TUONI ~闇を被った死神~   作:サークル『熊の巣穴』

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 幹線道路から離れた位置にある小さな花屋。

 恐らく個人経営の店舗で、店先ではそこそこ高齢と見える女性が商品の手入れをしていた。

 

「ちょっといいですか」

「はい、なんでしょう」

「実はこの辺りでスマホ、落としたみたいで……」

「ああ、あれ! ちょっと待ってね」

 

 曲がった腰で、足早に奥へと向かっていく。

 当然、これは知樹が仕組んだ策だ。

 

 警察は事態が落ち着けば犯人グループが持つスマホを押収したがるだろう。

 知樹とて、警察に拘束されず事態を収められるとは思っていない。

 尋問した犯人から奪ったスマホも、調べればすぐに見つかる。

 

 そこで慶太のいる廃工場へ向かうまでの間に、閉店間際だったこの花屋の前で奪ったスマホを落として(・・・・)おいたのだ。

 当然、店員しか気付けないような場所を狙って。

 

 犯人が通ったのならこの店も調べられたかもしれないが、はっきりと通ったのは知樹だけだ。

 事件の中で浮いた存在である自分ならば、警察の捜査も遅れると踏んだのだ。

 

「あった! あったよ! いやー、よかったね。ここで落としちゃってさ」

「ありがとうございます」

「ああ、でもね……」

 

 受け取ろうとする知樹に対して、店主は条件をつけた。

 

「一応、ロックの解除くらいしてくれる? 疑ってるわけじゃないんだけど」

「もちろん……」

 

 想定の範囲内だ。

 元の持ち主にロックを解除させた際に、パスキーは盗み見ている。

 店主の目の前で『01−10−24』。生年月日を入力する。

 

 ホーム画面では野球選手がバットを振りかぶっていた。

 

「確かに。ごめんね、疑うようなことして」

「世の中には、ろくでもない輩がいるんで。当然っすよ」

 

 彼女を騙すような真似をするのは、知樹としても心苦しかった。

 しかし、警察がまともに動けない現状で指を咥えて待てるほど、彼は大人しくなかった。

 

───本当に申し訳ないけど、これも正しいことのため。いいじゃないか、人は傷つかないんだし。

 

 非常に困ったことに、彼を動かしているのは曇り多き義憤なのだ。

 

「それじゃ、ありがとうございました。なんか……いいことあったら、花、お願いします」

「あはは、ありがとねぇ」

 

 頭を下げると、自宅に向けて歩き出す。

 知樹の目当てはスマホにある地図アプリだ。

 

 テレグラムの履歴は確認するまでもなく、肝心な部分は削除済みだ。

 知樹はもちろん、警察でも削除されたデータを復元するのは難しいだろう。

 

 しかし、少し考えてみよう。

 犯人達(彼ら)は、目的地を暗記出来たのだろうか?

 スマホのパスキーを生年月日にするような人間に?

 

 どこかに横着()がある。

 知樹はほぼ確信していた。

 

 地図アプリ。これはスマホに標準搭載されている代物だ。

 施設名や住所を打ち込めば、大体の場所へ案内するナビ機能もある。

 そして何より、過去検索した履歴も記録されるのだ。

 

 知樹の読みは当たった。

 過去の履歴にある大半は施設名(・・・)での検索にも関わらず、最新の記録は名気屋市西部、海部(かいふ)町の住所(・・)を検索していた。

 

 詳しく調べると、そこはかつての部品工場。

 現在は廃業し、建物だけが貸し倉庫として残るばかり。

 

「見つけた」

 

 ここが単なる受け渡し場所で、ハンナはいない可能性がある。

 徒労に終わり、警察から睨まれる結果に終わることも十分あり得る。

 しかし、実態の見えない相手を追うというのはそういうことだ。

 

 ついに見つけた一本の糸。

 糸を切らないよう、切られないように。

 なにより、ハンナを傷付けさせないため。

 

 最善を尽くすため、知樹は一度帰路に着くことにした。




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