彼が何故そんなにも燃え盛っていたのか、その理由が語られるお話です。
竈門炭治郎らが上弦の陸を撃破し、治療の後刀鍛冶の里へ向かったころ。
月宮明日香の同期である朔間斑尾は、相も変わらず拳で鬼を殴り潰していた。
過去に下弦の鬼を取り逃して依頼、十二鬼月には遭遇していない。
とは言え圧倒的な攻撃力と耐久力のおかげで、一般の隊員が数人がかりでようやく倒す鬼も、斑尾一人でほぼ無傷のまま倒せるのでその功績自体は文句の付けようがない。
週に一体、多い週には三体の鬼を討伐する。
階級こそ足りていないが、討伐数50以上の条件はとっくに達成している。
煉獄 杏寿郎の穴を月宮明日香が埋めたように、宇髄 天元が引退した穴埋めに成りうる者として、鬼殺隊の柱達からも期待を寄せられているのは紛れもない事実だ。
しかし、当の本人はと言うと、同期の二人の活躍ぶりに比べて十二鬼月を取り逃した上に、抜けた柱の代わりにもなれない未熟者と卑下し、常人には理解し兼ねる劣等感を感じていたのだ。
「俺と同時に鬼殺隊になった月宮は今や柱の一人だ。同じくシャルロットも柱とは言えずとも替えのきかない唯一の存在。対する俺はどうだ!こんなにも恵まれた肉体を持って生まれていながらも、刀もろくに握れず人の怪我を治すこともできない!挙句の果てには後輩達に追い付かれそうだと?年長者として彼らの手本になるべき立場の俺が!馬鹿らしくて笑い話にもならんぞ!」
凄まじい声量、通りすがりの後輩隊員達も驚いて腰を抜かす程だ。
善逸がこの場にいれば気を失っているだろう。
驚くべきは、この独り言は片腕で全体重を支えながら発せられているという点だろう。
彼自身の全体重145kgを、腕を鍛えるための重りとして使っているのだ。
単純に腕力を鍛えるだけでなく、バランスの悪い姿勢でも揺れることなく同じ姿勢を保つ事で、全身の筋肉をより精密に動かすトレーニングを行っているのだ。
最も、斑尾はそんな複雑なことを考えつくほど賢い人間では無いので、単に思いつきで試しているだけだ。
そんな中、いつも通りに鬼を狩るため夜遅くに人気のない山を訪れていた。
鎹鴉からの情報では、この山で鬼の目撃情報があったとの事。
本当に鬼がいたのなら一大事だ。
「しかし、俺もようやく鬼の気配ってのが分かるようになってきたかな?何となくだが、この山には鬼がいるように思えてきた。間違い無ぇ、この山のどこかに鬼がいる。」
とは言え斑尾も、無闇に突き進めば鬼の仕掛けた罠にハマると理解している。
そうなれば斑尾とて無事でいられるとは限らない。
カサッ…
茂みの奥からわずかだが物音が聞こえた。
「兎か?……いや、この山に兎はいねぇだろうな。鬼かもしれねぇからな。確認は大事だ。」
ガサッ…ガサッ…
バサッ!!
「馬鹿な人間め!まんまと着いてきおった…な……」
「お前、鬼だな?」
「ば、化け物!!」
どうやら相手に気が付かれることなく自分を追跡させる血気術を持っており、わざと見つかって返り討ちにする方法を得意とす鬼だったようだ。
つまり自分より強い鬼狩りが相手ならあっさり負けるしかない鬼だ。
「こんなくだらない血気術でも、発現するまでに大勢の人間を食ったはずだ。やはり人喰い鬼は到底許せない存在だな。さてと、こいつ以外にも鬼がいるかもしれないからな。朝まで周りを見て歩いてから帰るとしよう。」
そう言って少し歩くと、鈍感な斑尾でも気がつくほどのおぞましい鬼の気配を感じとった。
「こ、これはッ…!以前取り逃した十二鬼月なんぞ比較にもならねぇ!ま、まさか…上弦か!?」
十二鬼月 上弦の参こと猗窩座。
鬼舞辻無惨が彼に与えた役目は、青い彼岸花の捜索だ。
鬼は昼間の間外に出ることはできない。
必然的に、夜の暗い森の中などで青い彼岸花を探すことになるのだ。
この夜、猗窩座は雑魚鬼が一匹住み着いた小さな山を訪れていた。
「青い彼岸花…何としても見つけださねば…。それに、あの花札の飾を付けたガキ…やつも必ず見つけ出して…この手で殺す!!」
そして、偶然か必然か。
拳で戦う男達は、同じ山の同じ大木の下で、お互いの姿を目にした。
(あ、あの目…上弦の参だと…!?)
(熊…!いや人間なのか…!?)
「おいお前!上弦の参、猗窩座だな!」
「俺の名を知っている……鬼狩りか!?何者だ貴様!」
「俺の名は朔間斑尾!お前達人喰い鬼を倒す鬼殺隊だ!」
「鬼狩りなら生かしておく必要も無い…貴様を殺す!」
術式展開 破壊殺・羅針
破壊殺・空式
鋼の呼吸 壱の型 鉄拳
ドゴォッ!!
猗窩座が虚空を打ち発生させた衝撃波を、斑尾は拳でかき消した。
「なに、拳でかき消しただと!?人間の体でそんな事ができるのか!?」
「できる!俺ならな!」
鋼の呼吸 参の型
両腕を振り落として鬼の頭をかち割る技。
実際に普通の鬼が喰らえば、頭どころか上半身が木っ端微塵に弾け飛ぶ威力だ。
そんな強烈な拳が、猗窩座の脳天を粉砕するスレスレの所で、惜しくも避けられてしまった。
(図体の割に速度も尋常ではない!今の攻撃、威力だけなら杏寿郎さえも超えている!だが、攻撃の後が隙だらけだ!)
「ふっ飛べ斑尾!」
破壊殺・
柱でもまともに受ければ致命傷は間逃れない強烈な蹴りの連撃。
斑尾はそれを全身に受けた。
咄嗟の判断で全身の筋肉を膨張させ、筋肉の鎧を作り出したが、それでもなお骨にヒビが入った。
あまりの威力にその場に留まることもできず、足から土煙を立てながら軽く10mは後ろに押された。
「うぐおぉぉぉぉ……くうっ……がはぁ……」
「馬鹿な!あれを生身で全て受けて肉塊にならないだと!?有り得ない!!」
「驚いたかよ……俺も驚いたぜ……!生まれてこの方…骨折られかけたのはてめぇが始めてたぁ……!素人の蹴り技じゃねぇなぁ!?てめぇ元は格闘家だな!!」
「それがどうした!」
「格闘技ってのはなぁ……人を守るためのものだ!それをてめぇはあろう事か……人殺しに使ってんだぞ!!てめぇの師匠があの世で泣いてるぞ!家族も!技で分かる!てめぇは真っ当な格闘家だったはずだ!何故お前は鬼舞辻無惨なんかの言いなりになってるんだ!?守りたい者は!?どうなっちまったんだよてめぇの志しは!?」
「黙れええぇぇぇぇぇぇ!!!!」
破壊殺・
「ぐおおぉぉぉぉぉぉあぁぁぁぁぁぁ!!!」
鋼の呼吸 弐の型 鋼連拳
破壊殺・終式・青銀乱残光
全方位に100発にも及ぶ打撃を繰り出す猗窩座の大技。
数には数で対抗しようと斑尾も負けじと型を放つが。
「ゴフッ……うぐぉぉ……がはぁぁぁぁっ……!!」
一瞬のうちに数十発の打撃が飛んでくるのだ。
流石の斑尾も十数発は体に直撃した。
あまりの速さに筋肉の鎧を構える隙さえも見つけることができなかった。
左腕と左足の指の骨が折れ、内蔵にも僅かに衝撃が及んだ。
顎の骨もヒビが入り、口から砂利の混じった血が流れ落ちた。
「朔間斑尾!!貴様を鬼にはしない!!今俺の手で殺してやる!!」
猗窩座はとどめを刺そうと構えるが、頭に血が登りすぎて破壊殺・羅針が意味をなさなくなっていた。
つまりこの時受ける攻撃は、完全に猗窩座の意識の外である。
ガシッ!!
「なっ…!!」
猗窩座が気が付いた時にはもう遅い。
斑尾は猗窩座の左足首を握りしめていた。
猗窩座が右の足で斑尾の腕を踏み潰そうとしたが、猗窩座が足を動かすより前に、斑尾の常軌を逸した握力によって猗窩座の左足首の骨は粉々に砕け散った。
「ッ……ガアァァァァァァァァ!!!!」
「痛てぇだろぉ?鬼でも痛てぇもんは痛てぇよなぁ!?だがてめぇが今まで罪なき人々に与えた苦痛はこんなもんじゃねぇぞぉぉぉぉぉ!!」
斑尾の凄まじい雄叫びは猗窩座の鼓膜をぶち抜き、そして折れていない右腕で猗窩座の足を握りしめたまま、まるで鞭を振るうように、あらゆる角度で何度も地面に叩きつけた。
斑尾は完全に頭に血が上って、鬼の首を切るという本来の目的さえ忘れかけていた。
あまりの腕力で振り回されたために、凄まじい遠心力によってついには猗窩座の足首が引きちぎれ、そのままの勢いで遥か彼方へと飛んでいってしまった。
結局首を切ることはできなかったが、たとえ首に手刀を放ったとて、今の斑尾では猗窩座の首を切ることはできなかっただろう。
そうなれば斑尾はこんどこそ殺されていたはずだ。
結果論だが、これが正しい行動だったのだろう。
「はぁぁぁ……はぁぁぁぁ……朔間斑尾……!奴は人間じゃ無い……鬼を殺すために生まれた怪物だ……!だが奴は未熟だ……次は確実に奴の顔面を叩き潰してやる!」
鬼である猗窩座はちぎれた足も直ぐに元通りに治った。
対する斑尾は骨折こそしたが見た目では青痣が目立つ程度、実際内蔵はほとんど損傷しておらずシャルロットの光の呼吸のおかげで、案の定翌日には戦場に復帰していた。
しばらくして、明日香が上弦の弍である童磨を単身討伐したという報告を聞いて、彼女の同期でありながら上弦の参を倒せなかった自分の不甲斐なさに
大正コソコソ噂話
朔間斑尾の父親も、彼に負けず劣らずのトンデモパワーの持ち主だったそう。
息子が育つまでの間、退屈しのぎに海の向こうの強い奴らと決闘しているのだとか。
斑尾の父が鬼を知っていたのは、偶然訪れた先で鬼と鬼殺隊に出会ったからだそう。
スカウトを受けた際は「嫁と息子を置いて危険な場所へは行けない」と断ったそう。
どこぞの兄上にも見習ってほしいものです。