしくは、オーストラリアやアメリカの介入を待っているか」

「相当数の外国人が巻き込まれてるからな。作戦に口を出すのは間違いないだろう」

 

 ユニットの情報部門とて、完璧ではない。

 特に敏明たちはこの国に就労ビザで入国し、当然現状は不法もいいところである。

 内情も聞こうと思えば聞けるが、違法な作戦中の日本側は作戦に嚙まない限り現地政府の内情を知るのはほぼ不可能だった。

 

「どちらにせよ、予告には間に合わないな」

「間違いなく」

 

 ユニットはもちろん、現地政府の攻撃の予告を受けている旨の連絡はしているが、やはりどちらも具体的な対策は打ち出せないでいた。

 相手は海・空の戦力を姿の見えない(ステルス・)ミサイルで迎撃できるのだ。陸から戦力を送り込もうにも、市街地のど真ん中で猛烈な抵抗が予想される。

 

「やるか? 命知らず(Daredevil)の大博打」

「手が欲しいな。俺たちだけでは無理だ」

 

 レストランを見渡す。

 じっと敏明たちを見ている保安員のスンファン。

 休憩のために訪れていたサンミン・スンヨプ・ソジュンの3キム。

 そして───この場にはいない男。

 

「なにか計画があるのか?」

 

 敏明の目に感じるものがあったのだろう。スンファンは歩み寄って尋ねた。

 その問いに、敏明は視線を慶太へとやった。

 

「できるかどうかは、海の向こう次第かな」

 

 ゲームやファンタジーではないのだ。

 悪の親玉、魔王城に押し入って魔王の首を獲れば解決。

 事はそんなに単純ではない。

 

 しかし、アプローチを変えれば可能である。

 問題の要である、海軍艦艇の接近を拒んでいるコンテナミサイルをどうにかすればいいのだから。

 発射機の数は現在も続いている亮の尋問(・・)によって、すでに発射されたものを含めて二基と特定されていた。

 

 残された最後のひとつ。さすがに3つも4つも用意はできなかったらしい。

 

「ビンゴ! 出た!」

 

 ちょうどタイミングよく、慶太がレストラン中に響く声で叫んだ。

 途中でそれに気づいて縮こまってしまったが、敏明はやさしく尋ねた。

 

「見つかったか?」

「はいっ、えーと。仲間が見つけてくれました。ここ、ホテルの中庭です」

 

 真上から見下ろした視点の衛星画像。

 内陸側のホテル。正面には甚大な破壊跡があり、中庭のど真ん中にはコンテナが鎮座している。

 

 健司の後押しによって、ベノア周辺の精密な、最新の衛星画像がOSINT集団とユニットの人間に送信されていた。

 OSINTという諜報には、精密な画像に加えて根気と時間がいる。

 地形の中にある違和感をしらみつぶしで探すという作業ともなればなおのこと。

 

 それでも、頭数さえいればひとりひとりに必要な根気と時間は減らせるのだ。

 故に、プロの支援を受けた趣味人の集まりがいち早く答えを見つけ出したのだ。

 

「場違いなコンテナの辺りは壊されてて、周りには座っている人らしきものが見えます」

「空爆除けのつもりか? これじゃ、ここにありますよって言うようなものだ」

 

 慶太の指摘通り、コンテナらしき物体の周辺には人らしき影もあった。足が見えているのだから、座っているように見える。

 もし、発射機の所在が特定された場合。真っ先に考えられる対応はMANPADSの迎撃を覚悟したうえでの精密爆撃、またはミサイル攻撃。

 精密と表される攻撃でも、数十メートル圏内は十分危険範囲だ。これを阻止あるいは妨害するために、人質を発射機周辺に配置したのだろう。

 

 もっとも、こればかりは現物を間近で見なければ断言できないのだが。

 

「一応、こっちと当局で照会してみよう。お手柄だぞ、少年」

「やったのは仲間ですよ」

「頭数揃えたのは君だ、誇れよ」

 

 そう言うと、健司は慶太の肩を叩いた。




◆殺すことだけが戦いではない───
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