暴徒達は生存者を多目的ホールへと運び込むと、両手足を縄で縛り上げた。
一通り武器の有無を調べさせたあと、デミノはホールの出入り口を破壊しながらやって来た。
安全を確保してから吟味しようというわけだ。
「下等生物を一列に並べる。ぐふふ、悪くない光景だ」
巨大な瞳で一行の顔を眺め、最後に瑩と向かい合った。
暴徒に立ち上がらせると、余裕を見せつけるためにぐいと顔を寄せる。
そして、大きな舌で彼女の頰を舐めた。
「や、めろっ」
「ぺっ。妙な味が混ざってるなぁ、化粧か? 下等生物のくせに」
唾液を吐き出すと、今度は春香へと視線をやる。
蒼白の顔面から、さらに血の気が失せた。
「こっ、殺さないで……」
「俺は殺さんさ。結果的に死ぬかもしれんが」
彼女を怯えさせるのに、その言葉は十分すぎた。
見ていて気の毒になる程、涙が溢れ出した。
「くくく、いいぞ。絶望エネルギーが高まっている。もっと練り上げたいなぁ」
ちらり。瑩を一瞥すると、今度の視線は反対側で拘束されている獄介へ向けられた。
大きな口が釣り上がる。
「いいことを思いついたぞぉ、オスの下等生物」
「はっ、はいいっ」
「お前は死ぬ。その前に、いい思いをしてみたくないか?」
「いいっ、思い?」
あまりに唐突な提案に、彼はキョトンとした顔で問い返した。
その答えは、デミノ自らの手で行われた。
指示を飛ばすと、彼女の尻を向けるような形で獄介の前に置かせた。
「犯せ」
「は、は?」
困惑する彼へ追い討ちをかけるように、制服のスカートを捲り上げる。
薄いピンク色の下着に覆われた、いい形をした尻が露わになった。
「お前の中で、生殖本能の高まりを感じるぞ。どうせ死ぬなら、快楽の中で、全てを放出しながら死にたい。そうだろう?」
心中にあった本心が、他者の口から吐き出された。
自分より二回り───娘がいたら、このぐらいの年頃だろうか。
そんな娘を好き放題してみたい。
「腹谷さん! 言いなりになっちゃだめ! 正気に戻って!」
ひた隠しにしていた欲求。
圧倒的な力に、その解放が許されたのだ。
「仕方がないんだ。お前は生殺与奪の権を握った相手に、許されたのだ。誰も非難などできん、俺がさせん」
都合のいい言葉が耳をくすぐる。
どんなに都合のいい言葉でも、逃避と許しは極限状態ではすがりたくなる。
「おっ、俺は……」
「デミノ様ァ!」
解答が下されんとしたその時、気配が現れた。
5人の暴徒に引きずられる、ぐったりとした男。
相当殴られたのだろう。顔は判別できないほど腫れ上がり、右腕はキーホルダーのようにぶらぶらと揺れている。
しかし、その制服でわかる。彼は、自分達のために囮となった織部栄輔だ。
「そっ、そんな……」
希望を持っていた。
もしや栄輔がなんとか助けてくれるのでは。
この場にいた人間達は、そんな光を夢見ていた。
しかし、現れたのは生きているかも定かではない男。
ズボンとベルトごと、武器を奪われた無様な姿。
希望はない。
助けはもう来ない。
心の中をドス黒い闇が覆った。
「くくく。ようやく役者が揃ったな」
暴徒のひとりが栄輔のズボンをホールの隅に放り投げた。
空虚な音が響き渡る。
「見ろ。お前らにとっての“裁定者”も、このザマだ」
警察官。彼女らにとって救いの希望であると同時に、法の象徴でもあった。
それが、極めて無力。
無力な法とは、存在しないも同然。
有力な個人が、その逸脱を強制している。
そういう時、人の心は揺らぐ。
「はあっ、はあっ……いいのかぁっ、やっても?」
「いいんだぞ。楽しんでいる間、殺さないでやってもいい」
「くっ……」
瑩の心が諦観で染まった。
もう、あの男はダメだ。見ていられない。
思わず瞼を閉ざした。
「……でもっ、断るっ! いやだねっ!」
思わぬ絶叫がホール中に響いた。
「なぁにぃ?」
「ぼっ、僕は
従わなければ、殺される。
相手は自分達を殺すことになんの躊躇いもない。
そして恐らく、不利益もない。
圧倒的に優位で理不尽な相手に、獄介はNOと拒絶してのけたのだ。
元村長の息子で、施設の管理者で、親からもらったにしては十分な権限。
そのくせ反権威主義。
口だけは達者な一貫性の欠片もない、矛盾した嫌われ者。
しかしそれでも、彼は間違いなく、この瞬間はロックンローラーだった。
「ちっ、つまらん」
我を貫くならば、当然リスクは存在する。
相手が強く、横暴ならば相応に。
「笑わせられぬ、笑われぬ。そんな道化に生きる価値などない」
デミノの大きな手が、獄介の身体を鷲掴みにした。
◆力なき正義は無能であり、正義なき力は圧政である。
──ブレーズ・パスカル