転生したら猫妖精だった件 作:スライム作者
「若様、そろそろお時間です」
「はい、今行きます」
秘書にそう言われ、男が立ち上がる。
エレベーターに秘書と共に乗り、会社前に止められた車に乗り込む。
秘書に見送りを感謝し、ドアを閉める。
そして、車は動き出した。
男の名は、
半年前に父から会社を受けづいた四代目社長だ。
彼の会社は戦後まもなく、曽祖父が立ち上げ、後にその地盤を引き継いだ祖父が会社を大きくし、父の代の頃には誰もが一目置く一流企業へと成長していた。
それを父がさらに急成長させ、今では日本各地に支店を置き、誰もが聞いたことのある会社となった。
そんな家族経営の会社の為か、湊は生まれた時から次期社長として教育された。
だが、湊の生活に自由はなかった。
生まれてから今日まで常に親の言いなりだった。
小・中・高と友人は居なかったし、学校行事も勉強の妨げとなると言われ参加したことがない。
会社にも父の鶴の一声で継ぎ今に至る。
今日も親に決められた結婚相手とのお見合いの日。
(と言ってもお見合いなんて名ばかりで、実際はただの顔見せ。俺の意見なんかお構いなしに結婚させられるんだよな……)
生まれてこの方、自分で何かを決めると言うことをしたことがない。
着る服も、食べる物も、読む本も、全て親が決めた。
(もし、自分で決めることが出来たら……どんな道があったんだろう)
そう思いながら湊は、窓の外を見る。
丁度赤信号で車を止まっており、人が忙しく歩いたり走ったりしている。
(あそこにいる人たちは、今の道を自分で選んだのかな……)
そんなことを考えていると、車が走り出す。
このまま行けば、後十分もかからずに目的地に着く。
その直後だった。
突然、湊の視界が回転し、強い衝撃が体を襲う。
そして、視界がひっくり返ったまま強い力に車ごと押され、数秒後には大きな音と共に車が潰れる。
「あ゛……がっ……!」
声を出せなかった。
外から人々の騒ぐ声が聞こえる。
どうやら事故にあったらしい。
ぶつかった際に頭をぶつけたらしく意識が朦朧としてる。
(俺………死ぬんだな………)
薄れゆく意識の中で、湊はソレが分かった。
(もう……何も聞こえないな)
《確認しました。聴覚強化獲得》
(眼も……どんどん視えなくなって来てる)
《確認しました。視覚強化獲得》
(指先の感覚もなくなってきたな………)
《確認しました。触覚強化獲得》
「ゴホッ!」
喉の奥から何かが込み上げてくるのを感じ、溜まらず何かを口から吐き出した。
それは血だった。
(この味にこの匂い………血か?)
《確認しました。味覚強化獲得》
《確認しました。嗅覚強化獲得》
《聴覚強化、視覚強化、触覚強化、味覚強化、嗅覚強化を獲得したことで五感強化にスキルが変化しました》
(圧死って辛いんだな………死ぬ時はお祖父さんみたいに畳の上で大往生がいいって思ったのに、俺には死に方の選択肢すらもらえないのか……)
《確認しました。圧耐性獲得》
もう完全に何も聞こえなくなり、何も見えなくなり、僅かに残った意識も、あと少しで手放しそうだった。
(もし……もし、生まれ変わりがあるとして……生まれ変わるなら……次こそは自分で自分の道を選ぼう)
《確認しました。ユニークスキル”
(それに……友達。多くなくていい……たった一人でもいいから……信頼できる、絆で繋がってる友人も作りたいな………)
そして、湊は意識を手放した。
《確認しました。ユニークスキル“
「ん?……あれ?俺は………?」
気が付くと、湊は意識を取り戻していた。
あの状況から生き残れたのかわからないが、湊はまず状況を把握することにした
「ここは何処だ?暗いな」
だが、湊が目を覚ますとそこは暗闇だった。
さらに、寝ていた場所は妙に硬く、ゴツゴツとしていた。
「(寝ていたって言うより、寝転がっていたが正しいな)それより、灯だ。灯が欲しい」
その瞬間、暗かった視界が徐々に明るくなった。
「急に明るくなった……てか、何処だここ?」
そして、湊が目にしたのは洞窟だった。
どこまでも続く様な巨大な洞窟。
「ここは……一体……って、俺裸じゃないか!」
自分の姿か裸なのに気づき慌てる。
「何か着る物は?」
辺りを見渡すと、近くにボロ布があった。
「これでいいか」
ボロ布を掴み、体に纏う。
「一体どうなってるんだ?」
このまま立ち止まっていても埒が明かないので、取り合えず洞窟の中を進み、奥へと向かうことにした。
「広い洞窟だな………てか、喉が渇いた……」
洞窟をさまよってかれこれ2、3時間は歩き通しだ。
「水が飲みたい………」
喉の渇きに苦しみながら歩いていると、洞窟内で池を見つけた。
「水だ……でも、洞窟内の池の水かぁ………」
少し抵抗があるし、腹でも壊したら大変と思い飲むのを躊躇うが、喉の渇きはもう限界に近く、背に腹は代えられないので、思い切って水を飲むことにした。
水辺に近寄り、手で掬いそのまま飲む。
「はぁ……生き返る……」
人心地付き、一息入れる。
その時、ふと水面を見た。
そして、驚いた。
「な!?こ、これって………!」
何故なら、湊の姿は見慣れた姿ではなく、頭に猫耳の生え、さらに尻尾も生えた、背の低い中性的な顔立ちの人間だったからだ。