後方腕組親面変態シスコンニチャ顔盗撮魔双子妹   作:防虫剤

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#3 今日この瞬間にも風は吹く (少女よ、大志を抱け)

 

 伝説(マンゴー)から一夜が明けた今日。

 

 本格的に結束バンドとしての活動方針を話し合う為、活動拠点となる「STARRY」にやってきた。

 

 

「どど、どうしよう。前は虹夏ちゃんとこくりがいたから入れたけど……」

 

「ヘヘヘ……やっぱりこうなるよなぁ……」

 

 かれこれ5分。ああやってSTARRYへ続く階段を下ったり上ったりと奇行を繰り返しているのは我が姉、後藤ひとりその人である。

 

 しかし先が思いやられる。これからバンドとして活動していくのにその拠点にビビッて入れないとは。

 昨日ダンボールを被った演奏よりよっぽどハードルは低いと思うのだが……まぁひと姉だし普通の尺度では測れないから考えても仕方ないが。

 

 僕は何をしているのかというと勿論そんなひと姉を見守り兼盗撮している。

 

 

「ウェヘヘヘ……ひと姉がんばえぇ……あ、座り込んじゃった。これは他の人が来るのを待つつもりだな」

 

 

 だが勘違いしないでほしい。

 確かにひと姉を盗撮してニチャつきながら楽しんでいるのは否定できないが、決してそれだけではない。

 これから先、ひと姉が1人でSTARRYに入るなんて数え切れないほどあるだろう。

 そしていずれは人前でライブをするのが今の目標のひと姉には、この程度はこなせるようになってもらわなければ。

 そう決してひと姉が困っている様()()を見たくてこうしている訳ではないということを留意して頂きたい。

 

 

 さてと、それでは撮影の続きと――――

 

 

「なにしてるの?こくり」

 

「ウヒャッァ!」

 

 

 耳朶に響き渡ったハスキーボイスと僅かな吐息が触れてひと姉みたいな声が出てしまった。

 

 

「ぷっ。ウヒャッァって」

 

「リョウパイセンしたか……驚かさないでくださいよ」

 

 

 何者かと振り向くと後ろにいたのは結束バンドのメンバー。山田リョウパイセンだった。

 ひと姉に夢中になっていて全く気が付かなかった……だとしても僕の背後を取るとは、やはり只者ではないな。

 

 

「見てください。あそこ」

 

 

 でも見られたのがリョウパイセンで良かった。なんとなくこの人、僕の性癖に理解を示してくれそうな気がする。

 昨日のダンボールに入っての演奏もリョウパイセンの案だったし。

 

 いきなりニチャ趣味を晒すのは流石に気が引けるので、あくまでもひと姉を見守っているという体で話した。カメラに関しては……素直に面白いから撮っていると伝えた。

 

 

「今度は頭を抱えてうずくまってるし。ちょっと面白いかも」

 

「普段からあんな感じなんで、あんまり気にしないでやってください」

 

 

 見込みアリだなリョウパイセン。このまま少しずつひと姉沼へとハマって貰って……いや、バンドメンバーが陥るのはダメなんじゃないか?

 ……まぁだーじょっぶっしょ!

 

 

 

「なにやってんの2人とも……」

 

 

 そのまま虹夏パイセンが来るまで2人でひと姉を観さ……見守り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい!それでは第1回結束バンドミーティングを行います!拍手!」

 

「僕バンドメンバーじゃないですけどいいんですか?」

 

「いいよいいよ。そんな水臭いこと言わないで!ぼっちちゃんもこくりちゃんがいた方が安心できるでしょ?」

 

「あ、はい」

 

 

 というわけで、虹夏パイセンの配慮に甘えて僕もミーティングという名の女子会に参加することとなった訳だが……。

 

 

 女三人寄れば姦しいという言葉がある。

 女性というのはいつの時代どんな年齢でも、3人集まるとお喋りで賑やかになるといった意味なのだが。

 今集まっている4人は全員現役の女子高生。みんな喋るのが大好きな年頃の女の子だ。つまり話題は尽きることなく会話が弾み盛り上がること間違いなし…………とはならなかった。

 

 学校の話となればひと姉自慢(?)のぼっち話が炸裂し、好きな音楽の話となれば青春コンプレックスを刺激する曲はNGというパワーワードが空気を破壊していった。

 好きな音楽の話をしようとしているのに、苦手な音楽を最初に出してくるあたりがひと姉のコミュニケーション能力の低さが伺える。

 

 でも正直言って2人……主に虹夏パイセンがどんな話になっても、絶望の着地点に収束するひと姉の扱いに悪戦苦闘している様は……ちょっとニチャつきそうでした。いや心の中ではしてました。

 あとやっぱりあのドリトスみたいなアホ毛微妙に動いてるよね?どんな仕組みなんだろう……。

 

 

 それにしても虹夏パイセンは本当に面倒見が良くて優しい。

 新たなメンバーであるひと姉と少しでも距離を縮める為に、こうやってミーティングを開いてひと姉のコミュ障を考慮して僕も呼び、更にはひと姉が話しやすいように予めお題を決めるサイコロまで作ってきていた。

 

 そこまでしてもひと姉は一筋縄ではいかないが。

 

 

 

 そして次の出た話題(サイコロ)は……ライブとノルマの話。

 

 虹夏パイセン曰く、どうやらライブをする場合はノルマがあり、もしもノルマ達成分のチケットを売り捌けなければその分自腹で払わなければならないと。

 

 「つまり売れるまでめっちゃ金かかる」と、何故か自信満々にざっくりと纏めるリョウパイセン。

 

 金……やはり金がないと始まらないのか。いつだって現実は非情なり。

 

 そして女子高生がお金を稼ぐとなると……もちろんアレをするほかない。

 

 

 そう――――!

 

 

「と、いう訳で機材代ノルマ代もろもろ稼ぐ為にバイトしよー!」

 

「あっはい…………バイト!!!??」

 

「今日一の声出たね...」

 

 

 バイト……「学校」「友達」「青春」に続くひと姉特攻対象の単語の1つだ。

 

 買い物は全てネットで済ます――店員とまともに話すことすら出来ないひと姉が、まさかの店員側に回って接客するなんて……ウヒヒ…想像するだけでニチャつきそう。

 

 しかもひと姉のことだ……バンドを維持するためにみんながバイトをしている中、自分だけが断ってやらないなんて絶対に出来ない。

 つまりこれは決定事項。ひと姉がバンドを組んだ瞬間に訪れるのが決まっていた運命だった。

 

 

 

 

 

 いつの間に持ってきたのか、お母さんがひと姉の為に貯めていたブタの貯金箱を持ち出して、そのお金でノルマ代くを凌ごうする暴挙に出るひと悶着もあったが、不安ならSTARRYで一緒に働こうということとなり一先ずは納得してもらった。(ひと姉が断れないだけだが)

 

 

 実は……ひと姉は知らないが、オーチューブのチャンネル「guitarhero」は収益化が通っておりノルマ代を稼ぐ分には充分の収入が入っている。

 

 が、それは僕が口止めしている。

 

 「ひと姉が今働かずにお金を手に入れてしまったら、きっとこのまま学校を辞めて外にも出なくなっちゃう。本当にひと姉に必要な時が来た時の為にとっておこう」

 

 と、姉想いな妹最強心配ムーブで両親を説得させたのだ。

 

 今が必要な時?いやいや、ひと姉が労働の尊さを知ることの方が今は必要でしょう。

 

 

「あ。もし良かったらこくりちゃんもウチで働いてみる?」

 

「えっ?いいんですか?」

 

「もちろん歓迎するよ~」

 

 

 キタコレ、合法盗撮チャンス。

 そもそも結束バンドがSTARRYを中心に活動していくと知った時点でバイトには応募する気満々だったけど……これは棚ぼたですね。

 

 

「!……ね、ねぇこくり?」

 

「ん?なに?」

 

 

 急にひと姉の様子がおかしい。いやおかしいなのはいつものことだし、なんならミーティングが始まってからずっとおかしいが……蛇のようにくねくねと近付きながら、猫なで声と甘えるような視線を向けてきて……。

 

 とりあえず可愛い。撮ろう。

 

 

「お願いします!どうかこの通り!私のノルマ代全部……いや折半してください!」

 

 

 からの一切の躊躇いなく全力で土下座してきたぞこの姉。どんだけ働きたくないんだ……。

 

 

「ぼっちちゃん!?姉のプライドはないのか!?」

 

「しょ、所詮形だけの姉だから。なんならこくりが望むならいつでも譲るのでなにとぞ!」

 

「こくり。撮影チャンス」

 

 

 リョウパイセンナイスアシスト。

 くねくね動作からの人目を憚らないプライドを捨てた土下座は、流石に度肝を抜いて撮るのを忘れてた。

 

 (リョウパイセンの)許可も下りたし……ヨシ!

 やっぱファインダーでしっかりとピントを合わせての堂々とした撮影は後ろめたさがなくて気持ちがいいな!

 

 

「おーい。こくりちゃんは何を冷静に撮っているんですか?」

 

「ひと姉の刹那の輝きを余すことなく撮ってます」

 

「…………もしかして…こくりちゃんも中々……」

 

 

 いやいやいや。僕は至って普通の女子高生ですよ。

 ひと姉と比べたらミジンコレベルに可愛いもんです。

 

 

 あ、虹夏パイセンのその座った訝しむ目線も頂きます。

 普段は明るく溌剌と輝いている眼が、時たま陰に籠り暗くなるのってそそるよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、ここここくり……追加の氷を持って来て……」

 

「ひと姉。往生際が悪いよ……」

 

 

 まぁひと姉が指を加えてバイトが始める日を待つとは思わなかったが……水風呂、もとい氷水風呂に浸かり全身全霊で風邪を引こうと努力していた。

 

 ……絶対努力する方向間違っているよなぁ……普通だったら「バイト 初めて」とかで検索して備えたりするのに……いやそもそもやる気がないから関係ないか。

 

 僕としては久しぶりにひと姉の水着姿が撮れてラッキーだし?ひと姉の体って妙に頑丈だからどうせ風邪も引けないだろうし問題はない。

 

 

 ……それにしてもひと姉また胸大きくなった?

 

 中3になって買い替えたスクール水着がはち切れんばかりにパンパンって……そこには何が詰まっているんですか?夢ですか?愛ですか?コミュ力ですか?

 

 でもひと姉の胸が大きいのは喜ばしい。いや大きいからひと姉が好きな訳ではないが。

 ただやっぱり大きいとこう……ニタァ…ってなる。

 

 

 それに対して……どうして僕の胸は反り立つ壁も青ざめるレベルの断崖絶壁なのかな!?

 どういうこと?ひと姉に胸の栄養全て持ってかれたのか?

 

 双子なのにこうも差があると……許せねぇ。詫びとしてもっと撮らせろ!

 

 

 

 

 

 

「こくりお姉ちゃーん!はいこれ!追加の氷だよ!」

 

「ふたり~ありがとう。それじゃひと姉の頭にぶっかけてみようか」

 

 

 両手一杯に抱えた袋の中身を「えーい」と弾むように愛嬌のある掛け声で容赦なくひと姉へ叩きつける。

 

 

 

 

 

 あ~~~かわいいかわいいかわいいかわいい!!!

 

 

「ふたり?こっち向いて撮るよー」

 

「いぇーい!」

 

 

 ひと姉とはまた違う()()を放つ10歳年下の妹。後藤ふたり。

 

 後藤家のトレードマークである桜色の髪と左右の側頭部にあるアホ毛。パッチリと開いた澄んだ碧眼。瑞々しくて健康的、陽だまりのような暖かさを放つ肌。

 まだ100cm程しかない身長の彼女が、家の中をとてとてと元気にジミヘンと走り回る姿拝めた暁には幸運が訪れるとされている天使。

 

 

 

 

 

 ふたりが産まれたばかりの頃、僕はふたりが苦手で避けていた。

 ベビーベッドで寝息を立てているふたりを見た時、いずれはひと姉と同様に彼女に対してもニチャるようになるのではないか。

 まだ喋ることはおろか、歩くことも出来ない彼女を見てそんな考えが頭に過る自分が少し怖かった。

 

 

 でも、それは杞憂に終わった。

 

「こくりお姉ちゃん!」

 

 始めて自分の足で歩いた日。

 その様子を撮っていた僕にふたりが笑顔で向かってきた瞬間。

 

 

 

 僕は死んだ。

 

 

 

 ひと姉に劣情を芽生えさせられたと表現するなら。

 

 

 ふたりに対する劣情はその圧倒的な純情可憐な姿に浄化させられたのだ。

 

 

 

「最後はジミヘンも抱えて一枚撮ろうか」

 

「うん!ジミヘンおいでー」

 

「ワン!」

 

 

 氷水風呂に浸かり死人のような顔つきになっているひと姉をバックに、ジミヘンを抱え一仕事終えたかのように満足げにピースしているふたりの写真。

 後にふたりが友達にこの写真を見せたら心霊写真として幼稚園で話題になり、ひと姉が地元全ての幼稚園生から畏怖の対象として見られることになるのはまた別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 

 

 えー、案の定ひと姉は風邪を引くことは出来ませんでした。

 

 

 最悪仮病を使ってくるかと虹夏パイセン達に連絡の準備をしてはいたが流石は虹夏パイセン。

 既にひと姉へ応援のメッセージを送っており、ひと姉が罪悪感に駆られてスマホに何度も何度も土下座しながら返信をしていたのは……朝からいいもの見せてもらいましたわぁ……。

 

 学校でもバイトのことしか頭にないのか珍しく挙動不審にならず、昼休みもいつもの謎スぺースで昼食を取らずに不動の寝たふりで過ごしていた。

 

 

 そして遂に訪れた初バイト。

 

 昨日の焼き直しかまたもや玄関で立ち往生するひと姉だったが、偶然にも虹夏パイセンのお姉さんでSTARRYの店長である伊地知星歌さんと、ばったり出くわし何とか店内に入ることはできた。

 

 あ、もちろん僕はひと姉には遅れると伝えてずっと尾行しながらず撮ってましたよ。

 

 

「君たちが新しいバイトの子か……なら最初からそう言いなよ」

 

「アッ…ハイ……すすす、すみません」

 

 

 ひと姉完全に萎縮しちゃってるな。これは虹夏パイセンの話聞いてなかったな?

 確かに腰まである長い金髪。燃えるような緋紅の眼。少しドライな言い回し。なによりこれから働く店の店長とくればその気持ちは分かる。イケメンだし。

 

 しかしよく見るんだひと姉!あのアホ毛を!伊地知の血を感じるだろう?

 

 

「君もお姉さんならしっかりと面倒みてあげなよ?」

 

「ハイ、す、すみません……ん?」

 

 

 謝っているひと姉……ではなく今のは僕に言った?

 

 

「?カメラ持った子がお姉さんで……え?」

 

「僕が妹です」

 

「え?うそ!?」

 

「ハハハハ……大丈夫です……よく間違われるんで……昨日も姉の座譲ろうとしましたし……」

 

 

 さっきまであった圧に近い店長の雰囲気が霧散して心底申し訳なさそうな顔みると…………抑えろ……。

 

 どっちが姉だとか普段は意識していないのに他人に間違われると凹むひと姉ホント最高!店長さんありがとう!

 

 

「ご、ごめんね?じゃあ君がえっと……マンゴー仮面か!」

 

「…………っ!?は、はいマンゴー仮面です!」

 

 

 ……やばい。面白い過ぎる。手が震えてうまく撮れない……。

 

 なにマンゴー仮面って……いつの間にかそんなあだ名が出来てたんだ?

 しかもひと姉めちゃ嬉しそうなんだが?ちょろすぎか?

 

 

 その後、ちょうど来た虹夏パイセンにマンゴー仮面の名は剥奪され(店長が適当に付けただけだった)バイトの仕事内容を教えて貰った。

 ライブハウスのバイトなんて聞いたことなかったから一体どんなものが来るのかと身構えていたが、入り口の受付やホールの案内。会場の設営。店内の清掃。ドリンクやお酒作りと内容は飲食店に近いものだった。

 

 ひと姉は要領が少し悪いので不安だったがまさかの即興のギターの弾き語りで仕事内容だけでなく、ドリンクの位置やお酒の作り方を丸暗記するという神業を披露してた。

 

 ……やっぱり実力はあるんだよなぁ。

 

 

 

 

 

 そして戦いの幕は上がった。

 

 とりあえず今回ひと姉と僕は一杯500円と割とぼった……別料金を払うと貰えるドリンクチケットを受け取り、注文されたドリンクを注ぐ簡単な仕事をすることになった。

 

 まぁこれがひと姉になると話は大きく変わるのだが果たして……。

 

 

「さ!ぼっちちゃん、こくりちゃん出番だよ!」

 

「……へ?今日は仕事内容だけ覚えて終わりじゃ……?」

 

 

 さっきから妙にリラックスしているとは思っていたが、まさかの現実逃避で精神を保っていたのか……。

 

 お、記念すべき最初のお客様だ。さてとひと姉の手腕は……。

 

 

「すみません。コーラお願いします」

 

 

 

「「「……………………」」」

 

 

 

 

「あ、あれ?」

 

 

 すぐ後ろで盛り上がってきたライブの歓声がどこか遠くの場所に思えるほど――静寂が訪れた。

 

 カウンターは左から困惑。蒼白。喜悦(ニチャ顔)だった。

 

 

「……あ、分かひ……分かりました!あっ……っと……はいどうぞ!楽しんでください!」

 

 

 ……いやこれは事故ですね。

 

 虹夏パイセンは僕達に対応してほしい。

 ひと姉はパニックになって叫び出さなかっただけ偉い。いや人は真に驚くと声も出ないというから違うか?

 僕はひと姉がどうなるか見たかっただけ。

 

 うん。見事なすれ違いですね。噛み合わなかっただけで誰も悪くない。

 

 

 正直顔面蒼白のひと姉と焦って噛んだ虹夏パイセンが撮れて満足でした。

 

 

「ちょっと!どうしちゃたの!?お客さん困ってたよ!」

 

「わわわ、私は……いきなりすぎて目の前が真っ白になって……」

 

「てっきり左から順番に対応するのかと……すみません」

 

 

 そうだ!まずは虹夏パイセンが手本を見せてそれからひと姉、僕と続くかと思っていたんだ!

 つまり虹夏パイセンが悪い。

 

 

「てことで、次はひと姉――」

 

「わ、私そこの位置気になってたんだよなぁ~」

 

 

 気付いたらひと姉と僕の位置が入れ替わっていた。

 こういう時のひと姉の判断力と敏捷性は異常すぎる……。

 

 ……まぁ仕方ない。僕が先にやるか。

 

 

「ジンジャーエール1つ」

 

「かしこまりました」

 

 

 特に面白味もなくそつなくこなし終了。

 

 さ、今度こそ……。

 

 

「あ、やっぱりこっちの方が落ち着くなぁ……」

 

「ぼっちちゃん遊ばないで!?」

 

 

 ……今日でバイトやめようかな……?

 

 

 

 

 

 

 

 が、その時は唐突に訪れた。

 

 時間も押してきて残りのバンドもあと数組となってきた頃。

 店長さんが今日は人気のバンドが多いから見て勉強してこいとの粋な計らいで、受付にいたリョウパイセンが店長と交代しカウンターに戻ってきた。

 虹夏パイセン曰く店長さんは「ツンツン、ツンツンツンツンデレ」らしい。もうちょっとデレ多そうだけど。

 

 客足も落ち着ついてきてダウンしてたひと姉も復活し軽い雑談をしているなか、今日1日戦力になれなかったひと姉が虹夏パイセンに1つ踏み込んだ事を聞いた。

 

 

 

 

 ――――どうしてこんなミジンコレベルの私に優しくしてくれるんですか?

 

 

 当たり前のようになっていて忘れていた。

 

 誰かと関わりあい、気にかけてもらえる。

 幸いなことにひと姉は今までイジメにあったりすることはなかったが、同時に誰にも干渉されることもなかった。

 

 

 そんな今までずっとひとりぼっちだったひと姉が――バンドを組んで一緒にバイトをしようと誘ってくれて、積極的に関わってくれる虹夏パイセンが……ひと姉にはとても眩しくて嬉しくて、そして自分には不釣り合いなのではないか。そんな漠然とした不安から出た一言。

 

 

 それを虹夏パイセンが汲んだのかは分からない。

 

 

 でも、はっきりと言えることがある。

 

 

 虹夏パイセンから綴られたそれは心の底から大事にしている夢と願いだった。

 

 

「私ね。このライブハウスが好きなの。だからライブハウスのスタッフさんがお客さんと関われるの、ここと受付ぐらいだし……いい箱だったって思って貰いたい気持ちがいつもあって……」

 

「す、すすすみません……そんな大事な場所でド下手な接客を……」

 

「あぁ、いや違うんだ……私はね。ぼっちちゃんにもいい箱だったって思って欲しいんだ」

 

「!……」

 

「ぼっちちゃんと楽しくバンドして、楽しくバイトしたいの。一緒に」

 

 

 

 飾り気のない1人の友達として……仲間としての真っ直ぐな気持ち。

 

 

 だけど言葉はひと姉にとってどれほど待ち望んでいたものだったか。

 

 

 虹夏パイセンもリョウパイセンもきっと気付いていない。

 

 

 それはひと姉がまた1歩踏み出せる魔法の言葉だった。

 

 

 

「すみません。オレンジジュース」

 

「あっ、はい!」

 

「ぼっちちゃん……?」

 

 

 友達が大切にしている気持ちを……自分も大切にしたい。

 

 

 テキパキと教えて貰った手順でクリアカップに注ぐ。

 

 笑顔でお客さんの眼を見て――――

 

 

「ド、どうぞ~……」

 

 

 半開きの眼、にへらとした拙い笑顔。手も声も震えている。

 

 ひと姉らしく締まらないけど、それでもしっかりとお客さんに対応できた。

 

 

「ふふ。ありがとう」

 

「!……ぼっちちゃんすごい!カウンターからちゃんと顔を出して接客できたね」

 

「はい……頑張りました」

 

 

 

 

 ……おいおいおい。

 

 

 虹夏パイセンは神か?女神なのか?まずは笑顔でひと姉の成長を褒めるとか……分かってんな?

 そしてひと姉はどんだけひと姉なんだ?遂に接客出来たと思ったら……いやそれがとてもイイだけどね?

 ホントなんだこの2人?これが所謂てぇてぇって奴か?ニチャるの堪えるのに必死なんだが?シャッターが止まらんのだが?

 

 

 

 

 

 

 

 

 時計の短針が午後9時を回った頃、無事にバイト初日が終了した。

 

 

 緊張の糸が切れたのと、ひと姉にとっては今日は1000歩ぐらいのつもりだったんだろう。

 虹夏パイセンの「1歩前進だね」のショックが大きすぎたのか、ひと姉が動かなくなってしまったので背負って帰ることになった。

 

 

「ぼっちちゃんとギター背負って……本当に大丈夫なの?」

 

「慣れているので大丈夫です」

 

 

 ヒトリニウムには一時的に筋力を増強させる働きがあるので無問題。過剰接収は禁物だが。

 ひと姉の気絶して溶け切った顔見るだけで何処までも連れていける自信がある。あとおんぶするとひと姉の匂いがするから役得。

 

 

「あ、こくりちゃん。少しいいかな?」

 

 

 と、帰ろうとしたところにまさかの店長さんから呼び出し。

 

 しかも2人きりで話したいときた……もしかしてクビ?

 

 

「こくりちゃんさ。昨日の結束バンドのライブ撮ってたでしょ?」

 

「はい。あ、もしかして撮影禁止でしたか?」

 

「いやそれはいいんだけどさ……その良かったら撮った写真少し欲しいなって」

 

 

 ほ~う……。

 

 恥ずかしさを誤魔化す為に赤くなった頬を搔く店長さん……えぇえぇ分かりますとも。皆までいうなかれ……。

 やっぱりこの人優しいよな?「ツンツンデレデレ」ぐらいでは?

 

 まぁきっと虹夏パイセンには知られたくないのだろう……いいでしょう。同じ姉妹仲間のよしみとして、野暮なことは言わんでおこう。

 

 

「いいですよ。明日撮った写真のデータが入ったカード持ってきますね」

 

「お、おう。サンキュー」

 

 

 バイト開始時とは真逆の張りのない声。話を早くを済ませたいのか若干早口になっているの可愛すぎだろ。頂きます。これは虹夏パイセンの姉ですわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 

 まさかの一日遅れでひと姉が風邪を引き起こした。

 新学期が始まるたびに氷水風呂の儀式はやっていたが今までこんな事は一度もなかった。

 しかも昨日、虹夏パイセンに「明日も頑張ります」と初めて自分からロインを送った直後に発熱したのは流石というべきか。

 

 今すぐ家に帰って付きっきりで看病したいのは山々だが、今日から早速シフトを入れてしまったし何よりも約束は果たさなければならない。

 

 そんな訳で僕は1人でSTARRYにやってきた。

 

 

「店長さん。約束の品物持ってきました」

 

「お。ありがとう」

 

「USBカードリーダーも持ってきたので、PCに繋いで気に入った写真を選んでください」

 

 

 まだ開店時間ではないので勿論客はおらず、虹夏パイセン達はまだ学校らしい。店内には店長さんと寝ているPAさんしかいなかった。

 

 まぁ店長さんからしたらこっちの方が都合がいいだろう。

 ウキウキしながらPCに繋ぐ姿なんて虹夏パイセンには見せられないよねぇ?(盗撮)

 

 

「僕も隣で見ていいですか?」

 

「バイトが始まるまでなら別にいいよ」

 

 

 それじゃ失礼しまーす。

 さーてと、妹の初ライブの写真を見てニヤつく店長さんを見てニチャつきますか。

 

 

「へぇ……撮るの上手いじゃん。ライブハウスでの撮影って結構難しいのに」

 

「ありがとうございます」

 

 

 腐っても自我芽生えた時からカメラ握っているんで人並み以上の腕はあると自負してる。

 店長さん僕の写真がお気に召したのか、さっきからプリントしたい写真に付けるチェックマークが止まらない。

おまけにアホ毛がぴょこぴょこ跳ねている。虹夏パイセンよりもアホ毛が活発なのだろうか?

 

 

 

 しかしそんな微笑ましい空気は……とある写真によって一気に凍り付いた。

 

 

「ん?この写真は……?」

 

 

 失念していた。

 それはもしもの時の精神安定剤として、僕が所持している全てのメモリーカードに必ず入れてある写真。

 

 

 

 

「ぼっちちゃん……の寝顔?」

 

 

 

 

 

「あ」

 

 

 

 まずい。非常にまずい。

 

 例えば虹夏パイセンやリョウパイセンならなんとかごり押しで誤魔化せそうだが大人の店長にはそうはいかない。

 

 クビ……いやそれならまだましだ。最悪ひと姉が結束バンドを抜けさせられ……。

 

 

「あ、いや。これは、その違くて。お守りというか薬というかヒトリニウムは世界を救うというか……」

 

 

 いつもひと姉のことで一杯の脳ミソをフル回転させてなんとか良い落としどころを…………。

 

 

 

 

 

 

 

「か、かわいい…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………おや?

 

 

 

 ……聞き間違いじゃなければ今、消え入るような霞んだ声で「かわいい」と呟いたよな?

 驚くわけでもなく、僕にドン引きするわけでもない。

 

 

 

 恐る恐る店長さんを窺うと……PCに映るひと姉の寝顔に僕のことなんか気にせず釘付けになっていた。

 

 

 

 これは……思わぬ所に「同志」がいたのかもしれない。

 

 

 

「店長さん……?良かったらこの写真もプリントしてきましょうか?」

 

 

 この場には寝ているPAさんと僕達しかいない。

 誰にも聞かれていない筈なのにも関わらず誰にも悟られないように耳元で。悪巧みをする子供のように無邪気に。契約を求める悪魔のようにそっと囁く。

 

 店長さんは怯える小鹿のような瞳は「いいの?」と言外に聞いているものだった。

 それに僕はなにも答えずただ()()を浮かべるだけ。

 

 同志に言葉はいらない。

 

 瞬くような一瞬とも引き伸ばされ続ける永遠とも感じる時間は、店長さんのゴクリと喉を鳴らす音によって終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

「…………じゃぁ…その一枚だけ…………それでいくら払えば?」

 

「代金は頂きません。ただしお互いの為にもこの事は内密にお願いしますね?…………それを守って頂けたらまだまだある()()のコレクションたちもいずれは……」

 

「!…………わ、わかった……」

 

 

 

 これは……時間の問題だな。

 

 今はまだ健全……いや盗撮された寝顔に食いつくのは健全なのか議論するのは置いといて。

 ひと姉の魅力にかかった時点で僕と同じ路を辿るのは必然だからね……やがてはひと姉の煌めきにも.......絶対に引きずり込む。

 

 一緒にひと姉でニチャつきましょうや。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (やっぱりシスコン同士は惹かれ合う運命なんですね)

 

 

 背後からの生暖かい視線にPCを前にしている2人が気付くことはなかった。

 

 

 

 

 







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