転生したら猫妖精だった件   作:スライム作者

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老いた狼

リムルがスリープモードに入った翌日。

 

「ん?朝か……起きないと」

 

リオンはリグルドとリグルの案内である家で寝かせてもらった。

 

目を擦り、家の外に出て太陽の光を浴びる。

 

「ん~~~……はぁ。洞窟の中で寝るのとは大違いだな」

 

「リオン様!お目覚めになられましたか!」

 

「ん?この声は、リグル?おは……よう………?」

 

リオンは思わず、言葉が詰まった。

 

「どうされました、リオン様?」

 

「あ、いや、え?本当にリグル?」

 

「何を言いますか!貴方様に名を頂いたリグルです!」

 

リオンが困惑するのも無理はない。

 

何故なら、リオンの目の前にいるリグルは身長が伸び、端正な顔立ちになっているからだ。

 

「えっと、その姿は?」

 

「ん?ああ、それは名持ちの魔物になったからでしょう。名持ちになるという事は格を上げ、進化することですから」

 

「な、なるほど………」

 

名を付けることの重大さ、そして、名持ちの凄さを実感し、リオンは困惑しながらも納得する。

 

その後、近くの川で顔を洗い、リグルに村を案内してもらう。

 

村は、リオンの指示通り衣類チーム、食料調達チーム、住居建築チームの3つのチームを作り、事に当たっていた。

 

「う~ん……食料調達チームの方は問題ないけど、衣類と住居のチームは課題が多いなぁ」

 

リオンは現状を確認し、頭を抱える。

 

「面目ありません……」

 

「申し訳ありません、リオン様!長として、尽力しましたかやはり技術がない我らには無理でした!」

 

そう言って、リグルとリグルドが謝る。

 

なお、リグルドは大柄に筋肉質の体になり、あのヨボヨボの姿からは想像できない程、逞しい体になっていた。

 

「俺も知識としてはあるけど、やっぱり技術がないとダメか………リグルド、リグル。こういう技術がありそうな人たちに覚えはないか?」

 

「そうですな………でしたら、ドワーフ族かと」

 

「ドワーフ?」

 

「はい。何度か取引をしたことがありますが、手先の器用な者たちですので、もしかしたら家を作る技術もあるかと……」

 

「なるほど………こればっかは、リムルと相談しないとな…………わかった。ドワーフ族の件はリムルが目覚めてから相談することにする。それまでは、簡易小屋で済ませよう。今からいう材料を集めてくれ」

 

リオンは、リグルドとリグルに簡易小屋を作るための材料を集めさせる。

 

質素な作りではあるが、頑丈で、何より屋根もあるので雨宿りが出来るし、直射日光を遮れる。

 

風も防げるように壁も作ったが、窓まで作れないので中は暗いが、寝るだけでも十分なスペースは作れた。

 

「衣類と住居の件はリムルと相談。食料の方は順調。日持ちできるようにいくつか加工しないとな………」

 

頭の中で、村の復興状況を整理しつつ、ぶつぶつと呟いていると、リオンに近寄る影があった。

 

『リオン様』

 

「ん?あ、ランガ」

 

現れたのは、ランガだった。

 

「どうしたんだ?俺に何か用?」

 

『はい。実は、会ってほしい者がいるのです』

 

ランガに案内され、リオンは森の中を移動する。

 

「それで、俺に会ってほしいってのは誰?」

 

『我が群れの古株にして、父の右腕であった者です』

 

ランガがそう言った直後、森の開けた場所に出た。

 

そして、その開けた場所の中央には巨木があり、その根元で静かに眠る隻眼の老狼が居た。

 

「彼が?」

 

『はい……爺や!』

 

ランガがその老狼に声をかけると、ゆっくりと瞼を開いた。

 

『おお、若。……この様な老体に何か御用ですかな?』

 

『ああ。紹介したい者が居るのだ』

 

『ほぉ……。それはもしかして……そこに居る猫妖精の者でしょうか?』

 

『そうだ。リオン様、彼は爺や。先ほどもおっしゃいましたが、我が父の右腕であった者です』

 

「初めまして、爺やさん。俺はリオン=テンペストと言います」

 

自己紹介をしながら、リオンは老狼を見つめる。

 

(なんというか……)

 

その雰囲気からして、とても気品溢れる存在だとリオンは感じていた。

 

そんなリオンの考えを知ってか知らずか、老狼は目を細める。

 

『ほう……礼儀正しいですな。ですが、ワシに対して畏まる必要はありません。ワシはただの一介の老いた狼ですから』

 

「そっか……。じゃあ、普通に接するよ。それと、さっきランガが言ってたけど、貴方はランガの父の右腕だったんですね」

 

『右腕なんぞ大層なもんではありません。ただの年老いて満足に戦いもできない、横からうるさく口出しするだけの邪魔者でしたよ』

 

自嘲気味に言う老狼だが、それでもランガにとっては掛け替えの無い存在であった事は間違いないだろう。

 

でなければ、こうしてわざわざ紹介する事も無いだろうし。

 

「爺やさん、貴方はここでなにを?」

 

『……長が死に、新たに若が長となられた。そして、若はあのスライムの配下となった』

 

「ああ……やはり、納得できないか?」

 

『いえいえ。新たに長となった若の判断。納得しようとしまいと、従うだけです』

 

そう言いながらも、老狼はランガたちと共に居ようとしない。

 

そこがリオンは引っかかった。

 

「なら、どうして群れにいないのですか?」

 

『単純な話です。これからは、若たち、若い世代が群れを築き上げて行く。その中に、ワシのような老いただけの存在は邪魔にしかならない。だが、若はまだまだ長としては未熟だ。それがワシの唯一の心配。なら、若たちの邪魔にならない場所で、遠くから見守ろう。そう思ったまでです』

 

老狼は自分なりのやり方で、若き長であるランガを支えるつもりなのだ。

 

群れを離れたとしても、家族として、仲間として支え続ける。

 

そういう意志を感じた。

 

「…………」

 

『ふむ……どうやら話は終わりのようですね』

 

黙り込むリオンを見て、老狼は立ち上がる。

 

『では、ワシはこれにて失礼します』

 

そのまま立ち去ろうとする老狼だったが、それをリオンは呼び止めた。

 

「待ってくれ!」

 

『はい?』

 

振り返る老狼に、リオンは頭を下げる。

 

「お願いします!どうか俺達の仲間になって下さい!」

 

『……何を仰っているのか分かりませんな。言った通り、ワシは老いた存在。大した力はありません。仲間になった所で、無様な真似を晒すだけ。せめて、若い者達の邪魔だけはしないよう心掛けるつもりですが』

 

「確かに貴方は、力は衰えたかもしれない。だが、貴方には知識と経験がある。それはとても大事なモノだ」

 

『しかし……』

 

「それに、貴方は自分の事を邪魔と言ったが、それは違うと思う。貴方の知識や経験は群れにとってかけがえのない財産となるはずだ。だから、貴方には是非とも仲間となって欲しい」

 

『…………そこまで、この老いぼれを買って頂けるのは光栄ですな』

 

少し嬉しそうに笑う老狼。

 

「では!」

 

『ですが、やはりお断りさせて頂きます』

 

しかし、その申し出は断られた。

 

「何故!?」

 

『簡単な話です。あのスライム、リムル殿でしたかな?………リムル殿は先代の長を殺した』

 

「つまり………リムルはランガの父を殺した、仇だから従いたくないと?」

 

「そうではありません。我ら魔物にとっては、力ある者に従うのは当然のこと。若が、リムル殿に従うと判断したのは当然でしょう』

 

「なら何故……」

 

『ふむ……少々説明が難しいですが、敢えて言うなら義理……ですかな』

 

「義理、ですか?」

 

意外な言葉だった。

 

『はい。ワシの目、片方が潰れておりますでしょう。この様な体たらくでは、満足に狩りもできない。故に、ワシは片目を失った時、群れを去ることを決めました。ですが、先代はそんなワシを引き止めてくれたのです』

 

老狼の目に、懐かしむように言う

 

『「お前の力は、片目を失った程度で落ちるものではない。その知識と経験を以って群れに尽くせ」………今でもあの時の言葉を一言一句覚えておりますよ』

 

「……」

 

『爺や……』

 

『例え、従わねば殺すと言われても、ワシはリムル殿の配下にはなれませぬ。先代への義理があるのです。その義理を抱えて、先代を殺した者に尽くせませぬ。どうか、分かった頂きたい』

 

老狼の言葉に、リオンは納得した。

 

ならば、無理強いする訳にもいかない。

 

だが、リオンは老狼に残ってほしいと思った。

 

知識や経験が惜しいのもあるが、この老狼を1人にしたくないという気持ちが強かった。

 

「では、俺の配下になるのはどうです?」

 

『何を言い出すかと思えば……。貴方様は既に配下が居るではないですか。ワシの様な老いた者を配下にしても仕方ないでしょうに』

 

「そんな事はないさ。俺は貴方が欲しいんだ。知識や経験が欲しいんじゃない。貴方個人を俺が必要としてるから欲しい」

 

『……本当に変わった方だ。こんな年寄りを欲しがるとは』

 

「年なんて関係ないさ。俺は貴方を気に入ったんだ」

 

『フッ……面白い御仁だ』

 

そう言うと、老狼はリオンに近寄り、頭を下げた。

 

『いいでしょう。この様な老いぼれに出来る事などたかが知れていますが……貴方の配下となりましょう』

 

「ありがとうございます!貴方が仲間になってくれて、心強いです」

 

こうして、リオンは新たな仲間を得たのであった。

 

「それじゃあ、貴方に名を与えます」

 

『名前……ですか?』

 

リオンの言葉に、老狼は戸惑うような反応を見せた。

 

「そうです。俺の配下になるんですから、名前を持ってもらわないと困りますからね」

 

『この歳で、名持ちになるとは……いやはや、長生きしてみるもんですな』

 

しみじみと呟く老狼。

 

だが、すぐに気を取り直すと、リオンに向き直った。

 

『それで、ワシの名は?』

 

リオンは、老狼にどんな名を付けようか、考える。

 

老狼の片目は赤く、日に照らされる輝きは炎のようだった。

 

そして、老狼の白く、しだれ柳の様に揺蕩う毛並み。

 

「よし……貴方の名は、今日より《炎柳(エンリュウ)》。エンは炎、リュウは柳と言って俺の国の木の名前です。貴方のその目に炎を見た。その灯りが消えぬことを願い、この名を与えます」

 

『ほう……良い名を頂きました。この名は我が魂の名とし、この身朽ち果てるまで大切に致しましょう』

 

そう言って、老狼は頭を垂れた。

 

こうして、老狼改めエンリュウは新たな仲間となった

 

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