遊郭潜入
明日香は困惑していた。
柱である明日香を引き連れて、一体どんな危険な任務へ向かうのかと思っていたら、遊郭で嫁を探せと言われたのだ。
「状況を……説明してもらいたい……。任務と聞いて来たんですが…遊郭で嫁探し……?私も暇じゃ無いんですが……。」
「まぁ話は最後まで聞け。俺には三人の嫁がいる。俺の嫁が遊郭に潜む鬼について調査をしていたんだが、つい最近連絡が途絶えた。お前達には遊郭に潜入して俺の嫁達を探してほしい。」
「となると…まさか私も遊女に?!だとしたら流石に帰るぞ私は!」
夜は物静かな明日香が珍しく焦っている。
顔も赤くしているようだが何を想像したのだろうか。
「落ち着け。直接潜入するのはこっちの三人だ。お前は俺と一緒に別方面から調査をする。」
「あ、そう…。なら構わないんだけど…。」
ほっと胸を撫で下ろす。
「お前、勘が鋭いらしいな。俺はこの遊郭の住人から情報を引き出す。お前は怪しい動きをするやつが居ないか周囲を警戒してろ。夜に賑わうこの街は鬼にとって都合のいい場所だ。いつ姿を現してもおかしくない。」
「それは私も理解しているつもりです。」
「よし、早速調査を始めるぞ。」
炭治郎、善逸、伊之助の三人は遊郭に直接潜入し、宇髄は忍としての隠密技術を駆使して怪しい人物から情報を引き出そうとしていた。
そして明日香は常に周囲を警戒しながら、ひたすら夜の街を歩き続けていた。
しかし、宇髄の嫁達は一向に見つかることは無かった。
そんな中遊郭潜入から数日後の夜、明日香はそれまでと同じく夜道を歩きながら周囲の気配を探っていた。
(鬼の気配は感じない…でも鬼がいないとも考えにくい…相当隠れるのが上手い鬼なのだろうか…。そういえば、善逸くんが潜入してる店はこの辺りだったか…)
「っ!」
(何だ!?今の感覚は…鬼!?何処だ!)
屋根の上に飛び乗り周囲を見渡すが。
「鬼らしき人物はいない……か……。」
結局その気配がどこから感じ取った物なのかは分からなかった。
心做しか、屋根に上がってから気配が遠くなったようにも感じたが、今はもうその違和感を確かめる事もできない。
完全に鬼の気配を見失ってしまった。
「クソッ…見失ったか…。」
モヤモヤするが見失ってしまったからにはもう一度探すしか無い。
結局その夜、再び鬼の気配を感じる事は無かった。
そして翌朝、一度遊郭を出て報告をするために炭治郎達が集まっていた。
「おや、炭治郎くん達は先に集まっていたのか。善逸くんは来ていないようだけど?」
「はい。伊之助は潜入中に鬼の気配を感じたらしいんですけど、宇髄さんの奥さんは見つけられなくて。」
「そういえば、昨日の夜善逸くんの潜入先の近くで鬼の気配を感じたが……まさか!」
「善逸が…鬼に襲われた……!」
「アイツが来ねぇって事はアイツ鬼にやられたのか!」
「クソッ!私が気配を見逃していなければ助けられたかもしれないのに!善逸くんがそうあっさりやられるとは思えないが現に今善逸くんは行方が分からない…。もしかすると相手は十二鬼月かもしれない…。」
「十二鬼月…!?」
「おいお前ら。」
「うわ!宇髄さんいつの間に!?」
「すまない、俺は相手の実力を見誤っていたらしい。お前達では厳しい相手かもしれない。いいか?逃げることは恥じゃない。生き残ったやつが勝者だ。だから後は俺たち柱に任せて、お前達は帰るんだ。」
「俺たちも戦います!命を落とすかもしれないとしても、まだ生きているかもしれない仲間を置いて帰る訳には行きません!それに、俺達も鬼と戦うために必死に鍛えてきた鬼殺隊の剣士です!俺たちにも戦わせてください!」
「いや、そうは言ってもだね。」
「わかった。」
「え!?宇髄さん!?」
「だが今回の相手は相当強い。お前達を庇ってやれる保証はないぞ。それだけは心得ておけ。」
「はい!」
「不安だ…。万が一相手が十二鬼月の上弦だったら勝てる確率はかなり低いだろうに…。でも宇髄さんがそう言うなら私は文句は言わないよ。実際、炭治郎くん達は強いし、善逸くんが死んだと決まった訳では無い。相手が危険だとわかったからには、より一層気を引き締めて行かなくてはね。」
そしてその夜、明日香は宇髄と共に鬼を探していた。
(この気配、あの時の気配だ!こんな人気の無い所でも……一体どこから…まさか、下から!?)
ドゴォ
「爆音!という事は宇髄さんの音の呼吸!向こうの方だ!」
音の聞こえた方角へ走り出した明日香、しかしその途中で。
ゴォォォ
「今度は何だ!炎……それに建物が崩れる音も……炭治郎くんが潜入していたのもあっちの方角だ!まさか鬼に遭遇したのか!?」
宇髄の元へ向かうべきか、炭治郎の元へ向かうべきか。
明日香は二択を迫られていた。
(炭治郎くんのいる方向はまず間違いなく鬼がいる。相手が十二鬼月だとしたら炭治郎くん一人では分が悪い。しかし宇髄さんが鬼と戦っているのだとしたらあれだけの攻撃を受け続けているのだからそれこそ上弦の鬼の可能性もある。どちらに向かうべきか……。)
明日香はどちらに向かうべきか迷っているが、現状応援に向かうべきは明らかに炭治郎のいる方向だ。
彼女は知らない事だが、宇髄は鬼との戦闘で爆破を使用したのではなく、地面の下に鬼がいる事を確信したために穴を掘っているのだ。
対する炭治郎は今現在鬼に襲われ、妹の禰豆子が鬼と戦闘を行っているのだ。
(く…ここは宇髄さんの実力を信じて炭治郎くんを助けに行こう。)
少し時間がかかってしまったが明日香はようやく決心した。
炭治郎の元へ向かう。
独特な色の炎と建物が崩れる音を頼りに炭治郎の元へ向かった明日香。
そこで目にしたものは。
「炭治郎くんが禰豆子ちゃんを押さえ込んでいる…?まさか禰豆子ちゃんが暴走をしたのか?いや、もう一人鬼の気配を感じる。あれは……上弦の陸!」
禰豆子を抑え込む炭治郎と火傷を負った上弦の鬼。
状況は掴めないがとにかく明日香がやるべき事は一つ。
「炭治郎くん!禰豆子ちゃんは君に任せて問題無いよね!?上弦の鬼は私が相手する!禰豆子ちゃんを人喰い鬼にしてはダメだよ!」
「はい…!」
「まだ鬼狩りがいたの?何人いたって同じ事よ。どの道アタシには勝てない……」
月の呼吸 壱ノ型
(……え?何が起きたの?首を切られた?私が?)
「す、凄い!上弦の鬼をあんなにあっさりと倒すなんて!」
「炭治郎くん油断しないで。こいつ上弦の鬼にしては弱すぎる。恐らく本物の上弦の鬼は別に存在する。」
「そんな…あれでも上弦の鬼にしては弱すぎるなんて…。」
「わぁーーん!首切られたぁーー!お兄ちゃーーん!」
「お兄ちゃん?」
グググッ
「な、何だ!体から何かが…まさか!」
「お兄ちゃん!あいつら寄って集ってアタシをいじめるの!」
「そりゃあひでぇなぁ。許せねぇよなぁ。そんなヤツらは俺が全員殺してやるからなぁ。」
「こいつも上弦の陸…二人一組って所か。」
「大丈夫か月宮!」
「宇髄さん!奴らは上弦の陸です!二人合わせて一体の鬼、恐らく両方の首を切らない限り倒せません!」
「上弦の鬼二体の首を同時に…!?」
「でも妹の方は大したつよさではありません!警戒すべきは兄の方…」
「いつまでもぺらぺらしゃべってんなよなぁ!」
「くっ!」
音の呼吸 壱ノ型 轟
音の呼吸の爆発によって床が抜け、妓夫太郎と堕姫は宇髄達と共に下の階に落ちた。
血鬼術 飛び血鎌
「血の斬撃!?食らったまずい!」
月の呼吸 弍ノ型
花の呼吸から着想を得た明日香独自の技。
足元以外の全方位に高速で斬撃を繰り出す攻防一体の技だ。
(妹の方はともかく兄の方はそれなりに強い…二人同時に相手するのは時間がかかる…。どちらか片方を遠ざけるべきか…。よし、やるぞ!)
月の呼吸 即興ノ型
以外、それはただの蹴り。
「ぐあぁぁぁぁぁぁ………………」
「宇髄さん!炭治郎くん!妹の方は私が足止めし続けます!兄の方は任せます!」
「お、おう!」
(あいつ上弦の鬼をド派手に蹴り飛ばしやがった……バケモンかよ……。)
「宇髄さん達、勝ってくださいね。さあ、あなたの相手は私よ。何度でも首を切り落としてやるから覚悟して。」
「もう簡単には着られないわ!お兄ちゃんの目があればアンタの攻撃なんて簡単に見切れるんだから!」
「そう、ならもっと早く動くだけだ。」
「はあ?」
月の呼吸 参ノ型
風の呼吸と雷の呼吸から着想を得た技。
強い踏み込みから高速で接近し、暴風を伴う四発の斬撃を繰り出す。
「私の使う型の中では二番目に早い技。あなたのお兄ちゃんの目でも見切れなかったみたいだけど?」
「あぁぁぁまた首切られたぁぁぁ!しかも切られたとこ全然治んない!」
「私の赤くなった日輪刀で切られた鬼は回復が遅れる。今あなたのお兄ちゃんの首が切られたらその時点でお終いって事。」
「そんなのズルい!傷治んないなんておかしいじゃん!ズルい!」
「はぁ…あなたがそれ言うかね?」
「お前さっきはよくも蹴り飛ばしやがったなぁ!」
「もう戻ってきたのか!?宇髄さん達はどうした?!」
「お前が俺の妹をいじめてる間にあいつら全員殺してやった。あの柱は片手を切り落としてやった。猪のヤツも俺の鎌の毒でもうすぐ死ぬだろうなぁ。黄色いヤツは瓦礫に潰された。ほっとけばそのうち死ぬ。あとはお前と痣のあるガキだけだ!」
「そうか…。」
月の呼吸 拾ノ型
闇に溶け込むように敵の前から姿を消し突然現れ肉体を貫き刃を引っ掛けて抑え込む。
この技は味方が鬼の首を切りやすいように抑え込む技だ。
この技を繰り出したという事が何を意味するか。
「戦いでは相手が死んだ事を確認しないとダメだ。次からは気をつけるんだな。次があればの話だけど。」
「なんだと!?」
「「うおぉぉぉぉぉ!!」」
そう、宇髄達は生きていた。
そして妓夫太郎を追ってきていたのだ。
(クソッ!腕ごと抑え込まれて攻撃を防げねぇ!何なんだよコイツの力!細いクセに俺より力が強いじゃねぇか!ふざけんなよなぁ!!)
「うおぉぉぉぉ!!」
「ぐおぉぉぁぁ!!」
スパッ
妓夫太郎の首が切れた。
それとほぼ同時に堕姫の首も伊之助と善逸によって切られた。
「終わった……勝ったのか……?」
「まだだ!まだ終わっていない!走れ!!」
「血が……まさか!!」
妓夫太郎の最後の抵抗と言わんばかりの血鎌攻撃によって炭治郎達は毒を浴びた。
「くっ、私だけは何とか防ぎきれたけど炭治郎くん達は毒にやられてしまった…。」
「むう。」
「ん?禰豆子ちゃん?どうしたの?」
ボウッ
「この炎、やっぱりあの時見えた炎は禰豆子ちゃんの血鬼術だったのか。その炎をどうするの?」
禰豆子が伊之助を炎で焼いた。
「ちょ!何してんの!?」
しかし暑そうにしている様子は無く、むしろ毒が抜けて動けるようになった。
「伊之助くんを解毒した…血鬼術を打ち消す血鬼術って事なのか…?」
「むう?」
「ああ。私は毒を受けてないから宇髄さんを治してあげて。」
「むう!」
その後、宇髄は片腕と片目を失った物の一命は取り留めた。
増援に来た蛇柱伊黒小芭内からネチネチと文句を言われながらも、これ以上鬼殺隊として戦うこともできないと判断し引退を決意した。
何はともあれ今回も鬼殺隊から犠牲者が出る事は無かった。
「しかし、少し無理に刀を振りすぎたかなぁ。刃こぼれが酷いな。これは刀を新調するべきかもしれないな。」
二回目の作り直しになるだろうか。
柱就任に合わせて新しい日輪刀を打ってもらう予定だったので丁度いい。
任務を終えた明日香は、刀鍛冶の里へ向かうのだった。
大正コソコソ噂話
今回明日香が妓夫太郎を蹴り飛ばしたシーンがあったけど、明日香の身体能力がどれぐらい高いかと言うと。
柱全員の中での足の速さは宇髄さんを大きく離して断トツ一位。
腕相撲でも悲鳴嶼さんをおさえて一位でした。
つまり妓夫太郎は悲鳴嶼さん以上のパワーと宇髄さん以上のスピードで蹴られたわけです。
ものすごく痛そう。
多分骨バキバキになってる。
次回 刀鍛冶の里編
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