TUONI ~闇を被った死神~   作:サークル『熊の巣穴』

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2021年8月2日ICT19:17 インドネシア共和国バリ州 ベノア港

 

 目標のミサイルはベノア港の南東端、フェリー乗り場に設置されていた。

 ネット上の情報を調べてみると付近に沿岸警備隊が管理する灯台があったはずだが、当然援助は期待できない。

 むしろ、施設は敵が管理下に置いていると見ていいだろう。

 

 まず最初に飛んできたのはRPGの弾頭だった。

 正面からではなく正面左、目的地からではなく通報を受けた戦闘員が当てずっぽうに放ったのだろう。

 大きく手前に着水し、大きな水柱を上げた。

 

「いい歓迎だ! 先行きがいい!」

「ああっ、俺たちに弾は届かない!」

「マジで言ってるなら、お前らイカれてるよ!」

 

 スンファンと敏明が笑い合うも、それを聞いていたサンミンは絶叫するほかない。仮にも近くで炸裂するだけで自分達を殺す攻撃だったのだ。

 笑い飛ばせるなんて、頭がどうかしているとしか言いようがない。

 

「トシアキ、今は聞かないでおこう。昔はどこにいた!」

「SBU! 海上自衛隊の特殊部隊(SpecialForce)!」

「俺はUDTだ! 後輩と会ったかもな!」

「やっぱ特殊部隊ってのはイカれてるよぉっ!」

 

 笑いあったかと思えば、今度は昔話。

 間近に迫る戦闘の緊張でサンミンの心臓は爆発寸前だというのに、なぜ飲み会の席で話すような話題で盛り上がれるというのか。

 

 彼の不安の元凶は、イカれ元特殊部隊隊員ふたり組ではない。

 海兵隊時代からの友人であるスンヨプとソジュンと離れ離れになった影響だ。

 

 どちらも自業自得とはいえ、知樹との乱闘で負傷し───ソジュンに至っては足を砕かれている───、足手まといにならぬようにFJWで留守を任されていた。

 彼にとってここは気の置けない友人、戦友のいない戦場なのだ。

 

「それよりも、進路はそのままだ海兵! ビビったら全員お陀仏だ!」

「わっ、わかってるよぉっ!」

 

 飛んで来る弾がRPGに加えて小銃弾も加わった。

 どちらも射程圏外からのへろへろ弾だったが、当たればよくて大ケガ最悪即死。

 とにかく外れを祈るばかりのくじだ。

 

「こちら赤9! ミサイルの防衛を最優先……」

「こちら赤9、命令を訂正する。政府の犬が陸路より接近。ベノア港及び市街地の部隊は防衛を最優先せよ」

 

 傍受していた敵の通信、中でも司令部と思われる連絡が突如として塗り替えられた。

 

「始まったな。情報工作だ」

 

 かつて電子の神童と呼ばれた健司に無線機を奪われたのが、彼らの運の尽きだ。

 外部とも協力してあれよあれよという間に周波数の暗号は解読され、FJWが搭載している無線機から特定周波数に最大出力で発信。

 ECM、電波妨害に近い要領で通常の通信を妨害。一方的に偽の命令を押しつけたのだ。

 

「どのぐらい持つ?」

「連中がどれだけしっかりブリーフィングしたかによる。それよりも今は、目の前に集中だ」

 

 ミサイル発射機はもう目前に迫っている。

 つまり、敵の銃口も相応に近づいていることを意味する。

 

「突っ込め! 日和るなよ!」

「ちっくしょおおおおっ!」

 

 目的地から200メートルほど離れた小型ボート用の波止場。

 そこへ彼らの乗るRHIBは乗り上げた。




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