TUONI ~闇を被った死神~   作:サークル『熊の巣穴』

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2021年8月2日ICT19:00 インドネシア共和国バリ州 FJW

 

 時が来た。

 事前に告知された時刻となると、なんとか攻撃を堪えていたパプア独立軍の士官がメガホンを取った。

 

「時間だ! 答えろ!」

 

 仲間の遺骸を雑に扱われ、彼らは怒りに満ち満ちている。

 対話で時間を稼げそうな様子はない。少しでも引き伸ばそうとすれば、命令違反覚悟で攻撃が始まりかねない。

 

 そんな様子を健司はブリッジの屋上から睨みつけていた。

 

「確認だ。最優先はRPG、次に操縦手。小銃は後回し。俺の射撃が合図だ」

「クルー代表、確認した。しかし、その距離で当てられるのか? スコープなしで」

 

 甲板で攻撃開始を待つスンファンが応答した。FJWのブリッジは海面から50メートル以上あり、さらに波は落ち着いているがそれでも互いの足場は揺れている状態だ。

 それも調整すらまともに施されていない小銃。これはスコープ以前の問題だ。

 真っ平な平地で的を相手にするならまだしも、実戦では厳しい状況だ。

 

「安心しろ。俺はコレクション(徽章)を一度も落としたことないんだ」

 

 そっと下の様子を伺い、目標を定める。

 最も危険なのは最寄りのボート。RPGのみならず、爆薬を貼り付けるかもしれない。

 それはご遠慮願いたかった。

 

「標的はチャーリー・ツー。他はそっちで決めてくれ」

 

 元より健司は他人と協働するのは得意ではない。使う方はとても得意なのだが。

 それを自覚している彼はあえて指揮あるいは遊撃という立場に身を置く事が多かった。

 自分が魅力的な男性でありながらも独り身なのはそのためだと豪語するが、そちらはもちろん本人の性格の問題である。

 

 閑話休題。ブリッジは周囲から最も目立つ建造物だ。

 故に、長時間様子を伺う、ましてや銃を向けて狙いをつけるような真似は出来ない。

 一瞬で照準し、重要目標を片付けなければ。

 

 M16のチャージングハンドルを引き、薬室に弾を送り込む。

 念の為、フォワードアシストを押し込んでボルトを強制閉鎖。

 呼吸を整え、瞬間を待つ。

 

「いいか! 10秒だっ、それまでに答えを出せ!」

「そんなに要らないよ」

 

 敵の士官へ静かに、独り回答すると、引き金に指を掛けた。

 

 立ち上がり、真下の標的に狙いをつける。

 肩に担ぐ筒状のものを目視すると、その持ち主の胸部を狙って発砲。

 命中、喉に着弾。

 

───思ったより上に飛ぶ。何を想定して調整したんだ?

 

 続いてRHIB後方の操縦手。今度は下を意識して狙いを調整し、発砲。

 着弾、狙い通り左肩から射入して肺と心臓を破壊。

 宣言通り、健司は狙ったボートの最大攻撃能力と機動力を一瞬で奪ってみせた。

 

 この間、僅か2秒の出来事。

 終わりではなく、始まりの2秒である。

 

「攻撃開始」

「了解っ、攻撃開始!」

 

 残ったボートの戦闘員を排除すると、健司は他のボートへ視線を巡らせた。

 指示通り、最優先でボートのRPG射手は排除されている。

 

 しかしやはり、都合よく事が運ばないこともある。

 遠くのボートへの攻撃が上手く命中せず、発砲を許してしまった。

 

「RPG来るぞ!」

 

 警告の直後、ブリッジの後方を弾体が過ぎ去り信管が空中で自爆させた。

 制圧射撃が功を奏したというべきだろう。

 銃撃は命中せずとも、至近弾の衝撃波が与える威圧感と恐怖は射手の判断力と冷静さを奪い、精度を著しく低下させるのだ。

 

 RPGの2発目は健司が直々に阻止した。

 何度か船体に穴を穿った銃撃も徐々に減り、やがて完全に収まった。

 

「状況は? クリアか!」

「クリアっ、敵部隊制圧!」

 

 甲板で戦う保安員達が改めて、こちらの勝利を確認した。

 しかしこれで終わりではない。ようやく最初の関門を突破したに過ぎないのだ。

 

「よし、デアデビルども。仕事の時間だ、暴れてこい」

「了解。射撃班、後に続け!」

 

 健司から命令を受けた敏明は攻撃隊のメンバーを連れ、一斉に海面へと飛び込んだ。

 そのまま付近を漂うボートを拿捕すると、残りのメンバーを回収。

 一瞬たりとも止まることなくコンテナミサイルの発射地点へ。

 

「さあて。こっちも仕事をするか」

 

 健司のすぐ背後にあったのはFJWの無線アンテナ。

 制御装置に多少の改造を加えて、無線機にリンクさせれば───

 

「おいっ、状況はどうなってる! 何が起きた!」

「船に向かった部隊が全滅! 連中がボートを奪ってこちらに向かってきます!」

「逆侵攻?! 奴ら正気なのか!?」

 

 敵が使っている周波数の無線を一方的に傍受。

 どうやら身内同士ではインドネシア語やパプア語を用いるらしいが、無線ではロシア語を用いている様子だった。

 ロシア語は健司も自在に操れる言語である。

 

「それじゃ、ちょっとばかし踊ってもらうか」

 

 咳払いをひとつ。

 喉の調子を整えると、健司はマイクに向かって口を開いた。




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