余裕というカバーに覆われた不安は、その力を増していた。
時事系まとめサイトの記事一覧をスクロールさせると、見覚えのある文字列ばかりが目につく。
『乱交パーティーの裏に隠された処理場』
『東川湖の別荘で複数の遺体発見』
『被害者には羅宮凪県警幹部も』
『東川郷にダーク・ステートの武器庫か!? ミサイル含む兵器複数発見!』
ニュースサイトでは
なかには的外れな記事もあったが、少なくとも大手メディアがこの秘密を報じてしまった。
「まずい……」
少年は背中に流れる汗を感じた。
ゴミ捨て場の存在は、妹の持つ力よりも秘密にするべきものだった。
まだ不可思議な力は誤魔化しが効くが、こちらは現行法で対処されてしまう。
唯一の救いは、報道が自分達の存在を知らないという一点のみ。
いつ嗅ぎつけられるか。
あるいは、もう既に捜査の手が及んでいるか。
頬が強張った。
「大丈夫よ、お兄ちゃん」
暖かさが少年の背を覆う。
心地よい心臓の鼓動が互いの体内で共鳴する。
「怪しくなったら逃げちゃえばいい。いつもみたいに」
「……そうだね。でも」
「うん。おかあさんも一緒にね」
そのためにも、今は待たなければならない。
スマートフォンの画面を睨むと、ホップアップ通知が。
加賀津谷。待ち人の名だった。
『お待たせしました。菅原文華を捕まえました』
即座に通知をタップし、テレグラムを起動。
入力を始めた。
『いまどこ』
『91号を北上しています。警察にも追われていません』
待ち望んだ情報。
無茶な要望だったが、警察にも追われていない。
理想的な展開だ。
『オーラルゲートで合流ね』
国道91号線に近いラブホテル。
ここは頻繁に加賀津谷が利用している場所だ。
都合がいいのはここしかない。
しかし、その目論見は外れた。
『自分もそう考えていたのですが、なにやら救急車がいて騒ぎが起きています』
それは、望ましくない。
人が多い場所では、妹の力で余計な混乱が起きかねない。
場所を変更する必要があった。
『オーラルゲートから少し東に行くと、車の処理場があります。車両の処分ついでに、こちらはどうでしょう』
車の処理場、スクラップヤードだ。
少年の記憶では、確か外国人の出入りが多いヤードが付近にあった。
加賀津谷が言っているのは、そこの事なのだろう。
なぜ車の処分に付き合わなければならないのか。
苛立ちが顔を覗かせたが、少し考えた。
あの周辺はラブホテル以外にまともな施設はない。
それこそ、件のヤードぐらいなものだ。
もし、加賀津谷がそこと交渉出来る───それこそ犯罪に使った車の処分を頼めるぐらい───関係ならば妥当なのではないか。
渋顔が、少しだけ緩んだ。
「ねぇ。こいつ本当に加賀津谷?」
「え?」
突如、画面を覗いていた妹が口を挟んだ。
言われてみれば、加賀津谷にしては言葉が丁寧すぎる。
本人はもっと、下手な敬語で下品だったはず。
「……きっと、誘拐が初めてだから緊張してるんだよ」
「ふぅん。それもそっか」
偽物だとして、誰がそんな真似をする?
警察はそんな手段で捜査はできない。
今までもそうだった。
それ以外の第三者? 有り得ない。
多少不審な点があったとしても、加賀津谷は妹が虜にしている。
ある程度の正気を保っているが、彼は
どう考えても、逆らうことは出来ない。
そう、裏切りはあり得ないのだ。
なぜなら、今までなかったから。
「でもそうだね。一応、保険は用意しておこっか」
「おかあさんも、いっぱい気持ちよくなって喜んでくれるよ」
適当に返信すると、音声通話の準備をする。
通話先は、パパ達F。
「もしもし、僕だけど。今すぐ手伝ってね」
スマホに耳をあてながら、部屋を後にした。
ここで、写真の一枚でも要求していればあるいは。
彼らはわずかな間だけ、逃げ延びることが出来たかもしれない。
◆狩人から獲物へ───