まず第一に。
いわゆるドレスのような衣装の購入は、学生にとってあまり現実的ではない。
「けっ、結構するのね……」
安いもので4万程度、高いものは桁が増える。
裕福な家庭であれば何着か用意できるかもしれない。
しかし彼女達には事情があった。
「ちょっと、これを買うのは……」
「家から出してもらうのは?」
「それは嫌」
文華の家は十分裕福に分類される家庭だ。
しかし、これ以上はなるべく迷惑を掛けたくない。
そんな自立心あふれる彼女が、両親にねだれるはずがなかった。
「ハンナはどーすんの? ご両親に頼めばいいんじゃねーの?」
知樹はハンナの家を留学させる余力のある家庭と見ていた。
それなら、仕送りぐらいしてくれるだろう。
少々デリカシーに欠けるが、当然の発想だ。
しかしそれは、彼女には当てはまらなかった。
「だめ、それだけは。自分で稼ぐ約束でここにいるから」
「……生活費を?」
「
彼女にしては珍しく、手短な回答。
それがまた、知樹を感心させた。
知樹は父からこっそり送金される仕送りで生活していた。
少し考えれば、警察からマークされている人間からの送金に疑問が浮かぶが、そこは彼の想像の外だった。
閑話休題。バイトまたは仕事に使われるべき時間は、自身の鍛錬に回している。
だというのに彼女は、生きるための資金は自分で稼いでいるのだ。
知樹からしてみれば、かなり立派な行いだった。
「そりゃまた……なんで?」
「親はアメリカに留学しろって言ってたけど、私が日本を選んだから」
「どうして?」
「あなたにしては珍しいね。私に興味を持つなんて」
ハンナがいたずらっぽく笑みを浮かべた。
図星を突かれたが、論点ずらしに勘づかないほど鈍感ではない。
「話逸らすなよ」
「そうしてもいいけど、たまにはマックのことも聞きたいなーって」
そう言われて、知樹は初めて自分の身の上を話していないことに気付いた。
故意でそうしていたわけではない。父に迷惑を掛けないように振る舞っていたら、自然とそうなっていただけだ。
───多少なら、いいかもな。
自分だけは聞くだけ聞いて、聞かれたらだんまり。
これではまるで、自分が嫌いな
それは嫌だ。少しだけ、考えを変えた。
「ま、いいよ。そのうちな」
「そのうちなの? じゃ、私もそのうち」
不特定多数の人間が聞ける状況下で話す気にはなれない。
とはいえ、知樹の内心は変わり始めていた。
「ねぇっ、これ見てよ」
慶太が指差す方向。
そこには天井から下げられた看板があり、こうあった。
『レンタル承ります
試着の際はお声かけください』
願ってもない機会だった。
ハンナの瞳がきらりと光った。
◆ハンナが留学した理由とは───?