TUONI ~闇を被った死神~   作:サークル『熊の巣穴』

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2021年5月29日15:00 永葉県大桑村鎮竜(ちんりゅう)神社

 

 凋落(ちょうらく)著しい大桑村だが、それでも語ると長い歴史を持っている。

 この神社にも同じく、村と共に生きてきた歴史があった。

 

 治水(ちすい)技術が未熟な時代、大雨のたびに村は街道ごと水浸しになってきた。

 路沿よりも城下の方が人口の多かった時代だ。

 

 家財が濁流に流され、家人を失うたび。

 村人達は祈った。

 

 この苦難の時代が終わり、穏やかな川と繁栄を得られるように。

 跪き、手を合わせ、礼拝する。

 その祈り方が仏教だろうとなんだろうと構わない。

 

 この神社の御神体とは、救われたいという人々の願いなのだから。

 

 幾世紀もの時が過ぎ、技術は進歩し川は平穏を取り戻した。

 また同じく技術の進歩が繁栄を遠ざけたのは、歴史の皮肉だろうか。

 

 そしていま3人。

 救いを求める者が境内(けいだい)に足を踏み入れた。

 自分達を狙う者から身を守るという、火急の危機から。

 

「ばあちゃんっ、手ェ放して!」

 

 ハルが手を放すと、知樹は素早く踵を返して片膝をつく。

 このアメリカ製散弾銃に搭載された照準器(IronSight)は非常に簡素なものだ。

 銃身上に設置された出っ張り一つばかり。

 

 しかし、使用する弾は散弾。それも、相手の視線の向きすら視認出来る至近距離。

 今の状況では、都合が良かった。

 

 先頭を走る男の胸部に一発。

 コッキングして素早くふたり目に照準、発砲。

 3人目は、かなり近い。ほとんど予測射撃で対応。

 

 3つの空薬莢が石畳を転がると、胸を砕かれた3つの死体が血と臓物をぶちまけた。

 これで散弾銃の弾倉は空。再装填する暇はなく、腰の鎧通を抜くと移動を再開した。

 

「じいさん、ここの出口は!?」

「ないっ、袋小路だ!」

 

 ではなぜ、そんな場所へ逃げたのか。

 そんなことを問うまでもなく、知樹は清水徹という男を理解していた。

 

 朽ち果てつつある神社の本殿だが、それでも最低限の能力を有していた。

 古い時代、寺院は一種の要塞として機能している施設であった。

 しかしかつての流刑地で、ろくに仏教が普及していなかったこの島では神社がその機能を持っていた。

 

 鎮竜神社。

 大桑村の宗教施設にして、大桑山城を構成する防衛施設のひとつ。

 

 形骸化(けいがいか)していたとしても、厚い壁と複雑な地形は少数が多数に勝てる要因になりうる。

 そう。徹は逃げ切るのではなく、追手を無力化することで解決しようと考えたのだ。

 

 そこが、知樹は気に入りはじめていた。

 

 本殿近くの社務所。

 年末年始になると近所の女性がお守りを販売しているものの、シーズン外は暗く静まり返っている。

 もし辺りをひっくり返して探していても、周りが騒がしければ、ここに視線を送る者はいないだろう。

 

 複数の追手の気配。

 しかし、かろうじて視界にその姿はなかった。

 

「奴らはいるか?」

「いや、いない!」

 

 知樹の返事を聞くと、徹はナイフを扉のデッドボルトにあて、()し切った。

 

「ハルさんはここに。隠れててくれ」

「どう、するの?」

「奴らに対処する」

 

 ハルはこの場において、正直なところ足手まといだ。

 しかし、知樹と徹のふたりはそれでも守るという意見で一致している。

 いくら自分がどう言おうとも、彼らは意見を曲げたりはしない。

 

 ならば、もはや彼女に出来ることはひとつだけだった。

 

「ふたりとも……無事に帰って来てな」

「ああ、死ぬつもりはない」

「すぐ片付けるっすよ」

 

 扉を閉ざし、目についた小さな棚で申し訳程度のバリケードを築く。

 あとは、隅で小さくなって待つだけ。

 

───情けない。何も出来ぃせんと、ただ隠れとるだけなんて。

 

 自身の無力を悔い、呪う。

 溢れる涙と屈辱を捧げ、祈る。

 

───水の竜様。どうか、あのふたりはいい子達です。守ったってください。お願いします。

 

 村の外では誰も知らない、小さな戦いが始まろうとしていた。




◆次回、激闘開始───!
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