明日香達の運命や如何に。
「あ、あの目は。上弦の参…!」
無限列車での魘夢との死闘。
柱である杏寿郎やそれに匹敵する実力を持つ明日香はまだ少しの余力を残しているが、魘夢と直接戦ったシャルや乗客達を守り続けていた炭治郎達はそれなりに体力を消耗している。
そうでなくても上弦の鬼は本来柱が数人がかりで相手しなければ勝てない相手だ。
しかも相手は上弦の参。
十二鬼月の中でも三番目の実力者。
明日香は階級的には柱と同レベルでも、呼吸が不完全故に他の柱よりは僅かに劣る実力である。
この中でまともに戦えるのは炎柱の煉獄杏寿郎だけと言っても過言では無いだろう。
「まずい!来るぞ!」
上弦の鬼の登場に混乱していた炭治郎を狙って、上弦の参が襲いかかってきた。
しかし、その攻撃は間一髪の所で杏寿郎が防いでくれた。
「ほう、今の攻撃を防ぐか。やはりお前は柱だな。一目見ればわかるその闘気。至高の領域に近い実力者だ。俺の名は猗窩座。お前の名は?」
「煉獄杏寿郎だ。」
「杏寿郎か。で、隣にいるお前。お前も相当な実力者だな?杏寿郎以上の闘気を感じる。お前は既に至高の領域に片足を踏み入れているような実力者のようだ。お前の名は何だ?」
「明日香。」
「明日香か。お前達は至高の領域に限りなく近い強者だ。横にいる雑草どもとは違う。だがお前たちでも至高の領域には届かない。それは何故か?お前たちがひ弱な人間だからだ。」
「何が言いたい?」
「簡単な事だ。俺からお前たちに素晴らしい提案をしよう。お前達も鬼にならないか?」
「俺は鬼にはならない。」
「私も断る。」
「そうか。鬼にならないのなら殺す。」
術式展開 破壊殺・羅針
猗窩座の血鬼術、破壊殺はただでさえ高い身体能力を持つ鬼の肉体をさらに強化する単純だが恐ろしい血鬼術だ。
その中でも羅針は一定範囲内に侵入した相手の闘気を感知する能力がある。
猗窩座は続け様に技を繰り出してきた。
破壊殺・空式
虚空を力強く打つ事で衝撃波を発生させる中距離攻撃。
並の剣士では防ぐ事も難しい。
杏寿郎は自分に飛んできた衝撃波を刀で防いだ。
しかし明日香には、何故か一発も攻撃が来なかった。
「猗窩座って言ったっけ?何故私には攻撃しなかった。」
「俺は女は殺さない主義だ。」
「ほう、そうか。女だからって舐めてるわけだ。武人気取りな上に馴れ馴れしく話しかけて鬼に勧誘などふざけたヤツだと思ったがここまで腹の立つヤツだとはな。」
風の呼吸 壱ノ型 塵旋風・削ぎ
明日香は地面を抉りながら全速力で突き進み、猗窩座の首目掛けて刀を振るう。
しかし、刀が首に到達することはなく腕で防がれてしまう。
「素晴らしい身体能力だが、技の完成度が伴っていないようだな。だがそれも鬼になれば長い時間をかけて鍛え続けることができる!鬼になれ明日香!」
「何度言っても私の考えは変わらない。私は鬼になるつもりは無い。私には病弱な母を守るという大事な役目がある。だから鬼になるつもりも無いし、お前に殺されるつもりも無い。」
「っ!!病弱な…母を…守る……。」
猗窩座の動きが一瞬鈍った。
炎の呼吸 伍ノ型 炎虎
その一瞬の隙を狙った杏寿郎が技を繰り出した。
しかし。
「流石だな杏寿郎。だがお前たちでは俺には勝てない!どれだけ戦ってもお前たちでは俺の首を切れない!諦めて鬼になると言え!」
「人という生き物は、老いるからこそ、死ぬからこそ堪らなく愛おしく尊いのだ。俺は如何なる理由があろうとも鬼にならない!」
戦いは続いた。
鬼である猗窩座は首を切られなければ決して死ぬことは無い。
対する明日香と杏寿郎は次第に猗窩座の動きに対応しきれず傷を負いはじめた。
「うぐッッ!!」
「明日香さん!!」
「アスカ!!」
猗窩座の攻撃を受けた明日香は地面に叩きつけられ、当たりどころが悪かった左足の骨が折れてしまった。
「まずい!煉獄さんが一人になってしまった!このままじゃやられてしまう!」
「杏寿郎!片目も肺も潰れているぞ!このままでは死んでしまう!だが鬼になればその怪我は治る!!鬼になると言え!!杏寿郎!!」
「俺は鬼にはならない!!俺は俺の責務を全うする!!ここにいるものは、だれも死なせない!!」
杏寿郎は両手で握った剣を肩に乗せ、力をためてから後ろ手にし構える。
そして溜め込んだ力で強く踏み込み突進した。
炎龍を彷彿とさせるほどの迫力だ。
炎の呼吸 奥義 玖ノ型 煉獄
対する猗窩座も強力な技を繰り出すために構えていた。
破壊殺・滅式
凄まじい威力の技がぶつかり合い、凄まじい轟音が鳴り響く。
土煙が上がり徐々に二人の様子が見えるようになってきた。
その光景を見て、明日香達は青ざめた。
猗窩座の拳は、杏寿郎の腹を貫いていた。
「杏寿郎。まだ間に合う。腹に穴が空いても鬼になればすぐに元通りになる。だから鬼に………ッ!!」
杏寿郎に鬼になれと提案しようとした猗窩座だったが、ふと周りを見て異変に気がついた。
空が明るいのだ。
そう、明日香と杏寿郎の二人を相手に手を抜いてしまったがために、夜明け寸前まで粘られてしまったのだ。
「まずい!このままでは陽の光で死ぬ!」
「うっ…うおぉぉぉぉっっ…!!」
「なっ!離せ杏寿郎!」
杏寿郎は全身の筋肉を使って猗窩座を掴み、夜明けまで足止めしようとした。
「ぐぉぉぉぉぁぁぁぁ!!!!」
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
夜明けまであと少し、もう少しだけ足止め出来れば陽の光で猗窩座を焼き殺せる。
だが。
ブチッ
猗窩座はトカゲがしっぽを切るように腕を切り離し、森の中へと逃げ去って行ってしまった。
炭治郎が自身の日輪刀を投げて追撃したが、結局猗窩座には逃げられてしまった。
杏寿郎は自身の死期を悟り、最後に炭治郎へ言葉を残そうとする。
だが、その前に杏寿郎の元へやってきた人物がいた。
シャルだ。
「レンゴクさん!諦めちゃダメだよ!さっきここにいる人は誰も死なせないって言ってた!レンゴクさんも生き残るんだよ!」
シャルは光の呼吸で光を作り出した。
シャルが生み出す光には人の怪我を治す力がある。
目と肺が潰れ腹に穴が空いた杏寿郎は、普通の方法では絶対に治すことはできないだろう。
だが、シャルの光なら可能性はゼロではない。
シャルは懸命に治療した。
その延命処置のお陰で、煉獄杏寿郎は命を落とすことは無かった。
とはいえ彼女の光にも失った物を元に戻す力は無く、潰れた目はそのまま失われ、内蔵にも重い後遺症は残ってしまった。
死を免れることは出来たが、もはや柱として戦う事はできない体になってしまった。
杏寿郎の体の状態を聞いた柱達や隊員は、生き残った事に安堵した反面、頼れる仲間が一人減ってしまったという事実を悲しんだ。
「レンゴクさんはとりあえず助かるだろうけど、この様子だともう戦う事はできないと思う。」
「私がもっと強ければ猗窩座を夜明けまで留めておけたかもしれない。」
「俺たちは煉獄さんを助けるどころか、見ている事しか出来なかった。必死に強くなっても、まだ全然力が足りない。もっと頑張らないと。」
明日香達は決意を新たに、再び鍛錬に励み今度こそ勝利してみせると胸に誓った。
煉獄さんを生き残らせたい反面、都合よく五体満足で復活してそのまま戦力になるのも違うなと思い、とりあえず生き残ったけど柱は引退という結果にしました。
次回は無限列車と遊郭の間の修行期間になる予定です。