魔を従える者たちの狂騒曲   作:狗狼

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 〈デビルリユニオン〉実装時のことを思い出しながら書きました。

登場悪魔:未熟なロキ、ロキ


リユニオン

「なァ、クロ。〈デビルリユニオン〉とかゆーのはしないのか?」

 

 唐突におチビちゃんが口にした。

 おチビちゃんとは、ボクが契約している〈未熟なロキ〉のことだ。

 ロキといえば巨人族に出自を持ち、本来は二メートルを超える体躯なのだが、〈未熟なロキ〉は未熟というだけあって、一七八センチのボクよりも身長が低い。その身長はせいぜい一七〇センチあるかないかといったところだろうか。

 未熟とはいえども、曲がりなりにも魔王という高位種族である。少々小柄ではあるが、筋肉質で均整の取れた身体つきをしている。

 その、うちのおチビちゃんがボクのベッドに寝そべって枕を抱えながら聞いてきた。

「んん~、なんでぇ?」

 とうとう来たか。そうは思いつつも、努めて無関心を装うボク。ホントは興味がないワケじゃない。

 ボクはスチール製の簡素なスツールに腰を下ろし、空中結像ディスプレイにホロタッチパネルも仕込まれているPCに触れていた。悪魔の召喚使役に特化した〈COMP(コンプ)〉は、容量がそれほど大きくない。スパコンなどの大型コンピュータに接続し、操作端末やディスプレイ代わりとすることは可能だが、基本的に大容量のデータを扱う場合には、こういったPCが必要となる。

「ソレやったら、強くなれるンだろ?」

 おチビちゃんがベッドの上で足をばたつかせながら、瞳を輝かせてボクの顔を覗き込んできた。

 知ってる。そう思っても素直には答えない。

 ヤだなぁ。仮にも“魔王種”の癖に、なんでこう汚れを知らない子供みたいなキラキラした瞳をしてるんだか。

 おチビちゃんの性格はご覧の通り、本来のロキに比べるとだいぶん幼い。

 人間が使役出来る高位悪魔というものは〈アツィルト界〉に存在する本体から分離した〈分霊(わけみたま)〉にすぎない。故に本体ほどの力は持たないし、本来とは違った個性を持つ亜種というものが生まれてしまう場合がある。それはデータをコピーするときに、バグやエラーが発生するのとよく似ている。

 〈未熟なロキ〉にはロキという悪魔の幼児性が詰め込まれているのだろう。と、ボクは分析していた。こんな情報は本人にとって至極不本意だろうから、伝えてはいないけれども。

「ん~? そうみたいだねぇ」

 そんなこんなで適当にはぐらかすと、おチビちゃんは不貞腐れて頬を膨らませた。

「そうみたいだねぇ、じゃねェよ! だったらナンでしないンだよ?」

 ボクの中の仲魔を強くしたいという想いは誰より強い。そう云って良いと思う。

 自分のパートナーと定めた、ただ一柱の仲魔に多大な愛情を注ぐ〈DB(デビルバスター)〉は多いだろう。

 しかしボクのパートナーは一柱ではない。一応、もう一柱のロキ――魔王サマはどこにでも連れて行けることを目指して汎用的なスキルを詰め込んだ積もりだ。

 一介の〈サマナー〉としてのボクは、臨機応変に仲魔を使い分けることを目標としている。氷結魔法の得意な者には氷結魔法、火炎魔法の得意な者には火炎魔法をといった具合に。同じロキでも魔王サマは火炎と氷結の得意なオールラウンダーで、おチビちゃんは氷結と電撃を主体とした魔法タイプに育成している。大きな翼を持つバジリスクのこけこには石化の他に衝撃系スキルを持たせているし、マカミンなどは〈永眠の誘い〉特化型という特殊タイプだ。

 要は、なんでもかんでも〈メギドラオン〉で片を付けるのは美しくないということだ。まあ、これはボクの美学の問題だから、決して他者に同意を求める積もりはない。

 総ての仲魔に均等な愛情を注ぐことは出来ないけれども、どの子もとても大切なパートナーだ。その中で誰かひとりを選んで〈デビルリユニオン〉させることを、ボクはいまだ迷っていた。

『キミは充分強いじゃないか』

 そう、云ってはやりたいのだが、ボクの仲魔で本当に強いのは、魔王サマくらいだ。魔王サマは〈デビルリユニオン〉なんて必要がないくらいに強い。だが、おチビちゃんは未熟というだけあって弱いのだ。嘘と解る嘘を口には出来ない。

「……まだ、〈リユニオン〉の全貌は解っていないんだ。ボクはキミを邪教のオヤジの実験に付き合わせる気なんて更々ないよ」

 言葉を選んで伝える。これも本心。

 しかし、どんなに〈デビルリユニオン〉を繰り返したとしても、おチビちゃんは元々憶えるとされているスキル以外を憶えることは出来ない。出来ないからこそほんの少しでも強くしてやりたい。そう思う気持ちもある。そうは思えども、おチビちゃんを〈リユニオン〉させるにはボクの技量が足りなすぎるのだ。

 ボクのように〈融合師〉でもある中途半端な〈サマナー〉は、始めっから強力なスキルを継承させた仲魔の力を借りて漸く半人前だ。

 生まれ持ったスキルだけで生き抜いて行かねばならないおチビちゃんを、いったい何処へ連れて行けばいいのか、正直な処解らない。一緒に組んで任務をこなす仲間にも多大な迷惑が掛かるであろうということも解っている。

 正直な話をすれば、ボクは他人に比べて秀でたなにかを持っている訳ではないのである。

 自分が闘うタイプの〈DB〉と比べれば、強い仲魔を連れているという自負はあれども、戦闘は仲魔の力を借りて漸く半人前。

 ボク本人はそこらの仲魔よりは強力な癒しの魔法を使えもするが、本職の〈ヒーラー〉に比べれば遠く及ばない。〈融合師〉として〈COMP〉が弾き出す確率よりは良い結果を出しはするが、それもまた本職ではない。

 仲魔を扱うことに掛けても、決して長けているとは云い難いだろう。なにせ、最強の仲魔である魔王サマには、いまだに信頼されているとは思えない状態だ。まぁ、たかが人間などに心を赦すような“魔王種”にあふれ返って欲しくもないという想いもあるから、これは別に良いのだけれども。

 そんなふうにして顔には出さずに葛藤するボクの耳が、おチビちゃんの小さな声を聞き取った。

「オレは……もっともっと、強くなりたい」

 あ、やっぱそうきた……。

「連れてけよ、ドコにだって! オレの居場所はオマエのトコだけなンだから」

 魔王サマと違って弱い自分を自覚し、そこにコンプレックスを持っているおチビちゃんに、ボクは滅法弱いのだ。

「〈リユニオン〉するってことは、霊格が一度どん底まで落ちるってことだよ? それでもいいのかい?」

 ボクの言葉におチビちゃんの眉がぴくりと跳ねる。しばしの間をおいて、唇を震わせながら開く。

「いまより、もっと強くなるためだろ……。それにどん底なら這い上がるだけだ」

 魔王サマだったら、自分が弱くなることなんて絶対に拒否するだろう。

「オレは……他のヤツみたいにクロにとって扱いやすい技なンて持ってねェ……。クロを護るための力も、ねェ」

 握られた拳が震えている。言葉は静かに紡がれているが、その胸の内にあるのは〈未熟神〉として顕現せざるを得なかった自分自身に対する憤りだろうか。

 つい最近の技術で、〈未熟な悪魔〉を合体で顕現させることが出来るようになった。〈デビルリユニオン〉の技と合わせれば、それは多くの〈DB〉にとって有益なことだ。理論的には悪魔を幾らでも強くすることが出来る〈デビルリユニオン〉。成長スピードの速い〈未熟な悪魔〉にスキルを詰め込むことが出来る〈未熟な悪魔〉の三心合体レシピ。このふたつの技術を合わせれば、強力なスキルを詰め込んだ〈未熟な悪魔〉を顕現させることが可能なのだ。

 最近では未熟であることよりも成長が早いことを重視してなんでもかんでも〈未熟な悪魔〉へと変える〈DB〉もいる。

 人間ってのは阿漕で、より便利なほう、より楽なほうへと流れる生き物であるから致し方なし、とは思う。しかし、ボクは未熟であることにコンプレックスを持つおチビちゃんを知っているから、いまのところ他の未熟悪魔を仲魔にしようとは考えてもいない。いまは無理だけれども、もし、“未熟なロキ”を悪魔合体で産み出せるようになったとしても、おチビちゃんを合体素材にして再構築し、強力な技を憶えさせることはしないだろう。

「新しい力を持つコトが不可能だってンなら、せめて強くなりてェ……」

 振り絞るような声。

「……解った」

 ボクの言葉におチビちゃんが顔を上げ、目を瞠る。

「ただ、いますぐにというワケじゃない。云ったろ? “邪教のオヤジの実験に付き合わせる気はない”って。だから色々と考える時間が欲しい」

「あァ。いつもいつも我儘ばっかり云ってるな、オレは」

「自覚があるんだったらちょっとは遠慮してくれると嬉しいんだけどねぇ?」

 困ったようなおチビちゃんがおかしくて、ボクは笑いを堪えられずに吹き出した。そして、おチビちゃんは「ナンで笑うンだ!」とぷりぷり怒りながらも大人しく還っていったのだ。

 

 

 

 さぁて、ああは云ったもののどうしたものか。

 悩みながらもおチビちゃんを送還したばかりの〈COMP〉に触れ、別の仲魔を喚び出す。淡い光に包まれて目の前に召喚されしは、おチビちゃんと同じ姿形を持つ――しかしながら漂わせる雰囲気の全く異なる、黄昏の魔王。ボクが従える、もう一柱のロキ。

「お呼びか、主サマ」

 不貞不貞しく、それだけ。横柄な態度を隠しもしない。

「ほゥ、珍しいな。喚ばれた先が血腥い戦場じゃねェってのは。伽の相手でも御所望か? ならば絶世の美女にでも変じてやろうじゃないか、主サマ」

 ちらりと辺りを一瞥し、ここがボクの部屋であることを確認すると、魔王はくつりと喉を鳴らす。ロキと云えば神話の中では様々な姿に身を変じ、子を産んだこともある神だ。出来なくはないのだろうが、別にそんなことのために喚んだ訳じゃない。

「煩い、黙れ。許可も与えてないのに下僕が偉そうな口を利くな。ボクが契約を破棄するか、死なない限り、お前はボクの下僕だろう。そして、契約ある限りお前にはボクが殺せない」

 相も変わらずの反抗的な態度。反論を赦さぬように矢継ぎ早に先手を取る。

「小賢しい人間め。用はナンだ」

 ちっと舌打ちし、睨め付ける仕種が板についている。こういう姿を見ると逆に愉しくなってもしまう自分がいる。

「光栄だね。……お前は、さらなる強さを望むか?」

 ボクの言葉に魔王の流麗なラインを描く太い眉が跳ねる。おチビちゃんと同じ顔で在りながら、そこに浮かぶ表情は随分と違う。

 そして、唐突に愉しげに揺らされる肩。

「ソレは、オレたち悪魔がオマエら人間に向けて云う台詞だろう? “汝は力を欲するか、さすれば与えてやらん。なんなりと望みを云うが良い”、とな」

 普段の皮肉げな物云いとは違い、(おごそ)かな声音で芝居掛かったように振る舞う。その台詞に逆にボクから笑いが込み上げる。思わずおかしさに肩を竦めてしまう。

「こんな脆弱なボクに、いまさら力を与えてどうするって云うのさ? それよりいまよりもっと強い力が欲しくはないのか、魔王ロキ?」

「はン、オレがどんな力を手に入れようが、オマエはオレを手放す気などないのだろう? だったら、決めるのはオレじゃねェな。オマエの好きにするがイイ」

「ボクは、お前の意思が知りたいんだけれどねぇ……」

 契約を盾に仲魔を良いように扱うのはボクの本意ではない。それに気付いているのかいないのか。出来れば仲魔に信頼されていたいのだが、この魔王相手にはまだまだ足りないらしい。

「ならば、用もないのに喚び出されたンだ。たまにはその“代償”ってヤツでも戴いてやろう」

 ごつく太い指先がボクに向かって伸びてくる。

「下僕の癖に随分と横柄だな……。それと、話に脈絡がない」

 魔王を召喚使役するのに充分な〈生体マグネタイト〉くらい、常に用意してある。決してそれが足りていない訳ではないにも拘らず、この魔王はボクから直接〈生体マグネタイト〉を搾り取ることを好むのだ。流石に他者のいる前ですることはないが、それはすでに“いつものこと”になりつつあった。その手を払い退けたとしても無駄だと解っているからしない。

「だが、必要なのだろう? オマエにはオレが」

 最初に服を破くなと云いつけたお陰で、無骨な指先が驚くほど器用にタイを外し、ボクの上衣のボタンを外してゆく。

「あぁ、そうさ。だから、欲しいのならくれてやる。……その代わり、しっかり働けよ、魔王サマ」

 丁寧に衣服を剥ぎ取りながら、魔王の指先が素肌を撫ぜてゆく。初めてではない記憶を呼び起こされ、心臓が跳ねるのが解る。それを魔王に気取られたくなくて、ひっそりと息を吐きだした。

「相変わらず、肉のない身体だな」

「肉の付いた女が好みなら……」

 他で女を抱いてこい。ただしトラブルは起こすな。その言葉を飲み込んだ。ロキという存在に自由を与えて、トラブルを起こさない訳がない。

「イイのか?」

 続く言葉を察したのであろう魔王が、くっと喉を鳴らして愉しげに見下ろしているのが目に入った。

「良くない。……お前に自由なんかやらない。お前はボクのモノだからな」

 胸を撫ぜていた五指が、心臓の上で止まる。肋の上から心臓を掴むような位置に突き立てられた指先。それが肉を突き破ることはないが、ひんやりとした感覚のあとには総てを吸い上げられるような戦慄が走る。

「くッ……〈生体MAG〉を吸うだけ、ならッ……いちいちひん剥かなくても、良いと思うんだけどねッ……」

 それはボクが彼に持たせた“デスタッチ”の力。ロキの特徴のひとつである“魔力の奔流”を活かすために与えた技が、まさかこうして自分相手に使われることになるとは、思いも選らなかった。

「直に触れたほうが反応が面白ェからな」

「…………ッ……」

 命まで奪われることはないと頭では理解していても、身体は拒絶を示す。やすやすと自分を組み敷く魔王の腕に、細やかな抵抗とばかりに爪を立てるが、強靱な肉体にはボクの力では爪跡が残ることすらない。それどころか抵抗を示せば、この魔王を喜ばせるだけだと解っている。解ってはいるが、苦痛から逃げようと自然に動く身体を抑えつけられるほど、ボクの意志は強くない。

「もっとイイ声で啼けよ、主サマ」

 耳元に顔を寄せた魔王がわざとらしいまでに、腰が砕けるような甘い声で囁く。神代には北欧の女神の殆どと閨を共にしたとも云われる美丈夫だ。自分が女性だったらと思うと少し怖い部分もある。

「馬っ鹿やろ……そう云う台詞は、女相手に云うもんだろ……ッ」

 思わず悲鳴をあげそうになる。そんなものをこの魔王に聞かせたくなくて、視界に入った白いモノ――ロキのマントを思わず口に咥えて歯を喰い縛る。

「……ッ!」

 ボクが唇を噛みしめ、責め苦に耐える様子を見た魔王から、クツクツと愉しげな嗤い声が落ちてくる。その嗤い声を耳にして、せめて声など立てるものかと思いながらも、結局その責苦に耐えきれずに意識を手放した。

 

 

 

 ひんやりとした空気に目が醒める。

 辺りを見回せば部屋の中に魔王の姿はなく、ベッドに仰向けに倒れた自分がいるだけ。〈生体マグネタイト〉を好きなだけ摂取したあと、大人しく帰還したのだろう。ボクは彼に許可無く歩き回る自由を与えてはいない。

 ひん剥かれた膚を撫ぜる夜気の気配に意識が覚醒したのだ。

 ボトム以下に着衣の乱れはないものの、シャツとベストのボタンは総て外され、タイは傍らに投げ出されている。

「強姦された側の気持ちが解るって、すっげぇヤだ……」

 流石に腐っても魔王と云うべきか、〈生体マグネタイト〉を吸われたあとの気怠さは他の悪魔を相手にしたときとは比べものにならない。鏡を見ればひどく顔色が悪いのだろう。解っているから、見もせずに、芋虫のようにもぞもぞと這い回って柔らかな上掛けに潜り込こむ。そのまま緩慢な仕種で服を脱ぎ、そこらに放り投げてボクは再び意識を手放す。

 いまはなにもしたくない。考えたくない。ただ惰眠を貪りたい。悲鳴を上げる身体がそう云っている。

 そうしてボクは、〈デビルリユニオン〉を繰り返し、さらに頼もしくなった仲魔と世界を駆ける夢を見た。

 夢を夢で終わらせたくない。仲魔の新しい可能性に賭けたい。

 それが〈デビルリユニオン〉に踏み切る決め手となった。




 時系列的に少し戻ります。〈デビルリユニオン〉実装時の話です。

 まー、ロキ好きすぎて亜種全部育てましたし、ノーマルロキと未熟なロキはALL8リユニして御魂後ALL8リユ二してLv95以上にしてからサービス終了を迎えた頭の悪い人間ですので。
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