TUONI ~闇を被った死神~   作:サークル『熊の巣穴』

25 / 214
24

 ショートメッセージの着信。

 発信者は目前にいるはずの文華だった。

 

───あれ、何の用だろう。

 

 訝しく思いながらも、慶太はSMSアプリを起動する。

 

『ふたり、楽しそうだね』

 

 文面を見て、隣に座る知樹とその向かいのハンナに視線を巡らせる。

 普段から内心を見せない彼は相変わらずだが、ハンナは付き合いが薄くてもわかるほどに楽しんでいた。

 

 この空間を邪魔しないために、このような形で話し掛けたのだろう。

 

『そうだね』

 

 気の利いた言葉は出せない。

 最低限の相槌を送信し、顔を上げて件の二人を見る。

 

「ねぇマック。『真夏の夜の淫夢』って知ってる?」

「『真夏の夜の淫夢』ぅ?」

 

 そっと視線を画面に戻した。

 関与したら社会的な死を迎えること必定の話題である。

 

 大半はシェークスピアか昔の歌の聞き間違いと判断し、聞き流したことだろう。

 しかし今の言葉を聞いて店内の数名、主に若い男性がギョッとした顔で見ていた。

 明らかに外国人な美少女がそう言っていては、聞き間違いより自身の正気を疑うのが正常な反応である。

 

───って、ハンナさんは何を聞いてるんだぁっ!?

 

 まさか、彼女は淫夢が日本のトレンドだとでも考えているのだろうか。

 普通ない。いや、しかしこの会話の流れはそうとしか考えられない。

 

「なにそれ」

「日本の映像作品から始まった文化で、今は中国や韓国でも広まってるのよ」

「ろくでもないのはわかった」

 

 知樹はじと目で返した。さすがの分析力というもの。

 慶太は感心した。彼の観点は別にあったのだが。

 

「ちょっと前に行った、フィンランドのイベントのプレゼンで知ったんだけど……」

 

───アレ(・・)の現場にいたの!?

 

 ちょっとした歴史的現場に居合わせた人間だったとは。思わず慶太はたじろいだ。

 それよりも、ろくでもないと言われて話題を継続する方もさすがである。

 いや、実際ろくでもないコンテンツなのだから抵抗が少ないのだろうが。

 

 少し挙動不審になっている慶太のスマホに、再びメッセージが届いた。

 

『止めたほうがいいかな?』

 

 文華さんのおっしゃる通りである。

 視線を上げて彼女と視線を交わすと、惜しい気持ちを抑えつつ慶太は口を開いた。

 

「えっとさ、そろそろ次行かないと」

「ん? あっ、ホントね!」

「次はどこ行くんだ?」

 

 5分以内に平らげた紙箱をまとめつつ、知樹が言う。

 ひとりでバーガー五個とフライドチキン二本食べておいて、まだまだ余裕そうだ。

 

「次は、腹ごなしだよ」

「……へぇ」

 

 彼の瞳が怪しく光った。

 

◆ ◆ ◆

 

 ノースランド。大きな商業施設に併設されることが多いアミューズメント施設である。

 アミューズメントと一概に言っても、パチンコやボウリングだけではない。

 今どき珍しい巨大なゲームセンターやカートレースなどが楽しめる場所である。

 

「なんか……目がチカチカするな」

 

 入ってすぐのゲームコーナーが放つ光は、知樹からしてみれば彩度が高過ぎた。

 強烈な音もひどい。航空機のエンジンほどではないが、彼が長居できる場所ではなかった。

 

「大丈夫、目的地はここじゃないから」

 

 慶太の案内でエスカレーターを登ると、ゲートとカウンターのある空間に出た。

 カウンターの看板にはアミュッチャの文字が見える。

 

「アミュッチャ、知らない?」

「知らない」

「簡単に言えば、色んなスポーツができる施設ね」

 

 日本のことをフィンランド人から教授される謎の状況。

 知樹はちょっとした敗北感を覚えたが、知らない以上は仕方がない。

 

「スポーツって?」

「そりゃあ……バスケットボールとか、サッカーとかあるじゃない?」

 

 それならどこでも出来る。

 と反射的に口が出そうになったが、少し考える。

 

 クラブに入ればいい、グラウンドでやればいいという発想は学生にしか許されない。

 社会人ともなればそういった活動の場は減る。

 特定のクラブ等に入会しようにも手間、それなりの熱量を備えていなければ無駄だ。

 場所を貸し切るにも、当然費用が馬鹿にならない。

 

 カウンターの料金表を見れば、この場の需要を理解できた。

 

「なるほどなぁ。あくまでお遊び用(・・・・)ってわけか」

「そういうこと。楽しそうじゃない?」

「たまにはありかな」

 

 入場は予約済みなのでスムーズに終わった。

 ゲートの先はフリーゲームのコーナーと、非常に目立つロデオ・マシーン。

 暴れ狂う馬を模した乗り物にしがみつく遊びだが、そこには先客の集団がいた。

 

「ロデオは混んでるから、先に上行きましょ」

 

 先頭のハンナに続いて、階段を登る。

 続いて現れたのは、深緑のネットに仕切られた空間だった。

 

 見慣れない空間に面食らった知樹だが、少し見回して意図を理解した。

 ネットの中ではボール遊びやアーチェリーに興じている人々がいる。

 これは無用なトラブルを避けるための措置なのだ。

 

「バスケ空いてる! ルールわかる?」

「舐めんなよ。授業でやってんだから」

 

 入り口をくぐり、コートに入る。

 バスケット・コートは一般的なフル・サイズのものではなく、ゴールが一つのハーフ・コート。

 いわゆる、スリー(3)オン(x)スリー(3)用のコートである。

 

 人数は4人、綺麗に男女一組で割れる。

 最初にボールを手にしたのは慶太だった。

 

「じゃ、ケーが先攻な」

「わかった。姉さんと組めばいいのかな」

 

 知樹とハンナが配置につく間に、ボールがタンタンとリズムを刻む。

 慶太はただ弾ませているわけではない。

 突く手を変えたり、足の間を通したり。

 様々な技を混ぜて感覚をスポーツ用に整えていた。

 

「うわ、ケーくんうまっ……」

「気をつけたほうがいいぜ。あいつ、バスケはかなり出来る」

 

 普段と変わらない表情に、なんとも言えない凄味が混じる。

 以前、慶太は才能がないと自称していた。

 

───あいつも、中々言うよなぁ。

 

 少なくとも、彼の動きは才能のない人間のそれではなかった。




◆ケーの実力やいかに───?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。