後方腕組親面変態シスコンニチャ顔盗撮魔双子妹 作:防虫剤
原作開始です。
「ドンマイ、ひと姉。そんな日もあるよ」
「勝ちまくり……モテまくり……私はギターヒーロー……」
下北にある小さな公園。
園内に響き渡るブランコを漕ぐ音。風が吹いたら消し飛んでしまいそうな哀愁を漂わせている後ろ姿。
言うには及ばず背中で語るのは我が姉、小さな
はい、ここで一枚いきま~す(盗撮)
ウヘへ……ええのぉええのぉ。もう一枚正面からも撮っとかねば。
いやぁ今日は朝から大漁大漁。
まさに飛ぶ鳥を落とす勢い。破竹の勢い。昇竜の勢い。
通学中、窓ガラスに映るギターを背負った自分を見てニヤつくひと姉。
それを店内にて準備をしている店員に見られていることに気が付き、羞恥心のあまり真っ赤になりながら逃げ出したひと姉。
電車内で少し緊張しながら如何にもバンド女子高生ですと得意げにアピールしているひと姉。
だけど校門の前まで来るとさっきまでの顔は何処へやら、縮こまりギターを背負っているのではなくギターに背負われているひと姉。
戦場に向かう兵士の如く覚悟を決めた顔で教室へ入り、緊張を紛らわすためかそれともアピールする為かわざとらしく音を立てながら席に着くひと姉。
HRまでの時間、音楽雑誌の表紙を見せびらかすように開き話しかけられるのを待つひと姉。
3限の終了を告げるチャイムが鳴ると、大量に巻き付けていたリストバンドやバッグに付けている缶バッジを恥ずかし気にしまうひと姉。
最終的にいつもの寝たふりでやり過ごし、下校時には虚無顔と化したひと姉。
…………ごちそうさまでした。終始破顔しないよう表情筋に気を付けていたので顔面が筋肉痛です。
確かにいきなりギターを背負って教室に入ったひと姉のことみんな少し気になってはいた。実際にクラスの中にはバンドが好きな子もいるしね。だけどもひと姉が未だに誰とも喋っていないせいで距離感が分からず近寄ろうとしない。あ、ちなみに教室内では僕もひと姉には話しかけない。休み時間に人がいないところでは喋ったりするけど。
そうなると勿論僕の方に色々と飛んで来るんだけど、ひと姉の道は自ら道を切り開くことによって真の輝きを放つ。よってここは良き妹として手出し無用。よく分からないの一点張りだ。
時間が経つに連れて雑誌や身に着けていたバンドグッズ達を、誰も気にしていないのに恥ずかし気にカバンへ詰めて――――最終的にいつもの寝たふりするまでの様式美とも言えるオチ…………フフフ……久しぶりに頂きました。
千里の道も一歩より。あの日から12年。未だにひと姉は一歩すら踏み出せていない状況ではあるが僕はいつまでも待ちますよ。
そして今に至る。
「後藤ひとり脳内反省会兼後藤こくりの秘密の撮影会」を開く為ひと姉が落ち着けるような静かなこの公園に来ている訳ですが……。
慟哭と哀哭のブランココンサート。その唯一の観客。ベンチに座るくたびれた雰囲気のサラリーマンへ、憐れみと同情と親しみの視線を送ることで精神を何とか保っている危篤状態です。
「こくり。ここは孤独な人達が自然と集ってくるのかな?あ、あの人も――『パパー!!』」
……どうやらただ家族と待ち合わせしてただけらしい。
あぁ、
「………………なんでもない」
何とか立て直してますけどかなりキテますねこれ。退学したいとか考えていそう。
あ、その自分と少しでも同類と感じた罪悪感、言葉も交わしていないのに勝手に親しみのような――願望も破壊され、家族団欒の眩しい光に当たったことにより、改めて今日も誰とも話すことが出来なかった事実を思い出して打ちのめされたその顔。頂きます(盗撮)
「……もう帰ろう……こくり」
うーん、しかし今日のひと姉はいつも以上に落ち込んでいる。そんなにギターの期待値が高かったのか……。そういえば僕がカメラ持っていったからとか言ってたな。あれのせいか?
中学の時はひと姉がバンドを組もうと、悪戦苦闘している姿をニチャニチャしながら傍観していたが……やっぱり高校からは手伝ってあげるべきだろうか。しかし、ひと姉が1人でバンドを組もうと1歩踏み出すのを座して待つのが妹としての……………………ヨシ!なんか食べれば気分転換になってなんやかんやでだーじょっぶっしょ。
「ひと姉。帰りにアイスでもおご――――『あっ!?ギターー!!!』」
と、またもやカラスの鳴き声とブランコ以外の音が公園内に響き渡った。
目を向ける頃には既に闖入者はタタタと柵を乗り越え、ひと姉の前に降り立ち詰め寄っていた。
「ねぇ!?それギターだよね?弾けるの!?」
「アッ!?…………ガッ、ゴッ……」
「あれ?おーい」
これは…………なんか面白くなる予感がする…………!!
まずこの絵面が最高。
いきなり知らない人に話しかけられて声が出ないのだろう。喉をプルプル震わせてフリーズしているジャージ姿のひと姉に、ペチペチ軽く頬を叩いているサイドテールが特徴的な、可愛いらしいファッションを決めている女子高生。真逆の服装を、雰囲気を纏っている2人が……この閑古鳥が鳴く公園に交わることのなかった隠と陽がそこにある。
不肖、こくり。しかとカメラに収めさせて頂きます。え?盗撮?バレなきゃ犯罪じゃないんですよ。
「ってうわ!?そっくり!?え、双子!?しかもこっちはカメラ!?……もしかしてあなたも楽器やってる?」
黄色い闖入者は眼を輝かせながらひと姉に詰めていたと思ったら、僕に気付いた途端輝いていた眼が見開き、大袈裟に口に手を当てて……と思ったらまたもや眼を輝かせながらの質問攻め。コロコロ表情が変わる可愛らしい女の子だった。
あと地味にそのアホ毛も感情の起伏に合わせて動いてる?というかなんか微妙に浮いている気がする……
「僕はそこで固まっている子の双子で後藤こくりっていいます。楽器は……
「こくりちゃんっていうんだー。私カメラとか全然知らないけど、それ一眼レフってやつ?かっこいいなぁ」
「いいですよカメラ。今はスマホで充分って人が多いですけど、こういうデジタルカメラも趣があってオススメです」
それにスマホだと容量喰っちゃうしなにより堂々と盗撮出来ないからね。デジタルカメラなら自然と首から下げているので、レンズを向けてもバレにくいからオススメです。シャッター音も消せるし……。
「それで、ひとね……この子に用があったんですよね?どうぞどうぞ続けてください」
「エッ……ちょ、こくり…………!?」
「あ、そうそう!いきなり話かけてごめんね!あはは」
えぇえぇ。分かっていますとも。僕はひと姉の自己紹介を奪うなんて無粋な真似は致しません。どうぞごゆるりとおくつろぎください。そこを横から僕は
しかと、突然現れた美少女との会話という苦心惨憺の一挙手一投足を収めますとも。
コホンとわざとらしく咳をし、気を取り直す黄色い触角少女。
「私、下北沢高校に通っている伊地知 虹夏!2年生でーす」
「アッ、後藤ひとり、秀華高校1年生…です……」
遂にひと姉が自己紹介をした――――っ!!!相変わらず眼は合わせられてないけどっ!!
始めて見たよ……クラス替えをした時に行われる事務的な自己紹介以外のひと姉の自己紹介!それすらも満足に出来ていなかったけど。
この歴史的瞬間は永久保存しておかなければ。あ、ぼかぁ撮った写真って全部永久保存してたわ。
それにしても下北沢高校か……たしか結構偏差値が高かったような……それに2年……ってことは先輩か。
改めてひと姉と向き合った彼女――虹夏パイセンは自己紹介がまだだったねと笑いながら、導くようにひと姉へ腕を差し出す…………と思ったら合唱した。
「お願い!!私バンドやってるんだけどギターの子が突然やめちゃって!だから今日だけサポートギターしてくれないかな!」
「あっ、えっえっ…………えぇぇ……!?」
これは…………予想以上にとんでもないことが起こりそう。
まさかギターを持っていったら早速出会いがあるとは……高校生になったひと姉は何かが違う!……ような気がする。
「こ、こくりぃ…………」
ここで問題です。
Q 超ド陰キャ拗らせコミュ障ネットにしか居場所がない承認欲求モンスターである姉が、ずっと夢見てたバンド組むチャンスが来ました。しかし肝心の姉は勇気が出せず助けを求めています。この時の妹が取るべき最善の行動を述べよ。
「チャンスじゃんひと姉!ずっとバンド組みたがってたじゃん!」
A 今まで生きてきた中で家族おろか自分自身すらも聞いたことない明るい声、あざとく手をギュッと握り締め胸の前へ持っていき、
「ひとりちゃんバンド組みたかったの!?いいよ大歓迎!それじゃ案内するから早速レッツゴー!!」
「アアアアアアア………………こくりぃぃぃぃ違う、そうじゃないよぉぉぉぉぉ…………」
突如としてひとりの前に現れた下北のバンド女子――伊地知虹夏。いきなりのライブ参加の勧誘に他人と話すことすら満足にできないひとりは、大人数がいる前でのライブなんて無理だと断ろうとするも自慢のコミュ障故はっきりと断る事が出来ず……頼みの綱だった妹こくりに藁をも縋るような思いで手を伸ばすがそれは空振るばかりか、
………………ニチャァァァァァ
そして下北の奥地へと引きずられていく姉を傍観する彼女の形相は
虹夏パイセンに連れてこられた先は至って普通の住宅街に並ぶ3階建てのマンションだった。
「ここがライブハウスですか?ただのマンションにしか見えないですが……」
「ここの地下にあるんだー。こっちこっち」
マンションの外側にある地下へ繋がる階段の先にライブハウスはあるらしい。
覗き込むと真っ先に目に入る「STARRY」の電光看板。階段を降りて左手にある扉は異世界へ繋がる入り口みたいだ。
「このアングラな入り口の雰囲気いいですね。撮ってもいいですか?」
「お。こくりちゃん目の付け所がいいねぇ。じゃんじゃん撮っていいよ!お姉ちゃんもきっと喜ぶだろうし!」
虹夏パイセンは第一印象通りの明るくて先輩だけど腰も低くとても話しやすい人だった。あと可愛い。特にアホ毛。
向かっている最中にも話が弾み、今日出演するライブハウスは虹夏パイセンのお姉さんがオーナー店長として経営していること。虹夏パイセンはそこでバイトもしていること。結束バンドというバンド名で活動していて、ドラムをやっていることなど色々教えてくれた。
一方ひと姉は相変わらず会話には参加してこず。
その代わりとは言えないが何故か虹夏パイセンの匂いを嗅いでいたり、急にブツブツと武道館があーだのこーだの言い出したりしていた。しかもその奇行を虹夏パイセンは気付いていたが、変わらずひと姉にも笑顔で接しているその姿に、思わず何もせずにニチャつきながら盗撮していることへ罪悪感が沸いてきてしまった。やめませんけど。
あ、あと虹夏パイセンがひと姉のオーチューブ「guitarhero」を見ていると知った時は世間の狭さに驚いた。
お?これはチャンスでは?と、ひと姉にアイコンタクトを送り気付いたひと姉も自信満々に名乗りでようとした瞬間、虹夏パイセンの痛恨の一撃「でもguitarheroはイタいよね~」がクリティカルヒットし名乗る間もなく撃沈した時は笑いを堪えるのに必死になって、そん時のひと姉の顔が50枚ほどしか撮れなかった。
「ほら。ひと姉。行くよ、覚悟はできてるでしょ」
「ま、まって、せめてなにか身を護れる武器を……」
「そんな危険な場所じゃないよ!?」
異世界の入り口に見えるといったが、ひと姉にはその中でも魔境の類に見えるっぽい。
扉の先は本当に別世界だった。
3メートルほどの天井や壁には黒色の防音シートが張り巡らされ、決して広くはないが狭すぎもしない。
ダイニングテーブルやイス、カウンター席もありドリング片手に雑談している先客もちらほらいた。
そしてこの空間を支配してる君主、主役と観客を分けるように一段上がった先。見たこともない大きさのスピーカー達に囲まれたステージ。
「ひと姉が……あそこでライブを……」
「しょ、所詮は陰キャの集団、落ち着け落ち着け……」
これからこのステージでひと姉が演奏し新たな歴史を刻む一歩を踏み出す………………とりあえず予備のメモリーカードはセットしておこう。
途中虹夏パイセンが紹介してくれたPAさんに、初対面であるはずのひと姉が唐突に謝罪するというアクシデント(?)があったものの他は特に問題なく。軽く店内を紹介してもらったら遂にもう1人のバンドメンバーとご対面することになった。
「この子がベースの山田リョウだよ」
「よろしく」
肩付近で切り揃えたボブカット。ハスキーボイスと虹夏パイセンよりも高い身長、整った中性的な顔つき、そして外せないのは泣きぼくろ!!
虹夏パイセンを天真爛漫といった表現するなら、リョウパイセンの男女関わらずモテそうな風貌は眉目秀麗という表現がしっくりくる。
「それで、このギター背負っているのが後藤ひとりちゃん。公園で奇跡的にいたギタリストだよ。後ろにいるカメラを持った子は後藤こくりちゃん。ひとりちゃんとは双子で、楽器は出来ないけど着いてきてもらったんだ」
「へーーー」
「ごごごごご後藤ひとりです!すみません!」
「後藤こくりです。よろしくお願いします」
初手安定の謝罪をかましているひと姉はさておき……この組み合わせ絶対面白いじゃん。
みんなを引っ張る明るくて可愛らしいドラムの虹夏パイセン。冷静沈着、泰然自若で中性的なかっこいいベースギターのリョウパイセン。超ド陰キャ拗らせコミュ障ネットにしか居場所がない承認欲求モンスターのギタリストひと姉。
今ここに完璧な布陣が完成した。勝鬨を上げよ!今宵伝説が生まれる!
記念に一枚撮っておこう。12年間で培われた自然な横運動からの――3人の顔がうまく映るアングルは…………ヨシ!
「リョウ?どうしたの?」
「………………」
ん?なんかリョウパイセン僕の方に向かってきてない?
「…………ねぇ」
近い近い!身長差で自然と見下ろされるから圧が………
すんごいレンズ覗き込んでいるけどなに!?あ、ドアップ頂きます。
じゃなくて!いい顔を見ると手が勝手に…………もしかしてバレた?
「このカメラ……自分で買ったの?」
「え?あぁ。はい。お小遣いとかその諸々……」
「いくら?」
「へ?」
「いくら?あとその他諸々の部分を具体的に」
「あー……値段はそこそこ?安くはないですかね?」
ぶっちゃけ女子高生が持ってるのはおかしいぐらいの値段ではある。
しかしこれは仕方のないこと。ひと姉の為…………必要経費ってやつだ。うん。
その他諸々ってのは……フォトコンテストで得た賞金なのだが……なんだか嫌な予感がする。この人にはお金の話は禁物だと僕の本能が告げている。
「いくら?」
「あの……」
「い く ら ?」
いや眼の色変わりすぎ!¥になってるんだけどこわっ!?……ってか気付いたら壁際まで追い込まれてるんだが!?
まずそもそもそんなにストレートに聞いてくるものか!?
「こーら、リョウやめなさい。こくりちゃん困っているし失礼でしょ」
「あいて。でも気にならない?虹夏もいい楽器見たら触りたくなるし値段も気になるでしょ?」
「はぁ~。リョウはお金のことになると際限がなくなるんだから……ごめんね?リョウ変人だから」
「いや~それほどでも」
「これは褒めてないからね……」
訂正。リョウパイセンもひと姉に負けず劣らずの曲者でした。
もしかしなくてもこのバンド、虹夏パイセンしかまともな人いないのでは?
「大丈夫だよ!私もまだまだうまくないしさ!だから出てきてー!」
「私はうまい」
とりあえず練習しなければ始まらない――そんな訳でスタジオに入ったのですが……この為に用意されたのではないかと勘ぐってしまうくらい、すっぽりとゴミ箱に収まっているひと姉を引っ張り出しているのは…一体何の練習なのでしょうか。
僕も知らなかったのだが、どうやらソロでのギターとバンドを組んでのリードギター。それぞれ全く別の技術が必要なようで……結果、人と合わせての演奏を生まれて始めてやったひと姉が本領を発揮出来るわけがなく……こうしてギターの自信すらも失ってしまい、ゴミ箱に立て籠もりひと姉のハラキリショーでバンド名でも覚えてもらおうと計画しているのが現在の状況である。
しかし今日のライブは虹夏パイセンの友達しか見に来てないらしく、音楽の良し悪しなんてわからないから気張んなくていいと、軽く炎上しそうな励ましを虹夏パイセンも送っているが、そもそもひと姉が人前で演奏をするということ自体がで出来るのかという話になってきて…………。
「や、やっぱり私には無理です…………ごめんなさい」
「で、でも!」
「虹夏、無理強いはよくない」
「…だよね……」
「…………ごめんなさい」
ひと姉……それは…その顔は
「まってください!!」
本当はひと姉だけで道を切り開いて進んでほしい。それを僕は隣で
でも!こんなチャンスきっともう二度と来ない。この機を逃したら絶対ひと姉は後悔する。
だから――――僕はひと姉の努力し続ける姿が好きなんだ。一生苦しんで後悔したりする姿は見たくない。今がどんなに茨の道で辛くても……最後にはハッピーエンドを迎えてほしい。
「こくり……?」
「少しだけ2人で話してもいいですか?すぐ終わりますから」
「!……分かった!待ってるね」
「こくり……その……」
「……ひと姉」
虹夏パイセン達に断りを入れて少しだけ時間を貰い、ひと姉と2人きりになれる場所――トイレへ連れ込んだ。
「ひと姉にこんなこと言うのは……無責任で酷いことだとは思う。でも、ずっと傍にいた僕だから言わせてほしい」
「……?」
こんなこと言うのはホントに最初で最後だ。だから許してほしい。
「スウウウウウ…………勇気だせ!!素直な気持ちに従え!」
思えば……僕とひと姉は今まで一度も喧嘩などはしたことがなかった。もちろんそれはいいことだと思うが、同時に本音をぶつけ合うこともなかった。
初めて高ぶった感情をありのままに伝えた。だからか、僕の心のダムは簡単に決壊して気が付いたら涙を堪えるのに必死だった。
「!!?…こ、こくり?」
「ひと姉にツキが回ってきたんだよ!嬉しかったんでしょ?こんなのまたとないって分かっているんでしょ?…だったらさ……やってみようよ!」
「…………」
「ひと姉が頑張り続けているのを僕はずっと見てた!……だから公園で虹夏パイセンと出会った時もさ……自分のことのように嬉しかったんだよ……だから少しだけ……それが難しいのは分かってる。でも勇気を出して欲しいな……」
こんな少年マンガのようなクサいセリフ、普段のひと姉にはどんなにかけても意味はない。
でもこんな時だからこそ。今踏みとどまっているひと姉に届くと思った。
始めて僕がひと姉の背中を押す。これは1人の家族としての本心だった。
「…………ありがとう。自分でもびっくりしてるけど本当に少しだけ勇気が出てきた……ははは、もしかして私って意外とちょろいのかな?」
「あはは……」
それはやっぱり自覚なかったのね……。
なにはともあれ、ひと姉を勇気付けることが出来て良かった……。
それじゃこのまま虹夏パイセン達の元へ戻る……のもいいけど。なんかそれだけだと僕らしくない。
なのでここはいつも通り
「あとさひと姉。今はまだ本領発揮できていないけどさ……それって逆にカッコよくない?」
「?……どういうこと?」
「強すぎて力が封印されているみたいでさ……いずれguitarheroとしての真の姿が解放される……ひと姉、まるでアニメの主人公みたいでカッコいい!」
「えっ……えへへへへ。そおぉかなぁ?言われてみるとそうかも?」
「僕、いつかひと姉が覚醒してみんなから注目されている姿見たいなぁ」
そしてそこに至るまでのひと姉が突き進む道程もね。
その後虹夏パイセン達の元へ戻り、改めて出場する旨を伝え練習を再開した。
最中MCで紹介する時にひと姉はなんと呼べばいいのかという話になり、リョウパイセンが「ぼっち」というあだ名を付けたり(本人が気に入っているので
何よりも虹夏パイセンが、「音って感情が出やすいからさ、まずは楽しんでいこう!技術を求めるのは
というかもしかして、僕が声をかけなくても大丈夫だった?ただのお節介だった……?いや、やめておこう。これ以上考えたら死にたくなりそうだ。
そして紆余曲折ありながらも遂に始まったひと姉の初舞台、結束バンド初のライブは――――カオスの一言でした。
やはり即席で何とかなるほど音楽の世界は甘くなく……MCは滑るわ、ミスは連発するわ、何よりも完熟マンゴーダンボールに入っての演奏は…………音が籠って聞き取りづらいし、観客全員固まってたし、というか普通に怖がっている人もいたし……。
「あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ……さいっっこうですわぁ…」
明らかに場違いなダンボール、その中にいるひと姉の表情と気持ちを想像するだけでニチャ顔とシャッターが止まりませんでしたわ。
でも、そんなボロボロだった初ライブが終了後スタジオで、虹夏パイセンもリョウパイセンもこれから一緒に頑張ろうと言ってくれたこと。ひと姉もそれに頷き、遂にバンドを組むという夢が叶いそして次の夢は――堂々とお客さんの前で演奏をする。
まだまだ道は遠いけどそれでも嬉しかった。
12年。いや15年間踏み出せずにいた千里の一歩を遂に踏み出した。
2人で歩く学校ではなくライブの帰り道。夜を照らす下北沢の灯りはその凱旋、そして新たな門出を煌々と祝福していた。
そんな初めての夜の街なんて歩くひと姉が……ライブの疲れもあるだろうと心配になって声をかけた時――――きっとあの瞬間のひと姉は世界で一番強く満ちて輝きそして尊い……最高の笑顔と向き合った。
それが今日一番の何よりも代えがたい最高の一枚でした。
「んだアレ?ダンボール?」
妹のライブが始まってしまう前にと急いで買い出しに出たSTARRYの店長『伊地知星歌』
なんとかMC中に戻って来ることが出来たのだが……何故かボーカルだった赤髪の子が消え、代わりにダンボールが鎮座していた。
「どうやら人前出るのが苦手な子らしくて……あの中に入って演奏するらしいですよ」
隣で音響周りの設定してる――――PAさんが面白いですねと微笑みを向けている。
「突飛なことするもんだな。あれの方がもっと目立つだろ……ん?見ない顔の子がいるな」
今日の妹……虹夏のライブを見に来ているのは友達だけだと聞いていたが、その中に小さな躯体に似合わない……だけどどこか様になっている無骨で趣のあるカメラを構えながら、忙しなくアングルを変えて動き回っている女子高生がいた。
「あぁ。あの子はあのダンボールの中で演奏している子の
「ふーーーーん…………」
「可愛らしいですね。楽器は出来ないらしいですけど妹が心配でスタジオまで付いてきて……さっきからずっとニコニコしながら撮影してますよ」
ちょっと過保護なところとか誰かさんに似てますね。と呟いた言葉は星歌には届いていなかった。
まだまだ拙く人前に出ることも難しい妹のライブを静かに傍で応援し続けている姉。
そんなどこか自分と似通っている関係に星歌は自然と親近感を覚えていた。
「今度来たら少し話してみたいな」
「シスコン同士は惹かれ合うんですかねぇ」
「おい、もっぺん言ってみろ」
あくまでもバンドメンバーの肉親同士としてだ。
ついでに買い出しに焦っていて虹夏を撮影する為のカメラを忘れてしまったので、今撮っている写真を見せて貰おうと静かに目論む星歌だった。
後にそれがきっかけで
ニコニコ(ニチャニチャ)