2021年5月29日 永葉県大桑村大桑研修センター
顧問の教諭である弥生も合流し、改めて見学が再開された。
この多目的ホールは最も力を入れて改装された建物だ。
住民の避難場所にも指定されているため、耐震補強工事は序の口。
補強で屋根に手を入れるついでに、天窓を設置することで日中の消費電力を削減。
さらに太陽パネルを設置することで、夜間の電力も多少は自前で賄う。
SDGsへの配慮をアピールし、補助金をゲットしたのだ。
「ちょっとしたタオル類は用意がありますが、剣道の備品はありません。そちらで用意お願いします」
「お風呂用のバスタオルとか、どうなってますか? かなり汗をかくので、シャワーが必要になるので……」
「ああ、それなら……」
大人同士の会話に、学園生が口を挟む隙はない。
暇を持て余した春香は「だりーし」と言わんばかりの表情で、背中を壁に預けた。
楽な姿勢と来れば、次はスマホだ。
あるいは、DMに連絡が入っているのではないか。
この年頃の女子にはありがちな、若干強迫感の混じった確認動作を行う。
真っ先に目に入ったのは、オフラインを示す画面。
オフライン、即ち電波が届いていない。スマホが使えない。
彼女にとって最悪の光景が広がっていた。
「げーっ、圏外じゃん! ここ電波通るんじゃなかったのぉ?」
「えっ。そんなはずは……」
驚いた様子の獄介も自身の携帯に手を伸ばすが、彼のものも同じく電波の不通を示していた。
瑩も同様。試しにブラウザアプリを起動してみたが、接続出来なかった。
恐らく、通話も不可能だろう。
「なんだろう、ちょっと固定回線の方も調べて来ますね」
流石にこの状況はまずい。現代において、電波の不通は緊急事態である。
ましてや、インフラが死につつある地方となればなおのことだ。
特に獄介の場合、この施設のWi-Fiに接続していた。
こちらも繋がらないのであれば、最悪の状況が想定されるのだ。
ふと、瑩は視界の片隅の光が気になった。
先ほど見て回った倉庫の照明だ。
天窓の日光で消し忘れに気付かなかったのだろう。
しかし、これで停電が原因ではないのは確認できた。
「すぐ戻ると思うから、待ちましょ?」
「はぁ……ツイてないなぁ」
弥生の励ましも虚しく、春香はその場で腰を下ろした。
───そう、ツイてないだけ。待てばいいだけ。
弥生と春香の言う通り、ただそれだけの話。
だというのに、彼女の予感は叫んでいた。
───今はとても、危険な状況だ!
瞬きをするごとに、予感は強くなっていった。
◆徐々に迫り来る異変───