「でね、先輩が言うの。イキすぎィ! って。セリフも意味わかんないけど、その顔が面白くって」
「……えーと、実際に見たら面白いんだろうな」
怪しい会話を交わす二人。
女性を一人で家に帰すわけにもいかず、知樹がハンナを家まで送ることになったわけだ。
もちろん、これはハンナと慶太の予定通りである。
「見てみる? ニヤ動でほんへ投稿されてるから」
「いや、自分で調べるからさ……あっー! メッセージ、メッセージが来たからさ!」
なにやら嫌な予感を覚え、話題を変えたかった知樹に折よくショートメッセージが届いた。
差出人は慶太だった。
「ケーからだ、なんかあったのかも!」
「どれどれ?」
ハンナが身体を押し付けつつ、知樹が持つスマホを覗いた。
未体験の感触に、嗅いだことのない生物の匂い。
───なんか、変な感じがする。
未知の感情に困惑しつつも、知樹はメッセージを開いた。
『たすせて追われてる』
その一文を読んで、思考が切り替わった。
「……あんまし、笑えない冗談ね」
ハンナの脳裏に、誘拐された記憶が蘇る。
彼女のことを考えるなら、やるべきではない冗談だ。
しかし、慶太はこんな真似をする人物ではない。
知樹は真摯に返事を出した。
『マナーモードにしろ。警察は?』
『電話が圏外になってる。姉さんのは両方ダメだけど、僕のはサブSIMでネットが使える。多分3.7GHz帯だけが生きてる』
奇妙な話だ。日本の、ましてや市街地のど真ん中で圏外とは。
特殊な環境か突発的なメンテナンスでもなければ、そんな事態は起こり得ない。
何よりも、特定の回線だけ免れるということがあり得るのか?
「ネットだけ使えることなんてないでしょ? ……ホントに
「いや、それはどうかな」
ハンナの言う通り、ネット回線だけ使える状況というのは稀だ。
しかしあり得るとしたら……知樹はさらに気を引き締めた。
『身の回りの安全を確保しろ。場所は?』
『今は工場にいる。たぶん廃業してる』
現在地と思われる廃工場の住所が送信された。
幸いにもあまり遠くない。バスに乗る前で助かった。
『確か、ネットでも警察に通報する手段があったはずだ。それで助けを呼んでみろ。俺もすぐ向かう』
知樹の想定が正しければ、単なるチンピラに追われているだけではない。
特定の周波数を妨害可能な
「ハンナ、悪いけど先帰ってて」
「……また
呆れたような表情でハンナが問いかける。
知樹は笑顔を浮かべて応えた。
「友達がヤバかったら、助けるモンだろ?」
そう言うと、振り返りもせずに駆けていく。
今時のフィンランド───いや、日本にすらそうそういないタイプ。
「あなた、ホントにそういう人なのね」
僅かに疑問に思っていた。
果たして、幕内知樹は本当に自分が思っているような
恐らく、これは慶太の性質の悪い冗談。
きっと「騙されちまったぜ」なんて言いながら戻ってくるのだろう。
───私は、本物の英雄に惚れたんだ。
自分の見る目を誇りつつ、家路を辿り始める。
そして、隅に停車していたバンを通り過ぎた。
◆次回、激闘開始ッッッ!