デート・ア・ライブ ~虹色の明日へ~   作:Kyontyu

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お待たせしました! 第二章です!


二章「イフ・メシレス・ディス・ワールド」

二章「イフ・メシレス・ディス・ワールド」

 

「これでいいんだろ。トウカ」

 シドウは自分の体を見てそう言った。鎧はそれに答えるようにほのかに輝く。

 『バブル』があったところにはもう何も残ってはいなかった。トウカの力でこの世界から別の世界に送ったのだ。元在るべき場所へと。

 確証はないが、本能的に分かった。

 そして鎧が輝き始め、光が消えたと思うと腕の中にはぐっすりと眠るトウカの姿があった。

「今だけは、ぐっすり寝ていてくれ……」

 すっかり空は闇の帷に覆われていた。

 そして顕現装置(リアライザ)を起動させて〈フラクシナス〉へと飛んだ。

 

「『扉』が開かれました〈ル・ロワ〉」

 ガラス張りの屋内庭園の中心。椅子に座ってコーヒーを飲む白髪の男性と眼鏡をかけたブロンドの髪を長く伸ばした女性が立っており、女性がそう言うと男性はカップを側のテーブルに置いた。

「そうか……だが、その〈ル・ロワ〉という名はどうにかならないのか? 一応僕にはウッドマンっていう名前が――」

「――ルールですから」ウッドマンの言葉を遮り、女性がきっぱりと答える。

「……昔みたいに親しくしてもいいだろうに……カレン」

 ウッドマンは再びカップを手にした。

 

「親しく、ですの?」

 

「!」

 ウッドマンが振り向くと、そこには本を一冊抱えた黒いドレスの少女が立っていた。髪を不均等に括り、左目は眼帯で隠されていた。

 少女はゆっくりと歩き始めると、こう言った。

「わたくし『達』とあなた方は、別の生き物なのですよ?」

「君は……何者だ」

 少女は歩みを止め、こちらに微笑みかけた。しかし、その笑みは狩人のような光で満ち溢れていた。

「わたくしの名前はありませんが……あえて言うなら『クルミ』。以後お見知り置きを――そして人型『スピリッター』。あなたと同じですわよ。カレンさん」

 クルミはカレンを見つめるが、カレンは何も反応を示さなかった。

「聞きたいことは山ほどあるが、その抱えている本は何かね?」ウッドマンは微笑みかける。

 クルミは「ああ、これですの」と本を見る。

「これは、記憶。この地球、世界の記憶。『バベルの図書館』から一冊拝借しましたの」

「記憶、か……」

「そうですわ。わたくし『達』は個で全、全で個。そして時空間を自由に動けますの。ですからその力を使って様々な世界、宇宙へと、行きましたわ。そうして出来たのが、『バベルの図書館』」

「では、もう一つ聞こう。何故、我々を攻撃する?」

「長い旅の途中、気づいたのです」

 少女は後ろを向いて、空を見上げた。

「この世界にふさわしいのは『無』であると。でも、わたくしには分からなかった。ゼロに還す方法を。でも、あなた方は知っている。ゼロに還す波、『ゼロ・ウェル』、空間震を起こす方法を」

「……話すと思うかね? それに、今の段階でそんなに喋っていいのかね? まだまだ序盤だろう?」

「直に終わりますわ。では、ごきげんよう」

 そしてクルミの姿はその場に掻き消えるようにして無くなった。

「では、急がねばならんな」

 するとカレンの胸ポケットに入っている携帯端末が鳴り始めた。

「……! 失礼します」

「何か、あったのかね」

 カレンは携帯を胸ポケットにしまい込んだ。

「ええ、実は……」

 

 

 シドウはいつもと同じ時間に起床し、黒い軍服を身に纏い、未だ眠っているトウカを横目にシドウは廊下に出た。

「私達、軍から脱走したから」

 するとそこには赤いジャケットを羽織り、髪をツインテールにしたコトリは壁にもたれかかってたばこをくわえていた。

「軍から脱走、ですか……」

 シドウは思わず唖然とする。

「ええ、そうよ」

「それにここ、禁煙じゃ……」

 すでに廊下には嫌なにおいが充満している。

「オトナはそんな小さい事を気にしないものよ」

「そ、そうですか」

「で、『何故、軍から脱走したか』でしょ?」

「はい」

 コトリは口から煙を吐いた。嫌なにおいがさらにキツくなる。

「それは、『必要』だから、よ」

「必要……?」

「そう。そして『必要』の中にはあなたと、トウカが含まれるわ」

「えっ……」

「これ以上の質問は受け付けないわ。いつでも戦闘できるようにしておきなさい――」

 コトリは艦橋に向かった歩き始める。そして立ち止まってこちらを向く。

「――私たちは、『裏切り者』なんだから」

 コトリは再び前を向いて歩き始めた。

 その『裏切り者』という言葉は、シドウの胸に突き刺さった。

「くっ……」

 シドウは胸を握った。

 

「第九機動隊が脱走……嫌気がさしたのか」

「いえ、第九機動隊にはナンバー・テンが含まれてます」

「何だと……!」

 ウッドマンは立ち上がろうとして崩れ落ちた。

「大丈夫ですか?」

 すぐにカレンがウッドマンを補助する。

「ああ、大丈夫だ――」カレンの手を払って立ち上がる。

「――で、首謀者は誰なのかね」

 カレンはタブレット端末を操作したあと、机の上に置いた。写真には女性が写っている。

「首謀者だと思われるのが、コトリ・ウェストコットです」

「む……本当にこの女性なのかね……健康そうには見えないが……」

 写真の女性は眼の下に物凄い隈が出来ていた。

「ええ。しかし、彼女の親戚と呼べる人物は全てこの世界には存在していません。父親も先週、謎の襲撃に遭い、死亡が確認されました」

 ウッドマンは説明を聞きながら画面をスクロールさせていく。

「ふむ……」

「それに、第九機動隊の所属は全員天宮市出身です。一人を除いて、ですが」

「誰だ、それは?」

「いや、細かい情報はまだ……」

「そうか……」ウッドマンは椅子に座る。

「情報収集を急がせてくれ」

「了解しました」

 カレンを深く礼をしてから屋内庭園を去って行った。

 

 シドウは自室のベッドで仰向けに横たわっているトウカの頭をそっと撫でた。

「シドー。ずっと、もう、会えないかと思っていた」

「……起きてたのか」

 トウカはゆっくり頷く。

「あの後、わたしは軍に連れられ、いろんな『実験』を受けた」

 その言葉にシドウは息を呑んだ。

「実、験……?」

「痛かった。辛かった。苦しかった。時には世界なんて消えてしまえばいい、って思った時もあった。でも、シドーがこの外の世界で待っていると思ったら、何も辛くなんてなかった。でも、何日、何カ月、何年経っても、シドーは現れなかった。それで、今日、諦めかけた時、シドーが、シドーが……」

 そしてトウカは声を立てて泣き始めた。シドウはトウカをしっかりと抱きよせて「ごめんな、ごめんな……」と呟き続けた。

 すると、敵襲を知らせるアラートが響き始めた。

『総員に通達、人類解放軍の巨大空中艦〈アルバテル〉が接近中、総員、第一次戦闘配備。繰り返す……』

「解放軍の艦……? 一体何故?」

 シドウはベッドから立ち上がる。

「……行ってくるのだ。シドー」

「えッ?」

「わたしは、大丈夫だから」シドウに微笑みかける。

「……分かった」

 シドウは格納庫に走って行った。

 

「……すいません! 遅れました!」

『コトリ・ウェストコット、〈スカーレッド・リコリス〉、出るわ!』

 格納庫に到着するのと同時にカタパルトから〈スカーレッド・リコリス〉が射出されたようだ。蒸気がカタパルト周辺を漂っている。

『シドウ! あんたは来なくていい! ただでさえ足手まとい……』

 と、そこで通信が急に切断された。

「た、隊長!」

 シドウは急いで軍服を脱ぐ。軍服の下からはいつでも着装できるようにワイヤリング・スーツを着ている。

 そして〈イェーガー〉を着装し、カタパルトの位置に着く。

「シドウ・タカミヤ。行きます!」

 体に負荷を感じるのと同時にシドウは大空に投げ出された。

「!」

 そこでシドウが見た物は、多数の魔術師(ウィザード)に囲まれる〈スカーレッド・リコリス〉の姿だった。〈スカーレッド・リコリス〉はありったけの弾薬を撒き散らしながら敵を討っていく。普段なら普通の光景だが、今回の相手は人間だ。

「隊長! 何やっているんですか! 相手は人間ですよ!?」

『チッ……出て来たか……うっさいわね! 目標の障害になる奴は全てぶっ飛ばす! それが私達よ! 今までと同じでしょう!?』

 そしてコトリは魔術師(ウィザード)の包囲網を抜け、ミサイルはばら撒きながら〈アルバテル〉に特攻していった。

『うらぁぁぁぁぁぁぁ!』

「たいちょぉぉぉぉぉぉ!」

 そして〈アルバテル〉を貫き、〈アルバテル〉が避けるようにして爆発した。

 

 帰艦したシドウが廊下を歩いていると湿布を複数個所に張り、いつもと同じようにたばこを吸うコトリの姿があった。

 シドウは先ほどの怒りを押さえきる事が出来ずにコトリの元へと歩み寄る。

「隊長!」

「……何?」

 コトリは嫌そうに眉をひそめる。

「何で味方を殺す必要があった――」

 その瞬間コトリに肩を掴まれ、反対側の廊下に叩きつけられる。

「うっさいんだよ。アンタは」

「ッ!」

 シドウは息を呑む。この殺気は今までの物とは違う。

「あの艦にはカンナヅキの親友が乗ってた。でも、野放しにすれば私達が捕まる」

「じゃあ、何でこんなことするんですか! 『目標』って何なんですか! 何故トウカが必要なんですか!」

「……うっさいつってんだよッ!」

 コトリが拳を構え、シドウの右頬に鈍い痛みが走った。

「うっ……」

 シドウは壁にぶつかり、崩れ落ちた。

「私たちは、生半可な覚悟でやってんわけじゃないんだよ! アンタだって、妹を助ける為に軍に入ったんだろ!」

「……隊長」

 コトリは胸のポケットから通信機を取り出した。

「総員に通達、区画B-3にて危険思想を持つ兵士を発見。速やかに拘束せよ」

「え……?」

 シドウはすぐさま現れたオペレーター達に拘束されてしまった。

「独房で、しっかりと頭を冷やすのね」

 

「おとなしくしてろよ」

 シドウはその言葉と共に暗く、冷たい独房に乱暴に放り込まれた。

「………」

(アンタだって、妹を助ける為に軍に入ったんだろ!)

「マナ……か」

 軍に入る為に家に置いてきた妹だ。しかし、有史以来の大爆発、『空間震』によって消息不明となり、遺体も発見されなかった。

 

「『空間震』――ピラー・オブ・レインボー……原因は何だったかな? リョウコ・クサカベ大尉」

 ウッドマンはリョウコによって届けられた紙の資料を見ながら訊ねた。

「はっ、天宮市の研究所の実験の失敗によって引き起こされたものだと聞いております」

「実験の失敗か……何の研究だ?」

「いえ……そこまでは分かりません。しかし、軍の研究施設にその研究に関わった者がいるとのことです」

「ふむ、それは後回しにすることにして、シドウ・タカミヤについて聞こう」

 ウッドマンはページを捲った。

「はい。本名、シドウ・タカミヤ。ヨコハマの横須賀軍学校に所属しておりました。模擬戦闘の成績は高く、学年でもトップでしたが、まぁ、真っすぐといいますか……ケンカにもしょっちゅう巻き込まれていたみたいです。その後、〈イェーガー〉に適正があると分かり、第九戦術的顕現装置機動隊に配属されました」

「……それにしても、セカンド・ピラー・オブ・レインボーの混乱に紛れて脱走するとは、計画されたものだとしか思えないな」

「実は、天宮市には昔からとある神話が言い伝えられていたようで、彼らはそれに準じて行動しているのではないかと。まぁ、あくまで個人の推論ですが」

「確か貴官は、天宮駐屯地にいたようだね」

「はい。神話もそこで。内容は覚えていませんが」

「……分かった。ではまず研究員の所へ行こうか」

「え……自ら、ですか?」

 「ああ」とウッドマンは杖を持って立ち上がる。

「私は謎を解明するのが大好きだからね」


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