TUONI ~闇を被った死神~   作:サークル『熊の巣穴』

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「バーカ」

 

 髑髏の死神は嘲笑した。

 数を相手に真っ向から挑むには、リスクが大きい。銃持ち相手ならば運が要る。

 隠密で排除するには、状況と───やはり運が必要になる。

 

 知樹はそれを成す腕はあると自負していたが、運に殺されてはたまらない。

 

 しかし幸いにも相手は素人で、武器に対する認識も甘く考えも浅い。

 ならば、敵の()を武器に出来る。

 死を喧伝し、虚報を流せば、近くにいる(何か)を殺そうとする。

 近づかずに、かつ手軽に殺すことが出来る武器()を用いて。

 

 突発的な計画は完全に成功していた。

 

 品質の怪しい小銃を捨てると、ズボンに差した拳銃を抜く。

 ここからは人や武器の輪郭をなるべく隠したい。

 さもなくば、動くもの全てを撃つ連中に狙われてしまうだろう。

 

 敵の戦闘員は互いを敵と誤認し、銃撃戦を繰り広げている。

 廃車の隙間を這って進む。可能な限り狙われないように。

 

「おいっ、なんだよっ! どういうことなんだよっ!」

「わああああっ!」

「逃げろっ、逃げろぉっ」

 

 目的地は駐車場の兄妹とやら。

 スマホから聞こえて来る声からして、もはや誰も指揮統率が出来ていないのは明白だ。

 いま助けを求めても、向かう者はいない。

 

「いたぞおおぉっ!」

 

 目前を光が過ぎると、音より速い衝撃が横切った。

 知樹を狙ったものではなく、暗闇に見えた何かを狙ったもの。

 つまり、無駄弾だ。

 

 しかしそんな攻撃でも、偶然発砲のタイミングと射線が合えば死ぬ。

 これは銃のみならず、刃物や鈍器でも大差はない。

 武器の届く間合いで振えば、傷付くのだ。

 

 息を殺し、標的が次の幻覚に視線をやった瞬間。

 廃車の隙間から這い出て、廃バスの中に滑り込む。

 

 サビとホコリのにおい。

 かつて多くの人々を乗せたであろう車両には、腰を落ち着けるためのシートさえなかった。

 

 人の気配。

 暗闇は懐中電灯で照らせば消え失せる。

 死角となりうる遮蔽物は撤去済みだ。

 

「ここだっ、ここならっ」

 

 男がバスに飛び込んできた。

 自分を狙う誰かがいないか背後を睨みつつ、車内を照らす。

 

「よしっ、誰もいない……」

 

 一瞥して安全を確認すると、照明を消す。

 姿勢は低く。外への警戒を続けたまま、車内の半ばほどで腰を下ろした。

 

「なんなんだよ、くそっ。頭が痛えっ……」

 

 安堵した途端、頭痛が彼を襲った。

 まるで脳細胞から皮膚を引っぺがしたような。

 自由を取り戻した痛みだった。

 

「……頼むから、誰も来ないでくれ」

 

 乞うような独り言。

 そのひとことは、今まさに自分を狙う者に情報を与えてしまった。

 いま、自分は絶好の獲物であると。

 

 男は安全を確かめるため、窓から外の様子を伺った。

 すると、天井から一筋の影が伸びた。

 音もなく伸びる闇は鋭利な先端を男の首筋にあてると、静かに裂いた。

 

 廃バスでは血の滴る音と空気の抜ける音が響いていた。




◆弱き者から狩る───
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