TUONI ~闇を被った死神~   作:サークル『熊の巣穴』

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 講堂には20ほどのパイプ椅子が並び、先客である女学園の生徒達がちらほら。

 明らかに部外者、というより異性である知樹ら男二人組は周囲の注目を集めていた。

 

「幕内くん、やっぱり来るべきじゃなかったかな」

「なにが?」

「なにがって、目立ってるよ僕達」

「だったらなんだよ。第一、お前も聞きたかったから俺を誘ったんだろ?」

 

 その質問に慶太は答えられなかった。図星なのだ。

 気恥ずかしさに顔を伏せてしまった彼を横目に、知樹がフォローを入れる。

 

「ま、俺も一人だったら来れねぇかな」

 

 知樹が呟くのとほぼ同時に、慶太の従姉妹である文華が壇上に現れた。

 彼女の手にはマイクだけ、楽器の類はない。知樹は不審に思った。

 

「これより、練習始めます。みなさん、静粛にお願いします」

 

 なるほど、司会役か。納得したところで、文華が演目を告げる。

 

「フィンランド民謡、イエヴァン・ポルカ。演奏者、ハンナマリ・ヒルヴィサロ」

 

 日本ではなかなか聞かない名である。

 イエヴァン・ポルカも名前だけではピンとこない方も多いだろうが、『ネギ振り回してる女の子の動画』と言えば、伝わる人もいるかもしれない。

 

 文華の背後から現れたのは、一人の少女。

 長い銀髪をなびかせて舞台の中央に立ち、碧い瞳で客席を一望した。

 

 知樹と視線が合う。一瞬、彼女が目を見開く。

 

───あの子は……誰だっけ?

 

 既視感を覚えながらも、知樹は逸らす事なく視線を絡ませ続けた。

 ややおいて、壇上の少女は深呼吸。そしてバイオリンの弦を(はじ)いた。

 

 ピチカート。弓で弦を()くのではなく、指で(はじ)く奏法だ。

 弓を使って演奏すると考えていた観客達は想定外の事態に動揺した。

 

 前奏が終わると弓を持ち直し、弦に当てた。

 あくまでこれは前奏のためのアドリブだったのだ。

 彼女は観客が抱いたそんな想像をさらに上回った。

 

「♪ポルカが聞こえちゃ仕方がない、私はリズムを刻む♪」

 

 日本語による歌唱。フィンランド人と思われる彼女が、突如として完璧な作詞と発音を聞かせたのだ。

 いや、作詞は別の日本人によるものか。それでも、すごい事だった。

 

「♪イエヴァさん一緒に踊りましょ、堅物なんて置いといて♪」

 

 歌詞と歌い方に強い情感がこもっている。

 そこから、作詞も彼女自身がやったのではないか? という疑念が湧いてくる。

 

「♪いちいちあいつらウザいのさ、こっちは好きにやりたいの♪」

 

 知樹に音楽の知識はない。そのうえで、この演奏をなかなか楽しんでいた。

 その一方で、なぜこのような形での練習をしたのかという方向で思案していた。

 

 舞台袖から壇上の少女を見る文華へ視線をやる。

 

───あ、青筋立ててる。

 

 そんな気がした。




◆常識に縛られない少女───
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