後方腕組親面変態シスコンニチャ顔盗撮魔双子妹   作:防虫剤

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#4 好きこそ物の上手なれ (日進月歩)

 

 「お願い後藤さん!バイトの後で私にギター教えてくれないかな?」

 

 「あ、あわわわわわ……」

 

 

 

 うひ……ふへへへ……。

 

 

 校内のとある場所にある人気の無いいつもの食事処にて。

 このジメッとした暗く重い空間を照らす明るい少女に両手を握られ迫られているのはわが姉、後藤ひとりその人である。

 

 

 ……だんだんと結束バンドのメンツに慣れてきて、最近虹夏パイセンとリョウパイセンなら眼を見て話せるようになってきたから忘れてた。

 

 やっぱりこうやって話しかけられるとキョどって言葉は出てこず、半泣きになりながら誰かに助けを求めているひと姉は…………うぇへへ、ええのぉええのぉ。

 

 

 しかも相手は喜多ちゃんと来た。

 

 こりゃ2人でじっくりお楽しみ頂かないと。

 そしてひと姉の一言一句、一挙一動余すことなく撮らなきゃ。

 

 

 

 

 

 時は昼休み。

 

 それは多くの学生にとっての憩いの時間。

 4限目を終えるチャイムが鳴った瞬間生徒達は動き出す。各々持参した弁当や学食で好きなだけ駄弁り、一分一秒を惜しむこの時間は何事にも代え難い。

 

 それはぼっちであるひと姉も当てはまる。あ、勿論友達同士との駄弁りではない。

 

 階段の下にある謎スぺースでの食事。ひと姉の生息に適した湿度と日の当たらなさ。

 学校で唯一1人きりになって落ち着けるこの空間はひと姉にとってのオアシスそのものだ。

 

 しかしこの日、オアシスに1人の侵入者が君臨した。

 いや、正確にはひと姉が招き入れた。

 

 

 その名は『喜多郁代』秀華高校1年生。

 

 本人は郁代という名前がコンプレックスらしく周りからは「喜多ちゃん」と呼ばれている。

 明るく社交的な彼女の性格を表したかのような赤い髪。それをゆるく巻き毛にセットした髪型。長いまつ毛と蜂蜜のように甘い琥珀色の眼は、思わず同性でも見惚れてしまうほど美しい。

 

 

 そして喜多ちゃんは……俗に言う陽キャってやつだ。

 

 学校では常に友達に囲まれている人気者。休日は友達と流行りのスイーツ店やスポットを巡りイソスタに投稿するのが趣味。しかもイソスタは15000人のフォロワーを抱えており、一般的な女子高生にしては充分すぎる影響力を持っている。

 

 

 そんな彼女がなぜこんな似つかわしくない場所(オアシス)でひと姉に迫っているのか。

 

 

 

 

 

 それは前に行った結束バンドミーティングで出た問題。

 

 

 結束バンドにはまだボーカルがいない。

 

 最近はボーカルのいないインストというバンド形態もよくあるらしいが、やっぱりボーカルは欲しいと話題に上がった。

 

 虹夏パイセンは歌に自信がないらしく、ひと姉は論外。

 リョウパイセンは逆に自信がありすぎて、ワンマンになって結束バンドを潰すことになるのでNG。

 

 というわけで絶賛ボーカル募集中の結束バンドだが中々集まらずに難航していた。

 

 しかしひと姉がとある噂を聞きつけた。

 

 

「1年5組の喜多ちゃんはギターも弾けて歌も上手いらしい」

 

 

 ひと姉は偶にとんでもない行動力を発現させる時がある。

 真偽を確かめるため、ひと姉は1年5組の教室へ突撃――怖気づいて扉から覗き込み、喜多ちゃんとの接触に成功した。

 

 

 

 「バ!ギ!ボ!」

 

 

 突然のヒューマンビートボックスで。

 

 

 

 

 恐らく「バンドのギターボーカルを探しているんですけどウチのバンドに興味ないですか?」と、言いたかったのだろう。

 

 しかし初対面の同級生を誘えてたらひと姉はぼっちなんてやっていない。

 

 結果、恥ずかしさのあまり逃げ出していつものオアシスへ帰還。ぼっち黒歴史弾き語り.Verで精神統一をすることになった。

 

 

 が、喜多ちゃんに興味を持たれたら最後。

 隠れ家が特定されてしまった。

 

 

 ただ、なんとかひと姉もバンドの話を持ち出すことに成功した……のだが、なんと喜多ちゃん実は全くギターが弾けなくて、しかも先輩目当てでバンドへ入りライブ直前になって逃げ出したサイコーにロックな奴だった。

 

 

 

 

 

 冒頭に戻る。

 

 

「わかひました……」

 

 

 まぁひと姉が断れる訳ないよね。

 

 いやぁこれは面白くなってきた。

 ただでさえ最近は毎日バンドとバイトでくたびれているのに、そこへ陽キャオーラ全開の喜多ちゃんに付きっきりで教えるなんて……フヒッ。

 

 

「ありがとう後藤さん!それにしても……後藤さん多才なのね。木登り得意だし()()()()()のも上手だしギターも出来るなんて」

 

「ふぇっ……?」

 

 

 木登り……?写真……?

 

 まさかとは思うが……。

 

 

「あ!そういえばイソスタ見てくれた?この前教えてくれたアングルで撮ったら早速バズっちゃった!やっぱ撮り方って大切ね!」

 

「イソ……ば、ばず……?」

 

「うん!」

 

 

 喜多ちゃん。完全にひと姉を僕だと勘違いしてるな……。

 

 

 

 

 

 

 

 僕達が通う秀華高校は制服私服どちらでもいいとラフな高校だが、入学式や卒業式といった一部の行事に関しては制服が義務付けられている。

 

 

 そしてあの日は……恐らく超レアとなるだろうひと姉の制服姿が拝める――秀華高校入学式だった。

 

 実はこの学校に入学したのは家から離れていてひと姉の過去を誰も知らないから――もあるが、この私服OKな部分も理由の1つだった。

 ひと姉は「朝、制服を着るという儀式をしなくて済むなら少しは気分が楽になる」と、入学前から常日頃言っていた。

 

 つまりこの学校に入ったら……ひと姉の制服姿を()ることが出来る機会は僅かしかない。

 

 

 僕はいつも以上に気合いをいれ、他の生徒とは全く違う意味の緊張感を持って入学式に挑んでいた。

 

 

 式が終了後勿論ひと姉は記念撮影などせずさっさと帰ろうしていたがそうはさせん。

 トイレに行ってくると伝えひと姉の返事を待たずに爆速で逃げ、木の上に隠れながらボーナスタイムとばかりに盗撮しまくっていた。

 

 

 その時に喜多ちゃんと出会った。

 

 

「木登り得意なの?」「それすっごいカメラだね!」「写真撮るの好きなの?もしかしてイソスタとかやってる?」「すごい!こんなに綺麗な写真撮れるんだ!」「ロイン交換しましょ!早速友達できちゃった!」「今度上手な写真の撮り方教えてほしいな!」

 

 

 見つかったのは普通にヒヤッとしたし、初対面にも関わらずグイグイと迫ってきたのは唖然としたが、喜多ちゃんの仲良くなりたいという気持ちはすぐに伝わり気付いたらすぐに仲良くなった。

 その後もクラスは違ったけど廊下ですれ違った時に喋ったり、偶に昼食を一緒に取ったりと付き合いは続いていた。

 

 

 

 

 ひと姉と僕の外見的特徴はかなり酷似している。

 

 違う点は虹彩の色と………………受け入れ難いが胸のサイズ。

 他の特徴……例えば身長体重は全く同じ、髪の長さも僕が結んでいるだけで下ろせば同じ長さだ。

 

 そしてひと姉はいつも猫背で伏し目がちなので眼が見えず、常にジャージなのに胸も目立ちにくい。

 そのせいで喜多ちゃんは僕とひと姉を勘違いしたのだろう。

 

 ちなみに喜多ちゃんにはひと姉のことは話していない。まさか絡むことあるとは予想だにしていなかったし。

 

 

「あ、あの……喜多さん?それは……」

 

「そういえば後藤さん髪下したのね~。こんなに長かったんだ!」

 

「い、いや……あ、あの」

 

「でもしっかりとケアしないとダメよ?ちょっと傷んでいるわ」

 

「あっあうぅ……」

 

 

 何処に潜ませていたのかヘアブラシでブラッシングする喜多ちゃん。初対面に対するパーソナルスペースではない。

 が、それも致し方なし。陽キャの彼女は元々すぐに距離を縮めてくるし、友達同士ならアレぐらいの距離感は当たり前なのだろう。

 

 しかし、相手は超が付くほどの陰キャでコミュ障のひと姉。

 ショックが強すぎたのか、目を開けたまま気絶している……と思ったらいきなりバレないように喜多ちゃんの匂い嗅いでるし……情緒がおかしい(かわいい)

 

 

「手も少し乾燥しているわ。これ私が使っているハンドクリーム。塗ってあげるね」

 

「ヘッ!?いや……チョッ……」

 

 

 いつの時代も少女達が仲睦まじくしている様子は世界を救う。古事記にもそう書かれている。

 そして僕にはそれを未来永劫残す使命がある。何が言いたいのかと言うとシャッターが止まらん。

 

 

「アッ……喜多さんの手柔らかい……」

 

 

 仲睦まじい……のか?

 片方は顔面蒼白になったり、急に顔を赤らめながら触れた肌をこっそり堪能したりしているが……まぁ。ヨシ!

 

 

 しかしそんな微笑ましい光景も、喜多ちゃんのとある行動によって一気に修羅場と化した。

 

 

「いつの間にか前髪も伸ばしっぱなし……折角顔がいいんだからもっと見えるようにしましょ!」

 

 

「え?……あ」

 

 

 人と眼を合わすと動悸が起こってしまうひと姉。

 そんなひと姉が学校で普通(?)の学生を送れているのは伸びた前髪のお陰が半分はある。少しでも顔を隠し周りから目を背けることで、ひと姉の精神は絶妙な均衡を保てている。

 

 

 そんな命綱にも近い前髪を上げたら一体どうなるか……想像するに難くない。

 

 

 

 

「ご、後藤さん!?な、なにこれ、石!?」

 

 

 ひと姉は……文字通り石になった。

 

 

「返事して後藤さん!……どどど、どうしよう……」

 

 

 

 

 あちゃ~。

 

 まぁただごとでは済まないとは思っていたが石化とは……うん、爆発しなかっただけ良かった。

 

 

 とりあえず新形態発見として撮影しておこう。

 

 

「こんにちは喜多ちゃん。このひと姉は貴重なサンプルとして撮らせて貰います」

 

「え!?ご、後藤さん!?ど、どういうこと?こっちの後藤さんは……?」

 

 

 お。喜多ちゃんがそんなに動揺した顔初めて見ましたよ。それに若干怖がってるし……フヒ、いただきます(盗撮)

 

 

 

 

 

「えっと……つまり後藤さんは双子で、今まで話していた後藤さんは……妹のこくりちゃん。ギターが上手な後藤さんは姉のひとりちゃんってことでいいのね?」

 

「はい。そうです」

 

 

 一通り堪能しきったあと、喜多ちゃんには落ち着いてもらい僕とひと姉の関係を説明した。

 

 

 ちなみにひと姉はなんか気が付いたら元に戻ってた。

 昔から思ってたけどひと姉の体ってやっぱり人間じゃないよね。

 

 

「それで……後藤さ……いやえっと」

 

「僕はこくりでいいですよ」

 

「それじゃぁ後藤さん。その……ギターの件はいいの?」

 

 

 ひと姉には簡単に名前呼びの権利は渡さん。

 理由は至極単純。双子だからといった理由での名前呼びは僕が許さん。ひと姉が名前呼びになるぐらい仲良くなるように努力するべきだ。

 

 だから喜多ちゃんと仲良くなってね♡絶対に面白いから……。

 

 

「あっ、はい」

 

 

 勿論2度目も変わらない返事。

 

 ひと姉が断るはずはないが不安だったのだろう、喜多ちゃんの少し曇っていた顔が一気に晴れ渡った。

 

 

「ありがとう!後藤さんって姉妹揃ってとっても優しいのね!」

 

「ガッ…………」

 

 

 その眩しさを直視してしまったせいでひと姉は弾け飛んだ。文字通り。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後。

 

 今日はバイトの後にギターを教えることになったので、まずはライブハウスまで付いてきて貰うこととなったのだが……。

 

 

「お、重いし、なにこれ……」

 

 

 僕、ひと姉、喜多ちゃん。

 この順番で某RPGのように仲良く縦一列に、某大きなカブの寓話のように前の人に抱きつき下北を行進する秀華高校1年生組。

 

 

「私、前にいたバンドが下北系だったのよね……」

 

「わ、私もまだこの町に慣れてなくて……」

 

 

 そんな訳で後ろめたさがあったりビビり散らかしたりと、2人が動けないので僕の後ろに隠れている訳ですが……。

 明らかにこっちの方が目立っているし恥ずかしいんだが!?

 

 

 でも2人仲良くビクビク怯えているのはかわいいから……盗撮で許す。

 

 

「ところで何処のライブハウスでバイトしているの?」

 

「そういえばまだ場所伝えていなかったね、ひと姉教えてあげて」

 

「私!?えっと……場所はSTARRYってライブハウスで、そこで結束バンドっていうバンド名で……」

 

 

 うんうん。ひと姉も少しずつだけど話せるようになってきた。最初はあんなに声が詰まってた喜多ちゃん相手にも、こうやって早口ながら説明できて……なんか涙が……。

 

 

「STARRY!!??」

 

 

 なんて感傷は喜多ちゃんの叫びによって引き戻された。

 いつも喜多ちゃんは声に張りがあって大きいけど、今出たソレは腹の底からの慟哭に近いものだった。

 

 

「喜多さん……?ムギュ!?」

 

「ごめんね後藤さん!そこにはどうしてもいけないの!ギターはまた今度教えてほしい――」

 

 

 あぁ。察してしまった。

 

 虹夏パイセンが出会った時に言っていたあの言葉。

 「ギターボーカルが逃げちゃった」

 これは確実に喜多ちゃんのことだろう。

 

 前に所属していたバンドが下北系。ギターが弾けなくて逃げ出した。STARRYと結束バンドの名を聞いた瞬間の狼狽えさ。

 

 ここまで状況が一致しているのが何よりの証拠だ。ライブ当日になって逃げ出すボーカルが他に居てたまるか。

 

 

 これは……こんな逸材絶対に逃がす訳にはいかない。

 喜多ちゃん、お前も結束バンドに入るんだ。

 

 思い立ったが吉日。

 喜多ちゃんには悪いがアームロックをかけて確保させてもらう。

 

 ちなみにこの間、僅か2秒。

 

 

「こ、こくりちゃん!?いたたた……」

 

「郁代。お前もバンドマンにならないか?」

 

「なんで名前!?そして目が怖い!離して!私は――『あっ!?逃げたギター!』ハァッ!?」

 

「虹夏パイセン、ちょうどいいところにきましたね……なんですかそのエナドリ?」

 

「これはぼっちちゃんが……こくりちゃんは何故喜多ちゃんを雁字搦めにしてるの?」

 

 

 これでボーカルも揃い結束バンドが出来上がりますよ!嬉々として報告しようとしたところ遅れてリョウパイセンもやってきた。

 

 

「!?リョウ先輩……!」

 

 

 脇の下にいる喜多ちゃんの声が黄色くなった。

 そういえば喜多ちゃんは先輩目当てでバンドに入ったとか言ってたな。あれはリョウパイセンか。

 

 なんて思案に耽っているとひと姉を今まで逃がしたことのない自慢のアームロックをすり抜け、リョウパイセンに駆け付けて――

 

 

「どうぞあの時の無礼をお許しください!どうか私を滅茶苦茶にしてください!」

 

 

 土下座した。

 衆目を一切気にしない、清々しい綺麗な土下座…………なんか既視感あるな。

 

 

「おー」

 

 

 そしてそんな土下座を向けられても全くの動揺はおろか、なにをしてやろうかと吟味している目つきのリョウパイセン。

 

 こういう図太いところ僕も見習わないとなぁ。

 

 

 とりあえず、喜多ちゃんの土下座は撮っておこう。

 

 

「誤解が生みそうな発言やめて!あとこくりちゃんは撮るのをやめなさい!」

 

 

 

 

 

 喜多ちゃんはまず、ライブ直前に抜け出したことを改めて謝罪し何故逃げ出したのかを説明した。

 

 正直やってることはかなりやばいと思うが、それでも虹夏パイセン達は笑顔で許してくれた。

 

 しかし喜多ちゃんはそれだけじゃ気が収まらない何か罪滅ぼしをさせてほしい、といった訳で現在給仕服を着てSTARRYのお手伝い中です。

 

 

「星歌店長……あれなんですか?」

 

 

 最初は手伝いだけの筈だったが、星歌店長が持ってきた洋風の給仕服をバッチリ着こなし床掃除している喜多ちゃん。

 このアングラなライブハウスには似つかない格好だが、喜多ちゃんの愛嬌と美貌、スラっとしたスタイルにキビキビと動く様で全く違和感を感じさせない。

 

 

「……別に」

 

「……()()

 

「……っ!?……趣味だよ。私は似合わないから着ないけど…可愛い服を集めちゃ悪いか……」

 

 

 星歌店長。あんた可愛すぎか?

 全然似合うと思うんだけどなぁ。もしも機会があったら着せたい。そしてあわよくば撮りたい。

 

 

「……な、なぁ。ぼっちちゃんは着ないのか?ああいった服」

 

 

 他の人が絶対に聞き取られないようにより一層声を落として尋ねてくる星歌店長。

 

 

「星歌店長の言いたいことは分かります。ひと姉家でもずっとジャージで……一応お母さんが買った服はあるんですが絶対に着ないんですよね~」

 

 

 喜多ちゃんに負けず劣らずああいった服似合うと思うんだよなぁ。というか2人でメイド服とか着て並んで欲しい。きっと最強だから。

 過去にはモデルさんごっこと称して色んな服を着せていたけど、今は無理だろうからなぁ。あ、ちなみにさっき言った3枚はいい機会なのでモデルさんごっこ時代の写真を持ってくるつもりです。

 

 

「……ちなみになんだけどさ……ちなみにだよ?…こくりちゃんは着ないの?」

 

「いやぁそれこそ僕には似合わないですよ~、誰得って感じですしね」

 

「ふ、ふ~ん」

 

 

 僕は基本的にラフで動きやすい服装しか着ない。リョウパイセンとかコーデの趣味が合いそうだから今度聞いてみようかな?

 

 それにしても……いきなりそんなこと聞いて星歌店長どうしたんだろう?

 

 

 

 

 

 あまりの完璧な仕事ぶりにひと姉のアイデンティティが喪失しかけたが、無事にピークを終えてカウンター席にて喜多ちゃん、ひと姉、僕で雑談している時だった。

 

 

「一度逃げ出した無責任な私はもう……バンドなんかしちゃいけない」

 

 諦観しつつもやっぱり諦めきれない気持ちを捨てるように喜多ちゃんは言った。

 

 結束バンドに入ってリョウ先輩の娘になりたかった。

 唐突なやべーカミングアウトの後に綴られた喜多ちゃんの気持ち……いや、きっと贖罪のつもりなのだろう。

 

 

 ……それは間違ってはいないと思う。

 

 でもそんな言い方はやめてほしい。気付いたら僕は呟くように彼女へ語りかけていた。

 

 

「不純だとしても、本気なら僕はいいと思うけどな。確かに逃げ出したことは褒められたことでじゃないけどさ、こうして謝って償いまでしたんだから自分を許してあげてもいいんじゃない?みんなは許してくれたんだから」

 

「………………」

 

「なんか説教じみちゃったかな?ごめんね?喜多ちゃんには力もあるわけだしさ、後悔はしてほしくなくて」

 

 

 少しだけでも喜多ちゃんが後悔しないように……やりたいと思ったことがあって、それが出来る環境にあるならば兎に角何でもいいからやってみるべきだ。僕の持論だけどね。

 しかも喜多ちゃんはそれができる環境はもちろん、その力だって備わっているんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして…………喜多ちゃんは結束バンドに入ることとなった。

 

 

 バイトが終わり挨拶を済ませて帰ろうとした喜多ちゃんをひと姉が引き留めた。声をかけようとして足が滑り思いっきり顔面からダイブしたのはひと姉らしいが。

 

 そしてたどたどしくも、その言葉が届くように噛み締めながらひと姉は放つ。

 

 自身も最初は緊張して動けなかったこと。喜多ちゃんがギターの練習をして指が硬くなっていたこと。

 それからそれから……と詰まってしまうも、ここまでできたなら上等だった。

 虹夏パイセン達もフォローに回ってくれて、未だに引け目を感じてしまうこと。でもやっぱり憧れてること。何よりも……あの日のお陰でぼっちちゃんと会えたこと。

 リョウパイセンはノルマが4分割されるから楽になると、素直な言い方をしなかったが喜多ちゃん的にはそれが逆に刺さっていた。

 

 それに弾けないギターはひと姉に教えてもらえばいい(ここまで来ても断りたそうだったが)1歩ずつ一緒に進んでいこうと。

 

 

 遂に穴が開いていたボーカルが埋まり、この日結束バンドが完成した。

 

 

 

 

 

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