『株式会社 蹄鉄を投げつけろ!』と『中央トレセン学園サポート科』の日々   作:猫宮屋

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この話は『株式会社 蹄鉄を投げつけろ!』の本編前の小話になります。

※作中のウマ娘名が伏字(〇●)になっているのは仕様です。





株式会社 蹄鉄を投げつけろ!の日々 0.1話「あの山超えたら何がある?山がある」

 

=某年 12月末=

 

~URA指定勝負服取扱会社『株式会社 蹄鉄を投げつけろ!』社内~

 

『最終直線で抜け出して、そのままゴール板を駆け抜けたのは〇〇〇〇〇〇〇!!

1バ身差で2着に〇〇〇〇●●●●●!3着に●●〇○○○○!後続は団子になって大混戦だ!

今年最後のG1レースを○○○○○○○が制し、夕暮れの大井競バ場に〇等星を輝かせました!」

 

 

作業室の巨大モニターとスピーカーからひと際大きくレース実況の声が流れ、その場にいる全員が

大きな大きな吐息と一緒に脱力して椅子にもたれかかる。

…一部の者はもたれかかる事すらできずに、椅子から溶け落ちて床に零れているが…。

 

 

『お”わ”っだあ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”…!!!!』

 

 

地獄の底から絞り出したような声と共に、力のないガッツポーズが所々で上がる…が

すぐにべしゃりと床に落ちる。

 

 

「しんど…毎年のことだけど、しんどかった~」

 

「今年の子は特に小物指定多かったから滅茶苦茶手間かかったよねぇ…遣り甲斐はあったけどさぁ」

                      

「極道入稿制度が必要なのはわかるけど、絶対URA(お上)は私たちの事みてないよねえ…」

 

「まぁ、私もウマ娘だしレース科だったから個別勝負服への憧れと執着を考えたら仕方ないし

 気持ちは分かるんだけどさ~」

 

『それでも発注から納期3週、レース3日前納品は無いな(わね)!!』

 

『それな~』

                             

無駄に息の合った愚痴だがそれもそのはず、此処にいるのは修羅場(古戦場)で鍛えられた猛者ばかりだ。

 

混沌を体現した体勢から、色々なものが詰まった言葉を口々に吐き出し続ける死屍累々のヒトと

ウマ娘だった液体たち。

 

もはや人が他の形状を保っているものなど部屋のどこにも居ない。

年末の風物詩となったこの光景を『亡者の溜息』とは誰が言ったものか?

啓蒙をささげよ、世界をコジマ粒子で満たそう、王を目指すのだ。

 

部屋にはまだ興奮冷めやらぬ状態の実況がモニターとスピーカーからタレ流しにされ、どこかの

端末からメッセージの着弾音であろう「シャイ!シャイ!」と謎の女性音声が響いている。

 

=========

 

此処は勝負服のデザインから制作・調整・メンテナンスを生業(なりわい))にしている

『株式会社 蹄鉄を投げつけろ! 略称:株蹄(かぶてい)』制作部門の様子である。

この会社はURAとの直取引が大半の為に営業部門はなく、制作部門と学園部門しかない。

 

現在は年内の最終G1レースである東京大賞典が無事に終わり、毎年恒例となる秋から始まる

デスマーチの第一弾が終わった所である。

 

この時期は1年の内で最も極道入稿(※1)が集中する故にその忙しさを例えるなら、コミケ入稿直前に

多数の誤植が見つかった時並もしくは携帯電話番号をうっかり修正せずに入稿してしまったことが

発覚したぐらいの修羅場であると言えばご理解いただけるだろうか。

 

勝負服を扱う会社としてはまずひと段落といったところだが、年始から初夏にかけてまた地獄がやってくる…

その点についてはこの場にいる全員が目をそら(現実逃避)している。

 

=========

 

「はいはーい、みんなおつかれさま~」

 

パンパンと手を叩きながら再起動したのは製造部門責任者兼デザインチーフのウマ娘である。

 

【挿絵表示】

 

 

年齢不詳 白を基調としたパンツスーツに白紅梅毛というべきだろうか、前髪の白さと対になっているかのように他の部分が赤い。

耳と尻尾の鮮やかな紅毛は見るも無残にぼっさぼさになっているし目の周りには歌舞伎の隈取かと

いうぐらいの青黒いクマが出来ている為、美人が全くもって台無しである。

彼女の手の左薬指には輝く指輪がギラリと光っている。夕陽を反射しているソレは圧倒的な存在感を放ち、独身ウマ娘達の目を焼き彼女持ちのオッス達にこれでもかと重圧を与える。

 

余談ではあるが、株蹄所属のウマ娘は『平均年齢は20代半ば』だが独身率が高くチーフの指輪の光に焼かれている者が多数居る。

株蹄では職場内恋愛は不倫や修羅場にならなければ寛容なので、社内カップルはそこそこいる。

 

『おつかれさまでーす(ッス)』

 

「年内のG1レースは今見てた通り東京大賞典で終わりだし、ウマ娘ちゃん達も無事に完走してレースは無事終了。あとはウイニングライブだけど……各所状況報告を!」

 

「はい、レース課です。現地のモブワン主任からライブ用勝負服及び衣装の状態・サイズ・数に問題無しって報告来てまーす」

 

「管理課です。個別勝負服のクリーニング回収確認は終わりました。回収した勝負服はウマ娘便で1時間後に着弾予定です」

 

「メンテ課はこれから残業モード突入ですので残業申請しまーす。勝負靴担当の某社さんも残業だそうでーす、多分私たちも帰れない組でーす」

 

 

各所から報告が上がっていき、チーフの声と共に再起動した亡者がヒトまたはウマ娘の形になっていくのは一種壮観であり、さっきまで名状しがたき音をたてながら液状化して色々吐き出していたとは思えない変わり身である。

 

「サポート科担当の○○さん達からも定例報告きましたー。年内は問題ないとの事でーす!」

 

「一部のサポート科講師達が生徒さんに絡まれてるのは平常運転なので異常アリマセーン」

 

「ありゃ、今年は何人捕獲されそうなの?それ次第でまた追加採用しないといけないんだけど…」

 

「ざっと○○人デスね、去年よりは1割減ってるので快挙です」

 

「また人事に追加募集かけるよう言っとくね~、じゃあ…」

 

 

「ちょっと蹄鉄なげてくるね(※2)」

 

 

「俺も」

「私も~」

 

 

蹄鉄投げ専用の投的ホール(※2)に風切り音と壁や蹄鉄同士がぶつかる音が高らかに響く会社。

防音は完璧なので叫ぼうが壁にぶつけようが近隣に迷惑は掛かりません!

 

(チっ'-'フ)╮ =͟͞ UU ボブォン  

 

(#°Д°)╮=͟͞ U ブォン

 

(モっ'-')╮ =͟͞ U ブォン

 

(ブっ'-')╮ =͟͞ U ブォン

 

(´・Д・)╮ =͟͞ U ブォン

 

 

『株式会社 蹄鉄を投げつけろ!』では〇〇年度新規採用・中途採用も行っています。

詳しくはホームページの求人ページからどうぞ!

 

 

 

※1:極道入稿(ごくどうにゅこう)

勝負服のイメージやデザインがURA指定の締切を過ぎても提出できなかったウマ娘とトレーナーの為の救済措置。

株蹄に泣きついて特急料金を支払うことでレースまでに個別勝負服を用意してもらえる。

URA支給の勝負服は予備を含めて無償支給だが、特急料金は依頼したトレーナーとウマ娘の負担となる。

(特急料金はURA勝負服評価金額20%から始まり、最終的には概ね150%~青天井となる)

尚、G1レースの出走登録は概ね1か月前締切なので勝負服のデザイン締め切りはそれよりも早い1か月半前となっている。

 

※2:株蹄の蹄鉄投げスペース&蹄鉄ミュージアム

この会社の一角には壁に蹄鉄を投げ付けれるスペースと蹄鉄画廊(保管庫)があり一般開放されている為、外来者も蹄鉄を投げることができます。

社員のストレス発散と、外来者の一般ヒト・ウマ娘や夢破れたウマ娘が蹄鉄を投げつける為に壁には結構な数の蹄鉄が刺さっている。

又、蹄鉄ミュージアムはURAのレースに出場したウマ娘であればクラス・勝敗を問わずだれでも寄贈でき、ネームプレートと共に蹄鉄が飾られ展示されている。

尚、競技としての蹄鉄投げは、この世界線ではまだ存在しません。

 

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