ー1話・オーバーチュアー
列車の外を眺めると、見たことも無い景色が目の前で過ぎてゆく。さっきまでは夕日を反射していた海が一面に見えていたのに、窓際で休んでいた鳥も気づけばいなくなっている。その代わり数えきれないほどの星々が夜の空を照らしている。
車内は閑散としており、列車の揺れる音と「トトン トトン」と線路の上を叩いている音が車内に響く。これから起こることに気持ちが高まっているのがはっきりと分かる。今さっき寝たのにかかわらず、もう目が覚めてしまった。身体は正直者。昨日まで平静を装っていたつもりだったが、この気持ちに嘘はつけない。
きっと、大丈夫なはず。
なんの根拠もなくそんなことを思っているが、今までのことを思うとこんな緊張はどうでもよかった。
ぼーっと列車の外の風景を眺めていると、いつものあの光景が頭に響く。
暗く静かな、監獄のようなあのお城。‘‘あの‘‘人たちは私に殆ど話しかけてこなく、揶揄され批判されていた日々。自室に籠っていても聞こえてくるあの冷たい声。
「どうして魔法の才能が無いのです?」
「お前はこの城の一人だ。さっさと魔法を使えるように...」
あぁ。またこれか。
首を横に振り、過去を振り払う。こんなこと、思い出したくもないのに何故いつも頭に響いてくるのだろうか。ただ、あの人達の言う事は何も間違っていない。あの家の者として魔法が一切使えないこと自体が異端であり、なにも言い返せなかったのは事実だった。何故魔法がこれっぽちも使えないのだろうか。周りの人は手から魔法をポンポン出していて、魔法陣も描けているのに。どんだけ頑張って実行しようとしても、息を吹きかけないと塵一つ動かせない。
だからこの学校、「ユグノ学園」に進むことを決心した。
ユグノ学園。この世界では五本の指の1つに数えられ、誰しもが目指し、憧れる場所。学園ごとに特徴があり、このユグノ学園では「誰しもが通える」というのが特徴の学校だ。家のお金があるなしに関わらず、性別、性格、年齢も問わない。
ただ、この「誰しもが通える」というのには裏がある。一つ目は入学率の圧倒的低さ。その基本合格率は10パーセント程。実技、座学。この二つの大きな枠組みから、実技では「魔法実技」「剣術実技」
「制御実技」「対抗実技」の四つ。座学では「魔法座学」「薬学」「天体学」「歴史学」の四つ。計八個の中から三個を受験するシステム。合格点は半分。点数は公表されていないから分からないが、大体1000点満点だった気が...
二つ目は卒業の高度。6学年制だが、殆どの人は4年生で途中卒業するのが当たり前。5,6年生は数えられるほど少なく、教師の代わりとして教壇に立ち講義を行うことが許されている。飛び級はあるが、飛び級した人はほぼ0。そんなこんなで、5つの学園の中では「監獄」とまで呼ばれるほどである。まぁ、私に取ってしまえば「監獄」なんて言い過ぎだと思うけどね。
入学試験ではかなり危なかった。なんせ簡単な基礎魔法術の「基」の字も使えなく、試験監督の先生方に少し笑われたのはちょっとムカついた。周りの人は収納魔法で物をもっていっているが、一人だけカバンを持ち試験室に入っているからまあたいそう驚かれた。字も自分の手書きで、魔法文字なんぞそんなものは使えるわけがない。でも、意外と安心したのはカンニングなどが厳しいこの世の中だが、魔法を使えないということが認知された時点でそのような心配がされなかったのはありがたい。試験室で微笑みかけてくれて親切に対応してくれたあの試験監督のおばさんの先生にはあとで感謝しなくちゃ。
ここまで来たからには諦めたくはない。きちんと一人前に魔法が使えるようにならなくちゃ。
あの忌まわしき城から去るため、そして亡くなったおじいちゃんとおばあちゃんに報告するため。その一心で生きてきた。
何一つ魔法を使えない落ちこぼれ。ただ、そんな私でも夢見る景色がある。自分がみんなの前で壮大な魔法を披露すること。そしてあのお城の人たちに認めてもらうこと。
「いつかは私も魔法を使ってみたいな...」
お城に居たときや友達と遊んだ時、楽しそうに魔法を使っているのを見ているからどうしても使いたい。当たり前のように魔法で家事をこなすメイドさん。街中で楽しそうに魔法を使って遊んでいる私と同年代の子達。ずっとそんな光景を影から見てきた。
ただ、そんな私をずっとお姉ちゃんだけは気にかけてくれていた。城の誰からも声をかけてもらえず、ずっと部屋の隅にいた私にいつも話しかけてくれた。魔法を見せてもらったり、座学を教えてもらった。時には一緒に遊んだこともある。私がユグノ学園へ入学することを後押しまでしてくれた。そんな姉妹の仲だった。「私だったら魔法をこうやって使いたいなぁ」と絵日記で書いてたっけ。氷魔法や風魔法、創作魔法も作っていたっけ。魔法陣などの形は色々本で読み、作ることはできたが試すことはできない。お父様にも相手にされなかったから、自分の机の奥底にしまってたな。だから、私もあの日見せてもらった魔法を。お姉ちゃんのような素敵な魔法使いになりたい。
最近になって、魔法の便利さを知るようになり少し困っていることも多い。特にこの移動。ほとんどの人が地点移動の魔法を日常的に使っているので、私みたいに魔道列車を使って移動する人は数少ない。一本逃したら二日は来ない。なんでこんな苦労をしなきゃいけないんだろうか。そんなことだから列車がガラガラ。座っている席の隣には人が来るはずもない。自由にのんびりできることは有難いかな。
聞いた話によると、地点移動はかなり酔うらしい。そう考えると、時間はかかるけどこっちでいいか。
そしてもう一つ願望がある。「音楽」という概念を世界に広めること。
この世界では音楽というもが昔に存在した概念らしい。音を鳴らすことで感情や気持つを伝え、人を幸せにするもの。それが「音楽」というもの。
どういうことか分からないが、「音楽」がとうの昔に消されてしまった。
生憎、おじいちゃんとおばあちゃんの家では「音楽」の古書などが多く残されてあった。なんで隠しておく必要があるのだろう? こんなにも素晴らしいものなのに。あの古ぼろい小屋で見つけたときのわくわくが懐かしい。「音楽」というものがどういうものか。人々が「音楽」をどうやって活用していたのか。気になって気になって仕方がなかった。
あの時は思わず夢中になってしまい時間を忘れ、家に帰るころには夜になっていた。心配した二人が大泣きして幼い私を抱きしめていたっけ。
魔法が使えない能力無しの私が唯一できるものは、小屋の奥隅にあったこの「ナーデ」という楽器を弾けること。楽器というのは「音楽」を奏でる器具という意味らしいのだが、この楽器はとても面白い。どんな音も奏でられる。気分によっても音が変わるし、自分の想像していることや感情を音に出せる凄い道具。これだけは誰にも譲れない自信はある。お城に住み変わっても音楽の興味は薄れることはなく、寧ろ増していった。できなかったことと言えば「ナーデ」を思いっきり奏でられないぐらい。ナーデの短所と言えば音が響きすぎるところ。ナーデは持ち主の心を映す。かなり気を使ってナーデを弾いているが、嬉しかったことがあったときにどうしても音が城中に響いてしまい、何度かお父様に怒られたことがある。自室ではいつもの座学のお勉強のほかに、ナーデを使って奏でられる音を書き出し組み合わせを作っていた。暇を見つけては作り、奏で、書き直しの繰り返し。気づけばナーデは私の日常の一部になっていた。
ただ、何故「音楽」がこの世から消されたのか、いくら古書を探してもお城の図書室を片っ端から調べてもその答えは出てこない。この「音楽」をこの世に広めたい。
そんなこんな色々考えているうちに、段々外が明るくなってきた。列車のスピードも徐々に落ちはじめ、他の乗客は荷物をまとめ始めている。
もう何度出発前に確認したことか。教科書よし、服よし、「ナーデ」よし。そして「リボン」もちゃんとついてる。
列車の軋む音が徐々に無くなり始め、だんだんブレーキ音が増していく。完全に列車が止まり、「ガタガタ」とドアが開く。
これが新しい生活の第一歩。少し弾みながら駅へと一歩を踏み出す。日が昇ってきたとはいえ、まだまだ外は肌寒い。流石にこの羽織物だけじゃ寒かったかな。
駅の出口に向かって足を進める。寂れた小さい駅で降りる人は私を含めて三人だけ。ここからしんどいのは歩いて2時間もあること。何でこんな奥地に建てるのだろうか。早く魔法を使えるようになりたい。
駅を出ると初めて見るこの景色。街は煉瓦に覆われていて赤・オレンジ・茶の色々な色が混ざり、それに調和するかのように一定の間隔で樹木が植えられている。駅前の大通りには人気が無く閑散としているが、所々の家から煙が立ち上っている。
そろそろ鳩新聞が配られるところかな。本で見た真っ白な鳩たちが一斉に飛び立つ何とも言えない綺麗な光景。一度でいいからこの目で見てみたい。
今日から頑張んなくちゃ。大丈夫、いつも通りに。
ふぅ。と緊張を息とともに吐きだし、大通りを歩き学園へ向かう。
──―まだ少女の蒼いリボンは綺麗だった──―
皆さん、お久しぶりです。とまとの水煮缶です。
今回の物語を読んでいただきありがとうございます。本来ならば3月に投稿予定だったのですが、引っ越しなどの作業が重なり小説の続きを書くことができず、ようやく落ち着いた季節となり1話を執筆できることができました。
皆さんは長編の物語をかなり読むと思うのですが、今私の物語はかなり短いと思っているかと思います。そこに関しては小説を書くことが不慣れであり、書いては消し書いては直しを繰り返ししているので時間が掛かり文が短くなってしまっています。そこは目をつむっていただけると幸いです。「はよ次だせぃ!読みたいんじゃ!」というのがあれば、TwitterのDMなどで受け付けているので、意見等など気軽にお願いします。
さて、今回から始まったシーナちゃんの物語ですが、この「力なき少女のプレリュード」では音楽をメインとした物語を作っています。音楽を物語上に響かせるのはなかなか難しくかなり苦戦しましたが、この形に収まりました。これからどう成長していくのかというのを見守っていただけると幸いです。自分が音ゲー大好きなものでその「歌詞が無い音楽」というのを主軸としています。3話辺りで戦闘シーンがある予定なので、そこの表現を楽しみにしていただければ嬉しいです。
次回の投稿は8月辺りを予定しています。遅かったら文句言ってください。死に物狂いで書きます。
とまとの水煮缶